異世界転生した私は悪役令嬢になっていまして、執事の悪事のせいで追放されてしまいましたわ。でも、わたくしには氷魔法があるから大丈夫ですの。裸一貫、ぶらり旅を楽しみますわ

若葉結実(わかば ゆいみ)

第1話

 名もない森の中。わたくしが商人一人を護衛していると、一匹のスライムが茂みから出てくる。


「メリルお嬢様。スライム一匹ですが、緑は形状を変えたり分裂したりと厄介なので、お気をつけ下さいませ!」


 商人の青年はそう言いながら、私の後ろへと逃げていく──私は銀髪のストレートロングの髪を後ろで束ねて、縛りながら「心配ご無用ですわ! エレガントに退治をしてみせますわよ」


 スライムが攻撃を仕掛けようとジャンプしてくる! 私は右手を突き出し「──アイス!」と、スライムに向かって冷気魔法を放った。


 魔法が当たったスライムは、あっという間に凍って──地面に落ちる。


 私は綺麗に粉々になり、散っていくスライムに背を向ける。そして手のひらを上に向けて、差し出し「ほら、この通りですわ」


 商人は拍手をしながら私に近づき「おぉ……さすがお嬢様」


「さぁ、町に行きますわよ」

「はい!」


 商人は返事をして、私の前を歩き出す。私は後に続いた──この世界に来てから数ヶ月ぐらい経ったかしら? 戦いも随分と慣れてきた。


 不慮の事故により17歳という若さで死んでしまった私は、何故か気が付いたら気品のあるドレスを着たメリルお嬢様になっていた。


 お嬢様らしく、大人しく紅茶でも飲んで過ごす生活も良かったのだけど……小さい頃からオリンピックを目指していた程、体育会系の私は、とにかく体を動かしたくて、町人の護衛を買って出て、過ごしていたのだ。


 ※※※


 商人は町に着くと立ち止まり、私の方を向くと「お嬢様。護衛、ありがとうございました」と、言ってペコリと頭を下げる。


「構いませんわ」

「──あの……」


 商人はそう口にして、俯き加減で髪を撫で始める。


「どうかしましたの?」

「今日はお美しいメリルお嬢様とご一緒出来て、嬉しかったです!」

「まぁ!」

「で、ではッ!」


 商人は余程、恥ずかしかったのか、そう言って町の奥へと駆けて行ってしまった。


「ふふ……」


 あの子、わたくしに興味があるのかしら? まぁ無理はないわね。メリルお嬢様は、出るところが出ていてスタイル良いし、切れ長の目がちょっと怖いけど、瞳がアメジストの様に綺麗だし、顔が整っていて女の私からみても綺麗ですもの。


 まだ幼い顔をしていたけど、身なりの良い恰好していたわね。どこかの良い所のお坊ちゃまなのかしら?


 ──さて、せっかく町まで来たから、ちょっと寄り道してから帰りましょうかね。


 人気のない道を、ゆっくり歩いていると、「あ、メリルお嬢様」と、後ろから男性が声を掛けてくる。


 足を止め後ろを振り返ると、執事のカリムが買い物袋を両手に抱えて立っていた。


「あら、あなたも来ていたのね」

「はい」


 カリムは返事をして、鋭い目を細めて微笑む。


「お嬢様は今日も誰かの護衛で?」

「えぇ、そうですわ」

「いかがでしたか?」

「楽勝でしたわ!」

「無傷の様で、随分と腕を上げられたようですね。ところで──」


 カリムはそう言い掛けてグイっと私の耳に顔を近づける。片手で口を覆うと「そろそろ、よろしいのではないでしょうか?」


「よろしい? 何のことですの?」

「侵略の方ですよ」

「え? し、侵略?」


 カリムは私から顔を離すと、真剣な顔で私をジッと見つめる。冷たい視線が、何だか威圧されている様で、とっても怖いですわ。


「──お嬢様。アドルフ様を独り占めするため、恋敵のエリカ様が住む町を侵略すると、前から仰っていたではないですか」

「えっと……」


 なるほど、そういうことですの。あまりに美しい容姿だから、メインヒロインかと思っていましたが、メリルお嬢様は悪役令嬢でいらしたのね……ショックですわ。


「ごめんなさい、そうでしたわね。でも気が変わって……そんな悪い事、出来ませんわ」

「──左様でございますか」


 カリムはそう言って、歩き出す。私の横に並ぶと「非常に残念です」と、低い声で言って、歩いて行った。


 私が悪役令嬢という事は、カリムも悪役の執事? 白髪交じりのオールバックに強面だから、そんな気はしないでもないけど……まぁとにかく、しばらくはカリムから距離を置きましょ。関わらないのが一番ですわ!


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