秋遊記

団田図

目指すは天竺。じゃなくて秋葉原?!

 地球上のすべての生き物は、追うものと追われるものに分類される。

 そして俺は今、追われる側にいる。


 奴が今、俺に向かって弓を構えて矢を射ろうとしている。

 逃げなくてもいいのかって?

 大丈夫だ問題ない。

 俺にはこの時点で10以上の軌道が未来予測として目の前に映し出されている。

 天候、気温、湿度、風速、気圧、奴のクセ、矢の材質。

 あらゆる条件を加味して、俺の脳内計算でそれは導き出される。だから後は、ゆっくり動いても奴の攻撃をもののみごとに、かわすことができる。


 そうそう忘れてた、俺の名前はガンベッシュ。

 人間からはナマケモノと呼ばれている存在だ。


 人間は俺の行動が遅いからって『怠け者』だなんて名前を付けたが、思考速度は人間のゆうに100倍以上は早い。それに、タレ目のように見える模様とモフモフの毛並みから、癒し系動物なんて呼ばれているが、中身はキレッキレだ。

 反撃しようと思えばいつでもできる。この長くて鋭い鉤爪かぎづめでイチコロだ。


 だが、俺は争いは好まない。


 だからこうして、追われ続けているってわけ。

 だがしかしだ。もういい加減うんざりしてきた。


 ここ南米の密林地帯の奥地を住みかとして、木の上で果実をほおばりながら、自由気ままな生活を楽しんでいるのに、イゾラドと呼ばれる先住民族が俺を食料として狙ってきやがる。それも、毎日、何年も。

 ごくまれに、年を取って寿命に近付いた仲間が狩られてしまうこともある。そこで味をしめて、何度も襲ってきやがる。

 まったく、どうにかならないものか。


 ふぁふぁふぁふぁーん♪


「ガンベッシュよ。困っているようじゃのぉ」

「あ、あんたは誰だ?」

「ワシは神だ!おぬしの争いを好まぬその姿勢。感銘を受けたぞ!よって、そなたに知恵を授けてしんぜよう。


 日本の秋葉原へ行け!


 そこのメイドカフェでイゾラドとお茶をすれば、必ずや仲良しになれるじゃろう」


 ふぁふぁふぁふぁーん♪


 な、なんだったんだ今のは。秋葉原?メイドカフェ?

 よくわからいが、追われる日々が終わるのならそこへ行ってみよう。


 こうして俺は神のお告げに従って、イゾラドからの執拗な攻撃をかわしながら、秋葉原を目指すこととなった。


 もし俺が歩きと泳ぎだけで地球の裏側にある日本まで行くとなると、、、

 ざっと54年と9カ月はかかるな。きっとこれでは俺もイゾラドも死んでしまう。

 仕方ない、乗り物を乗り継いでいくとしよう。


 まずは、漁師が運転している小型ボートに乗り込もう。俺のことを獲って食べたりしないような優しい漁師を探して乗せてもらわないとな。


 ヨシヨシ。何とか小型ボートに乗ることができた。

 そして、俺の思惑通り奴も後を追って弓矢で攻撃してきたぞ。

 俺が乗るボートの速度と奴が追いかけるボートの速度はほぼ同一だ。そこに、水面の波からくる不規則な振動を加味すると、一見無秩序に見える揺れの中にも、ある規則性法則が生まれる。それを計算で導き出せば、矢の飛んでくる方向や速度は全てわかる!

 だから、いくらそんなに弓をはじいても俺に当てることはできないんだよ!


 待ってろよ。秋葉原!


 何とか街までたどり着いた。

 漁師のおっちゃん、ここまで乗っけってってくれてあんがとよ!

 さーて次は車に乗って空港を目指すとでもするか。

 よし!何とか高速道路を走る車の屋根に乗ることが出来た。

 そして、奴も追いかけてきている。

 おや?奴の武器が変わっている!


 あれは、、、ブーメラン?!


 前へ飛ばすとUターンして戻ってくる武器だ。

 さっきの街で仕入れやがったな。

 投げた力や手首のスナップ具合、空力抵抗や揚力のことまで考えないといけない。

 多少は計算が複雑になるが、俺にかなえばどうってことはない。


 その後も、俺が乗り物を変えるたびに奴が武器を変えて追いかけてくる。


 セスナ飛行機で逃げれば機関銃で攻撃してくる。

 潜水艦で逃げれば魚雷ミサイルで攻撃してくる。

 気球で逃げれば火炎放射器で攻撃してくる。

 戦闘機で逃げればホーミングミサイルで攻撃してくる。


 俺は、頭をフル回転させて、全ての軌道を読んでかわしてきた。

 そしてとうとう、日本の地に降り立った。


 東京って所は随分とハイテクな街だな。

 目的地の秋葉原までは、この電動キックスケーターって乗り物で行くとするか。

 快適快適。小回りもきくしスピードも出るじゃねぇか。奴がどんな攻撃を仕掛けてきても、これなら避けられるぜ。

 それに、ここに来るまで俺もずいぶんと成長した。

 二段ジャンプ、関節外し、残像、浮遊、時間停止、念力軌道逸らし、なんかだ。

 さぁて、奴は次にどんな武器で攻撃してくるんだ?


 あ、あれは手裏剣?


 話には聞いたことあったが、まだ存在していたのか。

 忍者の飛び道具ってやつだな。ってことは、、、

 やっぱりだ。マキビシも使ってきやがった!

 くそっ、弾幕のように手数が多い!計算が追い付かなくなってきた。

 頼む、早く目的についてくれっ!!


「お帰りなさいませ、ご主人様~」


 つ、ついに来た!『メイドカフェ』!

 あぁ、なんてかわいらしい笑顔でのお出迎えなんだ。それにこのフリフリのお洋服が超プリティじゃねーか。

 さあこっちへ来い!イゾラド。

 争いは止めて肩を並べて、お茶でも飲まねぇか?


「オムライスが出来ましたよ。一緒におまじないしてください。

 おいしくなぁれ♪萌え萌えキュンキュン」


 ふぁ~~。

 浄化されていく~~。

 俺の魂が、そして横にいるイゾラドの魂も一緒に洗われていくのがわかる。


 この世は追うものと追われるものだけじゃあない。無数の分類方法がある。中でもここに来るものは皆、至福の喜びに包まれて生命の神秘に触れ、生きていることに感謝することになる。

 それだけじゃない。昨日まで憎み合っていた者同士でも、ここへ来れば一瞬で友達になれる。

 神よ。こんな素晴らしい体験を教えていただき心より感謝いたします。


 友よ、名残惜しいがそろそろ帰ろうか。故郷の密林へ。

 肩でも組みながらさ。


「お会計は8900円です」


へ?イゾ、お前、金ある?



おわり

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秋遊記 団田図 @dandenzu

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