ある日突然猫耳がつきました

でずな

にゃ〜ん



 女子高校生の朝は早い。


「ちょっとぉ〜!! いつまで寝てるのよ!!」


「んへぇ〜……」


 母親のラブコールで目覚める。


 急いで顔を洗いに行き、ご飯を食べ、制服を着て学校へ。普段はこんなふうだが、今日は洗面台で足が止まった。


「なんじゃこりゃ」


 鏡に映る、ブサイクな私の顔の上。

 頭に白い猫耳のようなものがくっついていた。


「いでぇ〜!」


 なにかの見間違いだと思い耳を取ろうとしたらこの始末。

 今まで気づかなかったけど、人間の耳がなくなってる。


 もしこれが政府にバレたら人体解剖が始まってしまう……! と普通の人? というか常識がある人なら、怖くて外に出れないと思う。


 けど、ま、いっか。と、楽観的に思うのが私のいいとこだと思う。


「いってきまぁ〜すにゃ!」


「は〜い。……にゃってなによ」


 猫耳がついたのに疑問に思わなかった母親でさえも、語尾は耳に残ってしまったらしい。


 急いで一緒に学校に行こうと待ち合わせしている、凜花りんかの元にいく。


「ごめんごめん。ちょっと待たせたにゃ」


「いや私も今来たばっかだし。……て、なんでにゃ?」


 お母さんもだったけど、なんで猫耳より先に語尾に反応するんだろう?


「へぇ〜ってことは、小春こはるはなにもしてないけど突然猫耳が生えて、語尾ににゃんがつくようになったんだ」


「そうにゃ。変な飲み物を飲んだり、変な食べ物を食べたりしたわけじゃないにゃ。……早く戻りたいのにゃよ」


「え」


「えってなんにゃ。そ、その残念そうな顔はなんなのにゃ! にゃーは早く人間らしくなりたいにゃ!」


「なんか……可愛い」


「なんかってなんなのにゃ!」


 友達だから真剣に悩んでくれると思ったのに……。

 それから学校につくまで何度もからかわれた。


 学校の人は私が猫耳と語尾が「にゃ」になったにも関わらず、特に何も言われず、当たり前かのように接してくれた。それもそれで歯がゆいけど、普段と変わらない時間を過ごせた。


 帰り道。

 猫耳に視線を感じながら歩いていると……。


「あ、あの!」


 突然後ろから、うちと同じ制服の女の子に声をかけられた。

 バッジの色が同じだから同級生っぽい。


「はい、なのにゃ」


 知らない人だから、ロボットみたいにカクカク動きながら振り返っちゃった。

 

「私、鈴音すずねって言います。……その、声をかけた理由は、その……」


 鈴音と名乗った可愛い女の子は、私の頭の上をチラチラ見ながら気まずそうにしている。

 

 ははぁ〜ん。なるほどなるほど。

 

 目線で何を言いたいのか大体わかったので、ちょっとしゃがむ。


「さわりたいんにゃ? はい、どうぞにゃ」


「あ、ありがとうございます……」


 鈴音ちゃんは震えた声で、両耳を撫で撫でしてきた。

 

 耳撫では、凜花に学校で嫌になるほどされた。

 別に気持ちよくないはずなのに、なぜか鈴音ちゃんが撫でると気持ちいい……。


 耳裏をコリコリしたり、耳を手で挟んでみたり。


「にゃふ」


 変な声が出て、足がガクガクになるほど。


「あっ。えっと、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって……」


「な、中々すごい手付きだったにゃ。是非ともまた撫でてほしいものにゃ」


「もちろん撫でていいのであれば、撫でさせてもらいます。あの……念の為に聞くんですけど、私の家で猫を飼ってて撫でられるの、嫌じゃありませんでした?」


「にゃ!? そうだっんだにゃ。別に気にならないにゃよ」


 猫耳がついて、語尾が「にゃ」になったからと言って、鼻が良かなったりはしてはないので気づかなかった。


「それはよかったです。……では、撫でさせてくれてありがとうごさまきました」


「ちょっと待つのにゃ。これはお願いにゃんだけど、今から鈴音ちゃんの飼ってる猫に挨拶しにいってもいいかにゃ?」



「お邪魔しますにゃ!」


「ど、どうぞ……」


 家の中に入ったら、すぐここに支配者がいると本能が警告を出してきた。

 戸惑ったが前へ。

 のそりのそり慎重に歩いている様子を鈴音ちゃんに笑われながら、ボスの前に到着した。

 ボスはにゃんこタワーで、私のことを見下ろしながら寛いでいる。


「ゔー……」


「ごめんなさい。普段ならこんな声出さないのに……」


 これは、私への威嚇!

 『我が支配域にのこのこと入りよって……』と聞こえてくる。


「にゃうにゃ。にゃー」


 私は鈴音ちゃんに撫でてもらい、『そのテクニックに感動されました……』と伝えるとボスの機嫌が良くなった。


「にゃ」


「頭を前に……ですか! わかりました!」


「え。会話できるの?」


「にゃにゃ」


 『苦しゅうない苦しゅうない』と、気に入られた。

 鈴音ちゃんのテクニックの話おかげで仲良くなれたてよかった。


「ありがとにゃ」


「え? え? 何話してるの?」


 終始、不思議でたまらない鈴音ちゃんに質問されていたが、本物の猫と色々な情報交換ができて楽しかった。



「ちょ小春! もう学校始まっちゃうのに何呑気にしてるの!」


「チッチッチッ。凜花はわかってないにゃ〜。猫っていうのはね、だらけてこそ一流なんにゃよ?」


「そんなの聞いてないわ! ていうかその知識どこか仕入れてきたのよ!」


 猫として当然のことをしたはずなのに、凜花に耳を引っ張られ怒られてしまった。

 

 一応謝っておいたけど、自分が悪いだなんて一切思わない。だって猫だから。

 

 凜花にシバかれてわかった。

 一流の猫の道は長いといことを……。


「なによ。なんでそんな私のことを凝視してるのよ」


「にゃふっ」


「だからなに!?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある日突然猫耳がつきました でずな @Dezuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