第914話 箸休め!?ラーメン屋は大繁盛!
リグリス連邦で、アレク達がはた迷惑な争いに巻き込まれている最中、ラーメン屋はというと、ストレンの街になくてはならない場所となっていた。
「オヤジ、いつものを頼む」
頬に、深い傷痕がある身なりからして冒険者だとわかる男が、ドカンと勢いよく椅子に座った。しかも、頼み方からして常連のようだ。
「いつになったら、その魔道具から頼むんじゃ?餃子とビールとずらして豚骨ラーメンじゃったな?」
「魔道具は、便利なんだが、やっぱり頼む時はオヤジと話したいもんだろ。注文と金は、あとで魔道具に入れてるからいいだろ?おう。餃子とビールを先にくれ」
アレクの先取りした魔道具による注文は、確かに便利ではあるが、この世界では馴染みがないのと、店主と話したいお客さんが多いようだ。
「そうじゃな。お主以外にも、直接注文する者ばかりじゃからな。ワシも、それでええかと思っとるわい。すぐ餃子を焼くからのぅ。待っとれ」
マンテ爺は、手慣れた手付きで餃子を並べて、経験からくる目分量で水を入れる。
「金を払う手間が省けるのはいいが、夜中の経営だからな。そんなに急いでないと、オヤジと話したくなるもんだぞ。もし、昼に経営するなら、この魔道具は必要不可欠だろうがな」
「お主の言うことは、最もじゃな。ワシも、黙々と作るより、誰かと話してる方がおもしろいからのぅ。昼の経営は、アレク次第じゃろうな。じゃが、他の店にも迷惑じゃから、暫くはないじゃろう」
マンテ爺は、あれから1日も休むことなく、店を開いており、お客さんが何を求めているのかを理解した。そして、マンテ爺本人も店主として働く中で、自分なりの店の経営方針やお客さんとの距離感などを考えるようになっていた。
「俺達冒険者からすれば、昼に開いてたら困るがな。ラーメン屋に居座って依頼に行かなくなっちまう。お〜、いいにおいがしてきたぞ!早く食いてぇ」
鉄板の上の水が蒸発して、餃子のいい香りが店中に漂ってくる。冒険者の男は、目を瞑って鼻から息を吸って美味しいにおいを存分に味わう。
「嬉しいのぅ。うまいと言う声を聞くのもええが、においで幸せそうな顔を見るのも作り甲斐があってええわい。そら、出来たぞい。ビールジョッキも、木からガラスにしたわい。キンキンに冷やしておるから、いつもよりうまいぞい」
マンテ爺は、コテで素早く餃子をすくってお皿に綺麗に並べる。そして、綺麗な焦げ目がついた餃子を冒険者の男の目の前に置かれると、冒険者の男がすぐに箸で餃子を掴んで口に運んだ。
「相変わらずうめぇな。ここでビールを......くっ、かぁぁぁあ。美味すぎるぞ!いつもの倍はうめぇ。なんだ?この冷てぇビールは!?オヤジ、ラーメンは待ってくれ!ビールと餃子を追加だ」
冒険者の男は、餃子を勢いよく頬張ってビールも勢いよく飲み干す。
しかも、マンテ爺は客の心をわかっているかのように言われる前からビールを用意しており、冒険者の男の前に置いた。
「オヤジわかってるな。くぅ〜、こりゃ余計他の店に行けないな。うめぇよ。何杯でも飲める」
冒険者の男は、いつもであれば、ある程度食べた段階で帰っているのだが、今日は朝まで飲み明かす流れになりそうだ。
「豚骨ラーメン2つと醤油ラーメン2つとビール4つ入ってるでしゅよ」
大樹も、相変わらずフヨフヨと浮遊しながら接客をしている。そして、冒険者の男と話し込んでいたマンテ爺は注文に気付いていなかったので、大樹が知らせてくれた。
「大樹、ありがとうじゃ。自分で注文する客が多いから、見落としてしまうわい。すぐ作ると伝えといてくれんか?」
「わかったでしゅ」
「大樹ちゃ〜ん!ごめんね。豚骨ラーメン1つかた麺に変更して〜」
魔道具で注文し間違えたお客さんは、大樹に大声で注文の変更を叫んだ。
「はいでしゅ。じぃじ、豚骨ラーメン1つかた麺に変更らしいでしゅ」
「わかったぞい。お〜、頼んだのは、嬢ちゃん達じゃったか。いつも来てくれてありがとのぅ」
「私達のこと覚えてくれてたのですね。いつも美味しいラーメンをありがとうございます。それに、大樹ちゃんが可愛くて、会いに来てますから」
最近では、大樹目当ての女性やダンディなマンテ爺狙いの女性が増えてきて、初めよりも女性層が格段に増えた。しかも、大通りの店なので、女性も来やすいと評判なのだ。
「ワシは、喜ぶ客の顔を見るのが好きじゃからのぅ。それよりもじゃ、今日はビールがおすすめじゃが、一杯どうじゃ?」
「え〜、どうしよう......え?3人共飲むの?じゃあ、私も飲もうかな。ビール3杯お願いしま〜す」
女性4人は、冒険者の男の飲みっぷりを見て、密かに飲みたかったようで、マンテ爺の言葉がちょうどいいきっかけになって注文するのだった。
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