第41話 断罪イベント
ゲームの中の断罪は、よくある乙女ゲームの例に漏れず卒業パーティーで行われる。悪役令嬢は罪を衆目の場で暴かれ、ヒロインが正式に攻略対象者の婚約者となるのだ。
しかし、現実では学園の夏季休暇の時期にひっそりと行われた。それを伝えに来てくれたのは、グザヴィエを従えた金髪の精悍な顔の青年だった。
名乗りはしなかったが、第二王子に似ているのですぐ分かる。祖国の王太子殿下だ。
「公爵令嬢は修道院に送られることに決まったよ」
悪役令嬢は修道院送りになり、執事や実行犯はそれぞれに見合った刑に服すこととなった。悪役令嬢が動いた結果とはいえ未成年だ。主犯は執事とみなされたようだ。
ただ、第二王子との婚約は破棄されたので、令嬢としては重い罰とも言える。自分の行動がもたらす結果を予想できない者に、王子妃は務まらないとの判断らしい。
悪役令嬢の父親である公爵も監督責任を問われて隠居した。跡目は攻略対象者でもある悪役令嬢の義弟が継ぐようだ。領地は減らされ爵位も下がる。これらはゲーム内でヒロインが王子と結ばれたときに起こる悪役令嬢周辺の結末に等しい。
「それで確認なんだが、君たちが公爵令嬢の減刑を望んでいたというのは本当かい?」
「ええ。襲撃に関しては執事の独断だったようですし、災害龍が出現したのは事実ですから」
「そうか」
本当はただの罪悪感からだ。悪役令嬢がヒロインの立場を乗っ取ったのと同様に、私はヒーローの立場をアランに押し付けてしまった。
『俺は押し付けられたなんて思ってないよ。ジャンヌを守れる力を得られたことに感謝している。あの女に同情する必要はないと思うけどな』
アランはそんなふうに言っていたが、私が希望するならと減刑にも賛成してくれている。隣に座るアランを見つめると、机の下で手を握ってくれた。大きなアランの手は何よりも心強い。
「我が国の第二王子は、卒業とともに王籍を離れて公爵になる。王位継承権も剥奪される予定だ」
ゲーム内の第二王子はヒロインと結ばれれば王太子に、それ以外の場合は公爵となる。それは現実も変わらなかったが、継承権剥奪はどのルートでもなかったように思う。悪役令嬢とともに私達の元に来たせいかと思ったが……
「第二王子は妻を娶らないと公言している。説得を試みたが、気持ちは変わらないようだ。新しく作られる公爵領の候補地は、この二つだ。君はどう思う?」
見せられた祖国の地図には二箇所色分けされた部分があった。一つはゲーム内でも第二王子が治めることになる広大で肥沃な王領、もう一つは罪を犯した令嬢が入れられることの多い修道院がある小さな王領だ。悪役令嬢はこの修道院に入れられるのだろう。
第二王子は前者を選べば悪役令嬢を、後者を選べば裕福な暮らしを手放すことになる。
仲が良さそうだった第二王子と悪役令嬢の姿を思い出す。どちらを選んでも私は罪悪感を抱くことになりそうだ。それが理由で持ち出された話だとは思いたくないが、このあとに想定される話を考えれば自衛は必要だろう。
私は王太子とグザヴィエを順番に見る。王太子からは何も読み取れないが、グザヴィエは申し訳なさそうな顔をしていた。
「私達は、もうこの国の人間です。聖女の暮らしに王族が介入できないのと同様に、私も王族の方の今後に口を挟む権利はないと考えます」
「そ、そうか」
わざわざ王太子が報告にやってくる理由は一つしかない。先触れが来た時点で話し合った私とアランの意見は一致していた。一番の目的は私達を祖国に連れ帰ることだろう。先触れに来たグザヴィエが自分より高貴な者が来ることを匂わせ、話し合う時間をくれたことに感謝する。
第二王子の婚約者が原因で、勇者であるアランだけでなく聖女の私も逃した。しかも、第二王子自身も少なからず関わっている。王家としては失態だろう。
次の王となる眼の前の人物がどうにかしたいと考えるのは当たり前のことだ。国民には隠されても一番知られたくない国の中枢には隠しようもない。
「時間をとらせてすまなかったね」
王太子は私の牽制をきちんと聞き入れて、勧誘はしてこなかった。孤児院を盾にするような人でなくて良かったと思う。
「お気をつけてお帰りください」
私は彼らに敬意を払って、無事の帰国を願う加護を贈った。
気落ちした様子の王太子殿下が背中を向けると、グザヴィエが深々と私達に頭を下げてから去っていく。もう、この家に彼らが現れることはないだろう。
こうして現実世界ではゲームの中より半年ほど早くエンディングをむかえた。
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