2047年の国会

山野 終太郎

第1話 国会は変わらない

「人権創造党代表 青山貴志くん」

 先ほどまで質疑に立っていた野党筆頭の中川民政党議員と青山人権創造党議員の質問者交代の間、少し審議会室がザワザワとしたが、すぐにそれもおさまり、委員長の声が高らかに響いた。代わって演台の前にスクッと立った青山議員は徐に話始めた。

 「皆様おはようございます。人権創造党の青山でございます。本日は、社会支援型ロボット活用促進審議会において質問の機会を頂きまして、深く感謝する次第であります。また、本日は、本審議会に神津情報産業大臣だけではなく、お忙しいところ、吉田総理にもご出席いただき、その前で質問できることをたいへん光栄に思います。私の方からは是非、ヒューマロイドの性別転換法につきまして、吉田総理にもその根底にある問題について、総理自身の考え方をお聞きできればと思っております。私の許された質問時間は20分ですが、是非、効率的にお答えをいただきたいので、よろしくお願いいたします」

 青山議員は、現在、野党第二党「人権創造党」の党首である。2020年代前半から、世界各国で次から次へと長期にわたって蔓延した様々な感染症において、後遺症の有無によって、感染者と非感染者の差別化が顕在化した。また、過去から続く宗教や人種、LGBTへの差別は人権運動が進展すればするほどより激しさを増し、更には、2030年代に入り、放射能汚染に伴うミュータント種への差別問題も加わった。特に、2036年の「社会支援型ロボット利用促進法」の成立により、AI搭載ロボットの社会進出に反発して、人間至上主義等が台頭することで、貧富格差はより大きくなり、世界の秩序は混沌としはじめ、日本においても、特定の社会階層だけに焦点を絞った人権だけが守られる社会観が生まれてきた。これらの風潮に対して、人権創造党は、マイノリティもロボットも含んでの新たな人権、AI権を守る政策を推進するために生まれたのである。

 特に、最近では、AI搭載ロボットの権利に関する問題が取りざたされ、アシモフの3原則の上に新たなロボットの生き方のようなものが確立されつつあった。

 社会支援型ロボットと呼ばれるものは、西暦2025年辺りから、福祉、教育、医療の現場を中心に、ヒューマロイドの活用が進んだが、その後十数年で、高度なAIを搭載したアンドロイドも出現し、人の生活の中に浸透した。最近では、四肢だけに限定されてはいるが、身体の積極的改造としてのサイボーグ手術も認められた。サイボーグ手術については、制御調整によっては、その身体的能力が人間の通常能力を超える場合もあり、法案が通過するまでにはそうとうな議論があったものの、経済・産業界の強力な押しで、通常能力以上の能力の取得をも包含した制度設計を容認する形で、政治的な決着を見た。これらの一連のロボットの社会貢献の促進に係る法律は制定されるや否や社会に深く浸透し、これまでの福祉、教育、医療に加え、企業経営や営農に係るコンサルタント業務、様々なサービス業務でも、積極的に活用されはじめた。家事支援ロボットもヒューマロイドタイプは価格が安く、すでに10%の家庭には、特定の家事専用も含め導入されている。

 そのうちに、福祉施設や教育現場でのAIアンドロイド化が進み、人に代わりかつ人以上の的確な業務をやりこなすロボットが社会に進出し、おおよそ予測されていたものの、人間性の回復等を理由に、「人かかわり度」等という曖昧な指標によって、使う側の人間とAIとの調整を図るために制度設計が進んできた。

 促進法成立の翌年である2037年、ロボット活用に関わる政府の審議会が立ち上がり、情報産業省の所掌において、行政・技術の両面からの検討が行われ始めた。

 最初は、ロボットが可能な生産活動やサービス行為の範囲の取り決めによる、人とロボットの活動調整であったが、それは、AI搭載の産業ロボットに対してのものに留まっていた。最初は、AIの利用範囲も生産活動の効率性に特化したものであり、マスターサーバにあるAIの一元管理下にあるAIであったため、ロボットの一台一台のAIは分散していても、データ統合による統制が取れたため、大きな問題にはならなかった。しかし、次第に一ロボット毎のAIが自立思考をして、生産活動やサービス行為を行うようになると、マスターサーバでのAI間のデータ統合は行われるものの、マスターAIから各ロボットのAIへのデータ転送は選択されるようになり、ロボット毎の個性が発生し、ロボット間での行動不制御が出始めた。奴隷的利用からの解放がよりサービスの質を上げるという学習結果となったのかもしれない。

 マスターが最終的判断をするようにはなっているが、「人権創造思想」を持つ人たちは、それはロボットの人格であるという見方をするようになり、ロボット権と言われる個体ごとのアイデンティが尊重するようになってきた。もう少し技術が進めば、全人類的な規模のビッグデータをすべてのAIが持つことで、すべての行為判断が統制される場合も出てこようが、自立型のローカルデータを集積するまでのデータベースの統一性は、まだ確保できる技術レベルではなかったため、ロボットの判断はまだまだ曖昧なものも多かったし、更に、ローカルに手に入れられたデータが異なる判断の原因を作る場合も多々あった。

 ちょうど、審議会が立ち上がった頃は、技術的にも中途半端で、毎年問題を起こすロボットが多発した。また、判断ミスであれば、人よりも少ないので、問題とはならないが、犯罪に悪用される例も出始め、審議会での行動制限の取り決めは重要な議論となった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る