第9話
それから数日後──商人の青年が次の町に行きたいというので、私は護衛を買って出て、いまは砂漠を4人で歩いていた。
「さすがに砂漠は暑いですわね~……」
私がそう言って手で顔を扇いでいると、後ろを歩いている青年は申し訳なそうに「すみません、もうすぐオアシスが見えるはずなので、そこで休憩しましょう」
右隣を歩いているアレンは突然、エリック王子様の方に顔を向けると、「ところでエリック様、何でここにいらっしゃるんだ? 公務はどうしたんですか?」と尋ねる。
左隣に居るエリック王子様は「私も砂漠の町に用事があるのだ」と返した。
「またまた……そう言ってメリルと一緒に居たいだけですよね?」
「ば、馬鹿を言う出ないッ! 其方こそ、なぜここに居る?」
「俺が探しているモンスターがこっちに居るんですよ」
「嘘を──」
私は二人に向かって手を差し出し、冷気の風を送って「はいはい、余計に暑くなるので言い合いはおやめくださいませ~」
「あ、メリルお嬢様。オアシスが見えてきましたよ」
「あら、本当ですわ」
──私はオアシスに草むらに座る。青年は背負っていた荷物を下ろすと「メリルお嬢様、林檎がございますが、食べますか?」
「あら、良いわね。頂きますわ」
私は商人から林檎を受け取り「あ、どうせならカキ氷を食べません?」と提案する。
皆は揃って不思議そうに首を傾げた。どうやらこの世界にカキ氷は無かったらしい。
「なんだ、それ?」
「ふふん。知らないようですので作って差し上げますわ! えっと……ごめんなさい。そういえば、あなたの名前をずっと聞いていなかったですわ」
「私はクルト・エドワードです」
青年はそう答え、ニッコリと微笑む。
「まぁ、エドワード! あらゆる地域で聞いたことありますわ!」
私がそう言うと青年は照れくさそうに頬を掻き「ありがとうございます」
「クルトさん、ナイフはお持ちですの?」
「皮を剥くんですか? 私がやりますよ」
「いえ、それぐらい私でも出来ますわ」
「──分かりました」
クルトさんは返事をして木箱からナイフを取り出す。私に差し出し「気を付けて下さいよ」
「えぇ」
「本当に大丈夫なのか?」と、アレンが冷やかすように言ってくる。
「大丈夫ですって。お任せ下さいませですわ」
私は黙々と林檎の皮を剥いていく──三人は黙って見守っていた。
「あ、痛ッ!」
三人ともイケメンなのに表情が可愛らしくて、余所見をしてしまった私は、指を切ってしまう。
「ほら、言わんこっちゃない!」と、アレンは布袋に手を突っ込み、エリック王子様は「クルトさん、回復薬を!」と指示を出す。
クルトさんは予想をしていたのか、手際よく回復薬を取り出し「はい、王子殿下!」と渡していた。
「ちょっと指を切っただけですわ」と、私は苦笑いを浮かべながらも、皆の気持ちがとても嬉しくて、ほっこりする。
そのうち三人のうち、誰かを選ばなくてはいけない時が来るかもしれない……でもそれまで、ずっとこのままでいたいですわ。
皆の手当のおかげで、私の傷は完治する。クルトさんが私の方へと手を差し出し「危ないので、続きは私がやります」
「分かりましたわ」と、私は返事をして、ナイフをクルトさんに渡す。
「じゃあ私は……」
「おい、今度は何をする気だ?」
アレンはそう言って眉を顰める。
「おろし器を準備しますわ」
「おろし器? 何だ、それ?」
「クルトさんが剥き終わったら、見せて差し上げますわ」
──私はクルトさんが剥き終わるのを待って、氷のおろし器を作る。
「へぇー、これがおろし器か。なんかゴツゴツして危なそうだな」
「このゴツゴツした所で、擦りますの」
「おい、貸せよ。俺がやってやる」
「過保護じゃなくて?」
「良いから!」
「分かりましたわ」
アレンは私にやり方を教わりながら、林檎を擦っていく。
「メリル様。私がお手伝いする事ありますか?」
「じゃあ……エリック王子様は、林檎が終わったら今度は氷を擦るので、そちらをやって頂けますか?」
「承知しました」
こうして役割分担して、私達はカキ氷を作っていく。最後に氷の器とスプーンを用意して──カキ氷の完成ですわ!
「ほぅ……これがカキ氷ですか」と、エリック王子様が、マジマジとカキ氷を見ている。
「溶けてしまいますので、早めに召し上がってくださいませですわ」
「分かりました」
皆、一斉にカキ氷を食べていく──。
「ん~……久しぶりのカキ氷、すっごく美味しいですわ」
「本当、冷たくて美味しいですね……メリルお嬢様! これ、売れますよ!」
確かにこの世界ではない食べ物みたいだし、絶対に売れますわね。
「じゃあ、後で色々教えて差し上げますので、売ってみてはいかがですか? 材料の氷は汚い水だとお腹を壊すといけないので、私が提供して差し上げますわよ」
「はい! 是非!」
「カ~ッ……何だこれ、頭いてぇぞ」と、アレンは言って頭を押さえる。
「ふふ……ガツガツ食べるからですわ」
こうして私達は和やかな雰囲気でカキ氷を堪能した。
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