初心者研修
広さは、やや広めの部屋といったぐらいか。
石畳の床、高い石壁、空は青、背後の鉄扉が閉じられると真四角の深い穴になる。
これでサイズは
それが沢山、いかにここが広いか、それだけゴブリンへの執念が強いかわからされる。
その中に三匹と三人、閉じ込められる。
三匹はゴブリンだ。
見たところ怪我も病気もない、健康な成体、これにもオスメスいるらしいが、見分けはつかない。
それが三匹、反対側の石壁にへばりつきながら血走った目でこちらを見つめてくる。
見つめられるは三人、俺と男と女、皆この度このゴブリンパークで働くことになった新入りだった。
男はヘラヘラと笑っていた。不謹慎に、面白そうに、まるで遊びに来てるかのようだった。
対して女は震えていた。体を縮こませ、怯えるように、すぐにでも逃げ出しそうだった。
そして俺、三人は揃いのツナギ姿で、手にはまっすぐな、箒やモップの頭を取ったような、長い木の棒を一本づつ渡されていた。
「あーあー」
檻の中、どこからか声が響く。
「これは初心者研修の一環の適正テストです。実力を見るのではないので上手くいかなくても安心してください。それでは、始めてください」
「あの、何を?」
女が間抜けな質問呟くや、男が答えるように振りかぶり、投擲した。
まるで槍投げ、まっすぐな一撃は端のゴブリンのその背中にめり込んだ。
「ごがぁ!」
汚い音を立てて崩れ落ちる一匹、素早い殺害、だが悪手だ。
俺は駆け出す。
死んだゴブリン、その隣のゴブリン、怯えて壁に体を押しつけながらその目線は同族の亡骸へ、だが哀悼も祈りの言葉もなくすぐに視線は刺さった棒に向き、そして手を伸ばす。
……ゴブリンは魔物にしては賢い方だ。
武器を作り出すことはできなくとも見よう見まねで振り回すことはできる。
だからゴブリンを殺す時は飛び道具は禁止される。弓矢、投げナイフ、投石も、拾われ学ばれ真似されればそれだけ今後の脅威が跳ね上がる。
素人が犯しがちなミスだった。
ボギ!
棒に届く前の手首へ、俺の棒の一撃、骨折粉砕の手応え、間に合った。
「ぎゃああああ!!」
たかが手首を叩き折られたぐらいで大げさに騒ぐゴブリン、みっともない。これが真っ当な種族なら、それが子供であっても、声を上げずに食いしばり、折れてなお棒を掴んで引き寄せていただろう。
それがどうだ。手首抱きかかえて転がり周り、意味もなく不快音を撒き散らして、みっともない。
やはりゴブリンは殺すべきだ。
俺は棒を両手で持ち直し、転がるゴブリンの頭へ、しっかりと芯を捉えると、体重乗せて押しつぶす。
ゴシャ!
頭蓋が押しつぶされる手応え、色々飛び出て派手だが、実際はなかなか死なない。助からないだけ、あまり上手い手ではないが棒ならば仕方ないだろう。
これで残るは一匹と、一人だった。
「あ。あ、あ。あ」
驚いたことに、そして呆れたことに、女はそこから動いていなかった。
その手の棒と一体化したみたいな棒立ちで、ここまでして見せてまだ何をすべきかわかってない様子だった。
正しく初心者、これは同僚になるかと思うと思わず天を仰ぎたくなる。
だがそれを見捨てるか否かが、ゴブリン か否かを決めるのだ。
突き刺さってた棒二本を引き抜き女の元へ、正面立っても動けない肩を掴んで引きずるように前へ、最後のゴブリンの前へ。
十分届く距離、けれどもまだ女は動けず、ただ助けを求めるように俺を見るだけだった。
ため息。
もういい。最後までやってやる。
女の両手を掴み、指の上から棒を握り、先端をゴブリン へ。
「あ、。あがぁ!」
愚かなゴブリン でも流石にここまで来たら己の運命を悟ったらしい。だが悟っただけで、受け入れられないのがゴブリンだ。
二足歩行を忘れて這いずるように逃げる滑稽な姿、その前に立ち塞がるのは投擲の男だった。
「よっと」
軽い掛け声で放つは足払い、突いてたゴブリンの両前脚払いのけ、ごろり転がし逃げ足塞ぐ。
そして顕となった喉の付け根に、俺は棒の先端を押しつける。
「後は、体重をかけるだけだ」
説明、同時に実演、だが女は抵抗する。
振り払おうとする手足、背ける顔、それは許されない。
「目をそらすな」
ビクリ、女が跳ねる。
「どんなに嫌でも、どんなに汚くても、これが仕事だ」
グギョ!
喉潰れて、ゴブリンが死ぬ。
その間女は、薄眼を開けるのが精一杯だった。
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