第5話 トリは雉、ミドシフター登場!

 「良し、チグサはそのまま奴をアカネがいる場所まで熊を追い込め!」

 

 「かしこまりました♪」


 太郎がウコンの雲に同乗し、上空から俯瞰して犬となったチグサに指示を出す。

 

 それに従ったチグサが、熊を追う。


 熊からしてみれば、自分よりも大きな犬のモンスターとなったチグサから恐怖で逃げるしかなかった。


 だが、熊にとって逃げた先はパラダイスではなく地獄であった。

 

 「赤鬼の金棒、喰らいなさい♪」


 追い込まれた熊を、開けた場所で待ち構えていたアカネが笑顔で金棒で殴打する。

 

 哀れ、アカネの一撃によって熊はその命を終えた。


 「ひゅ~♪ 流石アカネ先輩、これで晩飯の熊肉ゲットだぜ♪」

 

 ウコンがガッツポーズを取った。


 「ああ、追い込みと迎撃どちらも見事な連携だった♪」

 

 太郎も喜ぶ。


 雷猿かみなりざると言うモンスターのウコンをキシフターとして仲間に加えて四人となった、ブレイブシフターズは道中の森にて連携の訓練も兼ねて熊狩りをしていた。


 「熊は肉以外にも、薬に使えるのが良いんですよ大将♪」

 

 「聞いた事はあるが、俺に盛るなよ?」


 薬学にも通じているらしいウコンに太郎が釘を刺す。


 「え~? 悪い薬は盛りませんよ! じゃあ、看病の際は口移しでご恩返しを♪」

 

 「薬は症状に合った物を用法容量を守って、正しく使用しような?」


 シフトチェンジャーでウコンの尻を叩く太郎、ウコンの方は嬉しそうな顔だった。

 

 全員が合流した所で話し合う。

 

 「太郎様、如何でしたか♪」


 アカネが太郎に感想を聞いて来た。


 「良い打ち込みだった、料理の方もいつもありがとう♪」

 

 アカネを褒めて礼を言う太郎。


 「チグサもすまないな、面倒な役を頼んでしまって?」

 

 チグサにも感想を言う。


 「いえいえ、鍛錬になりますから♪」

 

 チグサが答える。


 「ウコンも、雲に乗せてくれてありがとう♪ 俯瞰できるのは助かる」

 

 「大将と一緒なのが、ご褒美なので喜んで♪」


 ウコンにもきちんと礼を言う太郎であった、そんな訓練の後で食べた熊鍋で仲間達の結束は深まった。


 その後も、太郎の提案により彼らは定期的に足を休め狩猟での連携の稽古をした。

 

 「さあ、太郎様♪ 足腰に力を入れて私を、押し切ってごらんなさい♪」

 

 「ああ、行くぜ! うおおおっ電車道!」

 

 「すり足が大事ですよ♪」


 と、アカネを相手に森の中で太郎が相撲を取る。


 「大将、足を肩幅に開いて腰を落として両腕はビシッと脇を締めて突き出す!」

 

 「おう、そして臍の下に意識を集中して腹で呼吸!」


 所変われば。岩山の上でウコンが太郎に拳法の稽古で体幹を鍛えさせる。


 更に場所が変わり川原での稽古。


 「ご主人様、行きますよ♪」

 

 「来いチグサ、はあっ!」


 チグサが投げる苦無を、太郎が木刀で受け流したり弾き返す剣の稽古。

 

 そんな風に、仲間から太郎が稽古をつけてもらう形式の鍛錬を行う。

 

 太郎だけでなく仲間達同士での格闘や、武器術に魔法の稽古と互いを知り鍛えて高め合う流れで旅を進めたていた。


 「ほう、術と言うのはこの世界の魔法か?」

 

 ある日の野営で、魔法の稽古。


 太郎がウコンを先生役に、この世界の魔法について教わる。


 「イエス♪ この世には大まかに人の術、妖魔の術、神の術の三つがあります」

 

 ウコンが太郎の記憶を見て、教師風のスーツ姿になって講義する。

 

 「なるほど、ウコンのそれは妖魔の術というのか」

 

 太郎が納得した。


 「他にも人の術も使えますよ♪ 神の術ってのは、私らが使ってる神器の力とかがそれですね♪」


 ウコンが解説を続ける。


 「人の術は、私が少し使えます♪ えぃ♪」


 チグサが答えて、手を光らせて実演して術を見せてくれた。


 「その手が光る術は、人間が妖魔をまともに殴れるようになる術ですね」

 

 アカネがむすっとした顔で答える。


 「ああ、先代の頃はオーガと人間と妖魔は仲が悪くてですね?」

 

 ウコンがたじたじになる。


 「いえ、そう言う悲しい過去を終わらせたのが父と先代様ですので」

 

 アカネが笑顔を取り戻す。


 「そうか、なら俺もこの第二の故郷で皆とそう言う悲劇を退治して行きたいな♪」

 

 太郎の言葉に皆が頷いた。


 「大将は、そう言う所は優しいですねえ流石です♪」

 

