暗闇に呵うもの

平中なごん

一 バイトの依頼

「──ってことで、今回もまた頼むよ。バイト代はずむからさあ」


 コンビニでのバイトの休憩中、友人の夜見真明よみさねあきからの着信があったので出てみると、そう言って彼の仕事の手伝いを頼まれた。


「まあ、お金もらえるなら別にいいけど……どうせ暇だし……」


 その依頼に、バイト代につられた俺は考える間もなくそう答える。


 俺の名前はら福来善朗ふくらいよしろう。某事務所の養成所を出た、一応、ピンのお笑い芸人だ。


 だが、どうやら俺のお笑いセンスはまだまだ世の人々には早いらしく、いまだ芸人としては食えていけず、バイトで日々の糊口を拭っているのが現状である。


 つまりは、いわゆる一つの〝売れない若手芸人〟というやつであり、ともかくも臨時収入が入るのはありがたい。


「でもよお、おまえでも手に負えないくらい、今回はそんな難しい仕事なのか?」


 だが、夜見の仕事は少々特殊なので、念のため、そこのところは確認しておく。


 今回が初めてではないが、やつが俺を頼るのはそんな頻繁にあることじゃない。となれば、そうとうヤバイ案件ではあるのだろう……。


「いや、僕だけで無理な時でも、大概は知り合いのプロ・・に頼んでどうにかなるんだけどね。ところが今回はみんなに匙を投げられた。って言っても、君はいつも通りにすればいいだけだから、難しいことはぜんぜんないよ」


 しかし、そんな俺の懸念に、スマホ越しの夜見はいつもと変わらぬ穏やかな声で、特に狼狽する様子もなくそう答えた。


 夜見が嘘を吐くとも思えないし、その言葉を信じてもいいだろう。


 ま、俺には夜見のような力・・・・・・・があるわけではないし、いずれにしろ俺にできることをするまでだ。


「ああ、わかった。それじゃ、いつにする? どこに行けばいい?」


「早くしないと犠牲者が増える可能性もあるんでね。急で悪いんだけど、今夜、バイト終わった後に◯◯駅に来てくれないかな?」


 依頼を承諾し、俺が予定を確認すると、言い淀むこともなく夜見はそう訊き返してくる。最初からそのつもりだったのだろう。


「乗り換えしないで行けるな。じゃあ、11時半ぐらいでどうだ? バイトあがって電車飛び乗ればそのぐらいになる」


「了解。じゃ、そういうことで。悪いけどよろしくね」


「おう。んじゃあとでな」


 ほんとに急なことだが、悲しいかな、芸人としての仕事はほぼ皆無なのでスケジュール的に問題はない。早々に話がまとまると、俺達は互いに電話を切った。


「おっと、もう休憩終わりか……しっかし、犠牲者が増えるって、やっぱヤバイ案件なんじゃねえのか?」


 通話をオフにしてスマホの画面を見ると、すでに仕事再開の時間となっている。俺は一抹の不安を覚えつつも、急いで休憩室を飛び出した──。

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