第36話 子供


 王家の真墓。


「ここはそう呼ばれる場所でございます」


 遜った態度で、宰相はそう言った。

 毛根死滅してると思ったけど、ちょっと生えてんだな。


 王家の真墓、ピラミットや古墳と似たような意味合いの場所なのだろう。

 王宮の地下には、かなり広大な空間が広がっていた。


「本来は王家に名を連ねる者以外では四大公爵家の当主と私、そして十二聖騎士しか立ち入りは許されておりません」


 確か主人公は公爵家の次男。

 しかも、若くして宇宙船で宇宙に飛び立ちこの惑星に帰って来る場面は少ない。

 公爵家当主しか立ち入れないなら、ゲーム内にこの場所が登場しないのも頷ける。


「そんな場所に俺を入れていいのか?」


「えぇ、貴方の権力、武力は既に公爵家当主を上回っている。私はそう判断しました」


「王の許可も取らずにそんな事を決めていいのか?」


「あんな愚王の意見など必要ありませんよ。あの馬鹿が王家を継いだばかりに、魔族への侵攻等と言う無意味な事をしなければならなくなった」


 あぁ、それもあいつの我儘だった訳だ。

 そりゃそうか、宰相クラスが魔族と王国の武力差を理解してない訳が無い。


「だが、聖騎士とやらを投入すれば勝てたんじゃないのか?」


「聖騎士は常に12人しかいません。国土をこれ以上広げても守り切るのは無理ですよ」


「常に?」


「えぇ、その解答もこの中にございます。ご自分の目でお確かめください」


 賢い禿げだ。

 ガイアが負けるのを見届けた十秒後には、こうして俺の力量を明確に推し量り、然るべき対応を見せた。


 パワハラ紛いに詰めても良かったが、そんな事が俺の得にならないと察知しているのだろう。


「是非とも、貴方には次の宰相になって頂きたい物ですね」


「御免だ。あんたが今の適材だろう」


「老体を少しは労わって欲しいのですが」


「後100年は働いて貰うさ」


「御冗談を……」


 俺がギャグを言ったとでも思ったらしい。

 宰相が小さく笑いながらガイアへ目くばせした。


 ガイアが頷き、その怪力で巨大な大扉を開いていく。

 先にガイアと宰相が中へ入り、扉の横に控える。

 その中央から、俺は中へ踏み入れた。


「右に2代目から31代目までの棺がございます。左は32代目から57代目の棺です。そして中央、最奥にございますのが初代国王陛下の棺になります」


 そう説明を受けながら部屋を見渡す。

 確かに左右30個近い棺桶が並んでいる。

 そして、中央に段差がありその上に一際豪華な棺が置かれていた。


 しかし、その棺桶の蓋だけが何故が外されていた。


「中にはミイラが入ってるのか?」


「えぇ、初代国王陛下以外は全て実物の遺骨が埋蔵されております」


「初代国王は?」


「不明です。何分この場所は記録に残らぬ別世界、私がこの場所を知らされた段階では、既に遺骨は紛失しておりました」


「なるほどな」


 どうでもいい話と言えばそうなのだろう。

 何百年、いや何千年前の国王の骨なんてどうでもいい。


 けれど、そんなどうでもいい会話にでも興じなければこの動悸を抑えられそうにない。


「なぁ宰相」


「はい?」


「あれが何か分かってるのか?」


 それは、初代国王の棺の更に奥。

 壁に埋まる様に保全されている巨大な楕円形の物体。


 震えを抑えながら、俺はそれに指を差し向ける。


「あれ? あぁ、私には理解もできませんが大昔の芸術品の一種なのでは?」


 ふざけるな。

 そんな訳があるか。

 俺はあれを知っている。

 俺はそれを貯蔵していた。


 ある程度、ゲームが進むと莫大なマナライトクリスタル、つまり魔石が必要になっていく。

 そのマナライトクリスタルを集める方法、いやこれ自体がマナライトクリスタルの原石なのだ。


「まだ孵化はしていないのか?」


 楕円形の物体には割れ目の様な物は見えない。

 欠けている様子もない。

 同じくくりでも、種別によって孵化に必要な期間は変わる。


 それこそ数千年の時間を卵の状態で過ごす種類もいる。


「孵化? 一体、何の話をしてらっしゃるのですか?」


 宇宙怪獣の卵の殻。

 それが、マナライトクリスタルと呼ばれる物質の主な生産方法だ。

 だから、宇宙での燃料確保には宇宙怪獣を討伐するのが手っ取り早い。


 俺の目の前にあるこの卵は、その宇宙怪獣の卵に相違ない。

 王家の守る力の正体。

 十二聖騎士なんて意味不明な存在を生み出す根源。


 それがもしも宇宙怪獣であるのならば、納得できる話だ。


 今壊すか?

 いや、もしも破壊と同時に中の怪獣が飛び出して来れば今のアークプラチナの戦力で迎え撃つのは不可能。

 今の俺じゃ、最低ランクの宇宙怪獣にだって勝てやしない。


 刺激するのは得策じゃない。

 だが、放置していれば何れこいつは孵化する。

 そうなればこの星は終わりだ。


「なぁ、初代が死んでから今どれくらいの時間が経ってるんだ?」


「初代国王陛下が死んでからですか? この国の設立が約2700年程前ですので、2600年程かと」


 宇宙怪獣の戦力ランクは、殆どの場合卵の生長期間に比例する。

 1000年級、Sランクがゲーム内で最高ランクだった。


 それの二倍以上。

 こいつは、俺が知っているどの宇宙怪獣よりも強力な可能性すらある。


 俺は宇宙船を使い、この星で悠々自適に不自由なく暮らそうと思っていた。

 少しだけ平和にしてやればいいと思っていた。

 けど駄目だ。

 こいつを倒すなら俺じゃ駄目だ。


「クソが……」


 恨みの籠った視線を卵に向ける俺を、宰相とガイアは不思議そうに見ていた。

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