 ウコンが太郎を褒める。


 「ええ、太郎様は私と初めて会った時もきちんと女子として扱ってくれました♪」

 

 アカネが思い出して頬を染める。


 「私の時も、ご主人様は普通の退治屋みたいに退治するのではなくこうして人の姿を取り戻してくれましたしね♪」


 チグサも想い出して語る。


 「そう言えば太郎の大将、私が子猿に化けて倒れたふりしてた時も躊躇わず助けに来ていただきましたねえ♪」


 ウコンもこの前の事を思い出す。


 「おいおい、照れくさくなるな恥ずかしい! 俺は、自分の感じたままに動いただけだからな?」


 太郎が仲間達の言葉に照れる。


 「それはわかりました、ですが太郎様の御身が危険と判断しましたら仲間一同でお止めいたしますね♪」


 アカネが笑顔で釘を刺した、チグサやウコンも同意の頷きをした。


 「ありがとう、だが俺の身もだがお前達の身も俺には大事だからな?」

 

 太郎が仲間達に答える。


 「大将、さりげなくそう言う惚れさせる言葉を言うのは狡いです! もう、大将の人たらし!」

 

 ウコンが太郎にツッコんだ。


 「……ふ~む、今宵の宿は如何いたしましょうか?」

 

 立ち寄った茶店でアカネが太郎に尋ねてきた。


 「そうだな、この先の村は聞いた限りだと宿はなさそうだしな」

 

 太郎が頭を悩ませる。


 「宿があっても、人外お断りと言うのが人里では多いですからね」

 

 チグサが溜息を吐く、彼女も妖魔扱いで宿屋から駄目だと断られた事を思い出す。


 「洞窟に放置された空き家や、無人の寺もこの辺りにはないみたいですね」


 ウコンも残念がる。


 「まあ、そうなるとすまないがまた人気のない森で野宿かな?」

 

 太郎が仲間達に謝る、変身勇者でも宿には困る。


 太郎はまだまだ、オーガシマと言う世界の事情について知らなかった。

 

 「申し訳ないのはこちらの方です、太郎様にご不便をおかけして」

 

 アカネが謝って来た。


 「いや、アカネ達は悪くないし皆がいない方がずっと不便だ! 皆ありがとう♪」

 

 太郎はアカネだけでなくチグサやウコンにも礼を言う。


 「……あのう、妖魔使いようまつかいのお客様? 宿でお悩みでしたらこんなお話が」


 と、茶店の女将である老婆が太郎に話しかけて来た。


 何でも、雀の妖怪達が宿を営んでいる場所が近くにあるらしい。

 

 「そうか、運が良い♪ そこに行って見るよ、ありがとう」


 太郎は女将の老婆に礼を言い代金を支払って仲間達と店を出た。


 「ウッキ~♪ ブレイブシフターズ、妖魔退治に出陣ですね♪」

 

 ウコンが気合を入れる。


 「うむ、今宵の夕餉は焼き鳥ですな♪ おまかせあれ♪」

 

 アカネも殺る気でチグサは涎を垂らしていた。


 「待て待て! 人や妖魔に対して、悪い奴らじゃないかもだからな!」

 

 普通に金を払って泊まる気だった太郎が仲間を止める。


 「では、太郎様に悪さをすればブレイブシフトで焼き鳥と言う事で♪」

 

 アカネが告げるとウコンとチグサが賛成する。

 

 「あ~もう! じゃあそれで行こう!」

 

 太郎は仲間の意見に合わせる事にした。

 

 茶店の女将から聞いた竹林を見つけた一行。

 

 「ここが雀のお宿かな?」


 竹林の入り口に宿の名を書いた提灯が飾ってあった。

 

 「まずは普通に参りましょうか♪」

 

 アカネが太郎に微笑む。

 

 チグサもウコンも、雀が食いたくてウキウキな表情であった。

 

 「ジャストモーメント!」

 

 突如空から、バサバサと羽音と共に太郎達の傍に舞い降りた者がいた。

 

 「そちらはどなたですか? 我らは宿を求める旅の者ですが?」

 

 アカネが男装設定を想い出して演技して語りかける。

 

 「私はキジ―! そこの宿の養女だった者だよ!」

 

 キジ―と名乗った、短い緑の髪に目の周りが真っ赤な美少女カウガールが名乗る。

 

 身に纏う茶色の上衣、カウボーイハットにホットパンツにブーツと出自が怪しい雉の妖魔のキジ―にキョトンとする一行。

 

 「と言う事は、今は違うのかな?」

 

 太郎が尋ねるとキジ―が頷く。


 「今この宿に救ってるのは、パパとママを殺して宿を奪ったタヌキ野郎だ!」

 

 キジ―が鳴きながら羽の付いた腕でダブルバレルピストルを取り出す。


 「そうか、お前は運が良い♪ 俺達、ブレイブシフターズが力になるぜ♪」

 

 太郎が笑顔でキジーに桃饅頭を差し出す。


 「ありがとう、実はお腹が空いていたんだ♪」


 太郎の笑顔に絆されたキジーは、桃饅頭を大口を開けて一気に食らった。

 

