ゆるふわ宇宙人は『恋愛』の夢を見るか? ~おうちデートの相手が糖度マシマシだったのだが~
ささき彼女!@受賞&コミカライズ決定✨
第1話:非科学的なボーイ・ミーツ・ガール
『
研究室長からそう言われた俺は公園でひとりブランコをこいでいた。
きいきいという金属音が夕焼けの中に切なく響く。
「……こんなはずじゃ、なかったんだ」
高校在学中から飛び級で【
所属先の
まだ10代ではあるがアカデミアにおいて年齢はまったく関係なし。結果が
アカデミアでの【進退】は非常に明確。
一年間、好きな研究をして良し。
研究費もお
その代わり、期末に機関内で行われる
評価が ○ → 翌年も残留。
評価が × → 即、クビ。しかもそれまでのお賃金の9割を没収!
うん。明確だけど非情で無情だ!
特にお賃金の没収の部分、ブラック企業もいいとこだろ!
なんで過去に働いた分を没収されなきゃいけないんだよ! どう考えても違法だろ!
……と機関を訴えた人が過去にいたが、その人は裁判で敗訴し逆に賠償金を支払うハメになったらしい。
完全にこの機関、クロだ。
――しかし、クビにならない分には『最高の環境』なんだよな。
厳しい制度は切磋琢磨を目的としたモノらしいが、俺には地獄の窯で行われる
当然生き残ったやつらの研究は【世界中の人々の役に立つ】わけだけどさ。それがアカデミアの理念でもあって。
「俺が入関を決めた〝理由〟でもある」
若年とはいえ一応は研究者の端くれだ。
自分の研究が〝世界の役に立つ〟なんて、まさしく人生冥利に尽きる。
何度でも言うがアカデミアは研究者として最高の環境だ。
クビにならないためには〝成果〟が必要で。
そしてその〝成果〟が――
「このたび、期末学会の直前にして
大きなため息が口をつく。
しかし悩んでいても事態は変わらない。
「うおおおおおお!」
俺はブランコをこぐ速度をはやめて叫んでやった。
「絶対にクビになってたまるかあああ! ――とうっ!」
ブランコが描く弧の最高点で華麗にジャンプをして。
「……ぐはああああああ!」
華麗に着地に失敗して転んだ。技術点マイナス。予選敗退。
「くっ……研究では絶対に、転ばねえ……!」
幸いにも着地先が砂場だったため、大事には至らなかった。
とはいえ肌は擦りむけ血が滲んでいる。デニムのパンツも穴が開いてしまった。
「いててて……」
気づけば夕暮れも深い。世界全体が橙色の郷愁に染まっている。
砂場から立ち上がろうとした――そのとき。
「ん? なんだ、これ」
お尻の下になにか
砂に埋もれたそれを俺は手にする。
「……金属の、板?」
大きさ的にはちょうどタブレット端末ほどの大きさだ。
素材的にはステンレス
叩くと『ぽおおおん』とまるで楽器のように美しい音がした。
「こんな素材、ラボでも見たことないぜ……はっ!」
ぴこーん、と頭の上でライトが灯った。
もしかしたらこの板、
泣きっ面に飴玉、転んだ先の
俺はその謎の金属板をこっそり独り暮らしの部屋に持ち帰ることにした。
――研究のために利用できるものはなんでもしてやるぜ。
なんてニヤニヤしていたら、まわりの親子連れから不審者を見るような目つきをされ、果ては警察に職務質問をされた。
やっぱり転んだ先は泥沼だ。
*
「見れば見るほど不思議な金属版だな」
その四角い板を眺めながら俺は部屋のソファで呟いた。
見て触って舐めて聞いて嗅いでみたが、俺の知る金属のナニとも異なった。
重さもまるでプラスチックのように軽い。そして一番不思議なことは……。
「表面になにも
ふつうこれだけ磨かれた金属面であれば、そこになにかしら像が映りこむべきなのだが……ただ金属特有の
「家の設備だけじゃ限界があるな。明日ラボで詳しく
床のカーペットにぽいと金属板を放り投げておれはソファに横になった。
「まずは
などとぶつぶつ〝明日の金属板の予定!〟を呟いていたら。
『や、
「……ん?」
独り暮らしであるはずの俺の部屋に、甘ったるい声が響いた。
『やえてやえて~。切らないで~とかさないで~』
「女の子の、声……?」
そんなものはこれまで勤勉一筋だった俺にとって最果ての極地に位置する概念だ。
遂には幻聴まで聞こえ出すほどに深層心理で飢えてしまったか? などと自己
『あ、
声に声かけられた。
相変わらず過剰摂取で糖尿病になりそうな声だ。
「……へ!?」
そして俺からは『あなた、糖尿病です』と医師から告げられた時のような声が出た。
しかしそれも仕方ない。なぜなら。
『
さっき床に
ゆらゆらと揺れる〝
「んだよこれ、テレビの画像でも反射したか?」
『うゆ~? て、れび? ってなんですか~?』
さっきから『あや~』とか『うゆ~』とか、感嘆のオノマトペですら甘ったるい。
そもそも一体こいつはなんなんだ? テレビの概念が通じてないぞ?
『は、はじめまして~
「人生で最初で最後の質問だな。俺が人間かどうか? 満を持してイエスだ」
『ほ、ほんとですか? やった~ついにやりました~
話の流れ的に、この金属板を通してこいつのいる場所と俺の部屋がつながった、ということだろうか。
「つながったんなら顔を見せろよ。最近のWEB会議じゃそれがマナーなんだぜ?」
都合のいい時だけマナー講師の言葉(俺の創作)を持ち出してみた。
なにしろ先方からは甘美な〝声〟しか聞こえてこない。まずは顔を見る。話はそれからだ。
別に可愛さを判断するわけじゃない。俺の
もし好みだったら〝前傾姿勢〟で接するし、好みじゃなかったら〝やや前傾姿勢〟で接する。思春期男子の
しかし。
『か、顔は……恥ずかしいですう~』
銀色の画面の中でアップになった頭がふるふると震えた。
『わ、私、
「奇遇だな、俺もなんだ。ここは同じ人見知りのよしみで語り合わないか? 拳を突き合わせてな」
『え? ……いいんですか?』
いいんですか、が前の文章のどの部分にかかっていたかは分からなかったので、全力で頷いておいた。
『わ、わかりました……
「うん?」
『しつれい、しまして』
「……うんんんん?」
俺の目は見開いていく。
なにせ。
金属板の中から、3D映画よろしくの立体的な〝腕〟が伸びてきたからだ。
「へえええええええ⁉」
『あなた糖尿病の上に高血圧も合併してますよ』と宣告されたような声が出た。
若くして代表的な成人病の7割弱をコンプした俺はその伸びてきた腕に掴まれて。
――金属板の中へと、引きずりこまれてしまったのだった。
混乱し驚愕する
(実在した超常現象……こいつは期末研究はもらったな)
などと、どこまでもあくどい――じゃなくて。
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