第6話 事件は起こり得るのか 下
狙撃にはライフルの性能と使う弾丸の影響も無限大に大きい。どこから撃つかを特定する上で、次に考えるべきは使う銃火器だ。
「このスナイパー………銃は今までと同じ物を使うかな?」
クルガンは資料の中から被害者のデータを取り出して答えた。
「今まで使ってたのは338ラプア・マグナム弾でしょう?
旋条跡からみて、撃った銃はレンミントンM700なんじゃないかな」
「今回は暗殺者として最後の大仕事になるだろうから、道具も口径もグレードアップしてるかもよ?
ベトナムやアルゼンチンで証明されたように遠距離射撃での50口径弾が有効視されてるからね」
「確かに50口径はラプア弾より、遠くに滑らからに殺傷能力を保持したまま飛ぶことができる。
でも、弾道特性と炸薬量は今回の仕事や“時計”の性格とは合わないんじゃないかな
時計は、それまでずっとラプア弾を仕事で使ってきた。
身体にその弾頭特性が染みついていて、一種の信仰心に似た信頼を寄せていると考えららる。
100パーセント完璧な仕事をするには、0.1パーセントくらいはこの信頼に依存するんだ。
全く同じ条件なら、付き合いの短い50口径より、付き合いの長いラプア弾の方が当たると信じられるだろう。
理屈の届かない領域でその差が狙撃の合否にでるよ」
「
「まず、今回の条件ならサプレッサーは使わない。
亜音速弾じゃなければサプレッサーの消音効果は薄く、デメリットが多い。
加えて発射速度を落としている亜音速弾ではこの距離の狙撃は不可能だ。
それに、サプレッサーをつける加工を施すのも、僅かとはいえ銃口に重りとなる物を取り付けるのは狙撃の精度に影響が出るから、処理しない可能性が高い。
1発の不意打ちなら、発砲音から即座に発射位置を特定させる可能性はかなり低い。十分に逃げる時間はある。
というか、これだけの距離の狙撃となると永遠に正確な発射位置は特定されないかもしれない。
そして、仮に消音するなら防音パネルを使うだろうな。
サプレッサーを銃口じゃなくて、射撃する場所に設ける感じ、カラオケルームみたいな吸音材で部屋を作ってその中から撃つ。
これだけでも銃声の可聴範囲は著しく狭まるから、きっと狙撃が成功しても、撃った本人以外は誰も“狙撃”とは思えないかもね」
「総合すると、この事件が起こる可能性は高く、阻止は非常に難しい」
「言うに及ばず」
ひとまずFBIが懸念していた、こんな事件が本当に起こるだろうか? という疑問には答えが出た。
「じゃあ、FBIには私たちからもう少し強くその政治家さんを脅す材料を用意してあげようか」
FBIには、本当に事件が起こるという進言に加え証拠データも用意してあげよう。
そうすればFBIは正しい危機感を持てる。
「あなたが割り出した狙撃位置の中で1番難しいのは?」
「さっき言った台形の対角線。1番高い位置から撃ち下ろす時。
位置関係の相対的な角度が小さいほど、弾道計算がシンプルになるからね。逆が1番難しい」
そして、そのデータを示しておけば最悪の事態の時、私たちは“だから言ったでしょ”と保身もできる。
「じゃあ、裏の射撃場にその位置関係を模した状況を用意する」
「………」
「安心して、的はスイカとか水風船だ」
「……………やるだけ………やってみよう」
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