アヤと化け狸 ~ 露天風呂と陰謀

木津根小

1

アヤは学校が夏休みとなり、毎朝、寝坊をしていた。

いや、早く起きる用が無いため、寝坊というのは適当では無いかもしれない。

「ふぁ~~っ、おはよう。」

アヤは昼近くになって、あくびをしながら、ベッドの上に起き上がった。

いつもであれば、

「おはようございます。」

と言う、タヌ助の声が聞こえてくるのだが、今日は、その声が無かった。


タヌ助は、アヤが拾ったタヌキの縫いぐるみに閉じ込められている、タヌキの霊だった。

タヌ助は生きている時に多くの悪い事をした。

それに腹を立てたタヌキ大神さまは、タヌキ冥界から追い出し、タヌキの縫いぐるみにタヌ助の霊を封印したのだった。

しかもタヌ助には、最初に正体を明かした者から、離れられ無くなる呪縛が掛けられており、偶然正体を知ってしまったアヤから、離れる事が出来なくなった。

アヤとタヌ助は、タヌ助が行った悪い事と同じだけ良い事をすれば、この呪縛から解放されると考え、日々、アヤの言う『良い事』を行っていた。


「タヌ助、どこ?」

アヤは、いつものタヌ助の返事が無い事に、不安を感じ声を掛けた。

しかし、タヌ助からの返事は無かった。

「タヌ助・・・・。タヌ助・・・。」

そう言いながら、アヤはベッドの下や、机の下、引き出しの中などを見てみたが、何処にもタヌ助の姿は無かった。


「えっ、何で・・・。

どうして。。。」

アヤはそう呟くと、急いで部屋を出た。

そして飛ぶように階段を降りると、1階の居間に走り込んだ。

「アヤ、どうしたの、そんなに慌てて。」

居間でのんびりとTVを見ていた、アヤの母親であるミサトが、せんべいを咥えたまま、アヤの顔を見ながら言った。

「お母さん、大変だよ。

タヌ助が、居なくなった。」

アヤが慌てて言った。


「タヌ助?

タヌ助って、誰だい?」

ミサトが、ジッとアヤを見ながら聞いた。

それを聞いて、アヤが我に返った。

「あっ、その。

ほら、わたしがいつも持ってる、これ位の大きさのタヌキの縫いぐるみだよ。」

アヤはそう言うと、両手で、タヌ助の縫いぐるみの大きさを示した。

「あっ、ああ。

あの、小汚い、縫いぐるみかい。」

「そう、あの汚くて醜い・・・。」

アヤがそう言ったとき、誰かが、アヤの足を叩いた。


アヤが足元を見ると、そこにタヌ助が居た。

タヌ助は、縫いぐるみのフリをして、ジトっとした目で、アヤを見ていた。

「あっ、あは、はははは。

こんな所に、あった。」

アヤは赤い顔をして、タヌ助を拾い上げると、タヌ助をしっかりと抱いた。

「わたし、ここに置き忘れてたみたい。」

「そんなに大切な物なら、ちゃんと片づけなさい。」

「はーい。」

アヤはそう言うと、タヌ助を抱いたまま、2階の自分の部屋に戻って行った。


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