三題噺

米山

1 題「妖花」「骨」「膳」

 なんでも、人体の骨を養分にして咲き誇る花が存在するらしい。俺も、人から聞いた話だから出所は定かではない。でも、確かに本当らしいんだ。越の国の深い山奥で、それは見つかったらしい。ちょうど、今みたいに雪が降りしきる酷寒の冬だ。越後だからな、それはもう、すごかったらしい。なんでも雪が馬鹿みたいに背伸びして人間の上背の二倍も三杯にもなるんだとよ。いや、本当だ。まあ、そんなことはどうでもいいんだが、花だ、花。その花は人を埋めた土の上に咲くらしくてな。ほら、流石に燃やして骨だけになってる。お前、どうして墓に骨を埋めるか知ってるか? そりゃまあ、一家の云云だとか、個人の尊厳だとか、宗教の問題だとか、色々あるけどよ。一番はその花を咲かせないためらしい。その花ってのはどうも繁殖力がトドみてえに激しいらしくて、一晩でその花を二、三輪。放っておけばその辺り一面にその花が咲き誇るって話だ。その花っぱは紫色にどよめいてどうも人の気配がしないというか、この世のもんではないみたいな揺れ方をしているらしい。その揺らぎに誘われた人間は、どうもここがイカれる、っつうか、まるでこの世に姿かたちを為していないみたいに虚ろになっちまうんだとよ。その花、その妖しい花が、越後の国の古い田舎で見つかったんだ。当り前さ、あいつら百姓なんてまともな墓すら持ってねえ。もしかしたら、俺たちがこうして話しているのが奴らにとってはおかしいものなのかもな。ちっ、まだか、注文したのにやけに遅え。でな、ここからがまた更におかしな話なんだが、その花を食っちまった人間がいたらしい。それが越後の国だ。ありゃ? これはさっき言ったか。でな、その花を食ったのはまだ小さなわっぱ……十かそこらの餓鬼らしいんだが、どうもその翌日から人が変わっちまったみてえにおかしなことばかり言うんだと。シュソウがどうとか、オバマがどうとか。まるで聞き慣れねえ言葉ばかりだ。それまではろくに言うことも聞かねえクソガキだったらしいが、まだ可愛らしいとこもあった。ただ、そんなことになっちまってからは唯一の親族だった叔父からも勘当を喰らったらしい。その村でその爺を責めるやつは誰一人いなかったってよ。それくらい、誰から見ても、そいつは異端だったらしい。おっ、ありゃ俺たちの注文した膳かい? 気の利いた料理が入っていると良いねえ。酒も頼んだか、え? なんて酒? 紫咲酒? 変わった名前の酒だねえ。へえ、どうも俺は知らんが田舎では有名な酒らしい。どれ、軽く一杯始めるか、なあ。なあ。

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