 「……ワッツ! 何これ、頭の中に情報と力が入って来る!」


 桃饅頭の効果でキジ―は太郎達の事を知り、変身勇者の力を手に入れた。


 キジ―の持つ銃も、緑色のプラスチックに似た謎物質性のヒロイックな物に変化していた。


 「オッケー、ボス♪ ブレイブシフト、イエ~~ッ♪」


 やかましくシフトチェンジャーを手に向けてぶっ放し、降って来た緑色の光の玉を浴びるキジー。


 光の玉が消えると彼女は、カウボーイハットと鳥の頭を模したヒーローマスクとトラックスーツの手足に鳥の翼のようなフリンジの付いた緑色のヒーロースーツをその身に纏った戦士へと変身していた。

 

 「アイアム、ミドシフタ―ッ♪」


 診度シフターがが名乗りを上げて、ダブルバレルのソードオフショットガン型のシフトチェンジャーを構えてポーズを取った。


 「よし、ついにブレイブシフターズが五人になったぜ♪」

 

 自分も終えたシロシフターが喜ぶ。


 「では、メンバーはこれで打ち止めと言う事で参りましょう!」

 

 アカシフターが宣言する。


 「同感、もうお嫁さんは増やさない方向でお願いしますね♪」


 アオシフターもやんわりと釘を刺す。

 

 「大将、やっぱり人たらしですよ!」

 

 キシフターがツッコむ。

 

 「よろしくねボス、皆♪」


 ミドシフタ―が何にも気にせずフレンドリーに接する。


 「ようし、これで五人になったので改めて異世界戦隊いせかいせんたいブレイブシフターズの旗揚げを宣言する! さあ皆、悪党退治に出陣だ♪」

 

 シロシフターが叫び、戦隊結成を宣言する。


 こうして、五人戦隊としてのブレイブシフターズが誕生した。

 

 ブレイブシフターズが大騒ぎをしていると、竹林の方から人間サイズの武装した狸の妖怪達が現れた。


 「……な、何もんだてめえら! ここは俺達、狸のシマだ!」

 

 竹槍で武装した狸妖怪の一人が問いかける。


 「名を問うたな? お前は運が良い♪ しっかり名乗るぞ皆♪」


 シロシフターが叫ぶ、異世界戦隊ブレイブシフターズの初名乗りが始まった。

 

 「天からこの世にやって来た♪ 白桃の変身勇者、シロシフター!」


  何処から出したのか、ほら貝を吹いて名乗るシロシフター。


 「唸る剛腕、悪党は金棒で砕きます! 赤鬼の変身勇者、アカシフター!」

 

 ドンドンと、陣太鼓を鳴らして名乗るはアカシフター。


 「月夜に悪党、殺すべし♪ 忍犬の変身勇者、アオシフター!」

 

 綺麗に横笛を吹いて名乗るアオシフター。


 「電光一閃、猿臂えんぴの勢い♪ 美猴びこうの変身勇者。キシフター♪」


 摺鉦すりがねをカンカンと叩いて名乗るのはキシフター。


 「イエ~~~イ♪ 平和を願い銃を撃つ♪ 雉の変身勇者、ミドシフタ―♪」

 

 三味線を鳴らしてミドシフタ―が名乗る。


 

 「我ら五人の変身勇者、異世界戦隊いせかいせんたいブレイブシフターズ♪」

 

 そして、最後にシロシフターが戦隊名を名乗れば、彼らの背後で五色の爆発が発生した。


 この間、敵は芝居が掛かった彼らの名乗りに混乱して動けなかった。

 

 「は! 正気に戻れ野郎ども!」


 狸側の大将が正気に戻るも、もはや遅かった。

 

 「反応が遅い、グンバイスラッシュ!」

 

 シロシフターが手下を一匹斬り殺す。

 

 「今宵の夕餉は、狸汁に決まりです♪」


 アカシフターが宣言し、金棒を振るって行く。

 

 「狸汁♪ 狸、殺すべしですね♪」


 アオシフターが素早く動き回りながら、敵の首を苦無で斬って血抜きを兼ねて仕留めて行く。


 「どいつもこいつも、私達のご飯になれ~~♪」


 キシフターが熊手を振り回して落雷で狸達の動きを止める。


 「残るはあんただけだ、パパとママの仇っ! 風穴開けてやるっ!」

 

 「テメエはまさか、キジーか!」


 ミドシフタ―が狸のボスの腹に銃口を突き付け、至近距離からぶっ放した!

 

 「パパ、ママ、仇は取ったよ♪」


 ミドシフタ―は本懐を遂げた事を呟いた。

 

 こうして、新たな仲間を加えた事件は終わった。

 

 「ガッデム! 宿の掃除しなきゃ!」


 敵を倒して宿を奪還して見たキジーが、汚れた宿の建物を見て叫ぶ。

 

 「わかった、アカネとチグサは料理で俺達は掃除だな」

 

 太郎が分担を決めると皆で作業に取り掛かる。

 

 一夜の宿のつもりが、宿の荒れ具合と大量にできた狸肉の処理の為にブレイブシフターズは数日程の間は雀の宿に逗留する事になったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る