CHAPTER.8 終の蒼(ツイノアオ)【天体衝突1日前(彼岸)】
§ 8ー1 3月23日 月に叢雲花に風
吹いている風がまったく同じでも、
ある船は東へ行き、ある船は西へ行く。
進路を決めるのは風ではない、
人生の航海でその
なぎでもなければ、嵐でもない、
心の持ち方である。
エラ・ウィーラー・ウィルコックス (Ella Wheeler Wilcox)
♦ ♦ ♦ ♦
死が近づく人は何を思うのだろう?
あなたなら死に
死とは孤独なもの。繋がった人と世界からの
エリザベス・キューブラー・ロスがいう死の受容過程の最終過程では、人は死を受け入れる。運命だと心にやすらぎを得るという。
多くの者は死を
愛した
心
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県・横浜市近郊--
こうなってしまうと、もはや『社会
何も通らないのに待つ赤信号。黒いコートと白いコートがそれぞれ強くはためく。遠目に見える病院へ、ゆらゆらと、それでも1歩1歩明確な意思を持って進む2人。
「今日は颯太もお母さんに会ってよ」
黒猫のバレッタで
病院は自家発電で得た電気で、明かりも空調も医療機器もまだ使用できていた。しかし、医師も看護師も3分の2はおらず、キャパシティーを超えた業務で残された医療従事者たちは
4Fのクリーム色の廊下の奥の部屋。ドアに伸ばした手は、今日は
フフフフーン、フフフ、フフ〜♪
驚いた。
「お母さんね、私たちが出たTV観てくれたんだって。歌も聞いてくれたみたい。真剣に見てたって
ゆらりと
思い出した。
あの鼻歌は、彩が彩のお母さんの
♦ ♦ ♦ ♦
--4日前--
TV局でスタジオに入る前の
着替え終わった白いスーツ姿を鏡で確認したとき「こんな姿でホントにTVに出るの?」と恥ずかしくて
白いドレス姿の彩はまるで天使に見えた。白い髪も相まって、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「ねぇ、颯太……。ホントにこれ着てTVに出るの?」
顔を
「なぁ、彩。あの、えーっと……」声を出したが、何を話せばいいか頭が回らない。
「な、何? 颯太……」下に泳ぐ目。それは、不安の表れだ。
「ちょっと左手を出して」これしか思いつかなかった。
恐る恐る突き出した彩の左の手。ポケットに入れておいた
「え……、颯太、これって」
「気に入ってくれるといいんだけど」
薄く桜色に光るダイヤモンドの指輪。ケースから取り出し、彩の左手の薬指に慎重にはめる。思ったとおり、良く似合ってる。左手を引き戻して、目の前で確認する彩。不安や羞恥心を驚きで上書きできたのか、手の震えは消えていた。表情が柔らかくなる。顔は赤いままだったが。
「綺麗……。ふっ、ふふ、あはは。そっかぁ、だから前に指のサイズなんて聞いてきたんだね♪ 期待してなかったわけじゃないけど、こんなときに渡されるなんて思わなかったよー」
「こんなときで悪かったなー」戻ってきた恥ずかしさで顔が熱くなる。
「……ありがとう、颯太。ホントに、嬉しい」目がウルウルしている。
ホッとした。本当に。彩が嬉しそうに
「でも、左手の薬指なんて……。まるで結婚指輪だよ」
「その……つもりで、用意してたんだけどな……」
しまった、と言うつもりではなかった言葉に、口を手で押さえる。彼女の表情を恐る恐る確認する。
彩は目を真ん丸に見開いて、涙が
♦ ♦ ♦ ♦
--神奈川県・梅ヶ丘家--
世界の最後の夜。窓から見える夜空には星はなかった。光る月にも
「「いただきます」」
1口1口、少しずつ食べる。よく噛んで、少しでも満腹感を得られるようにゆっくりと食べる。空腹は感情を
「明日、ホントに衝突するのかな……」ポツリと
「昼過ぎに太平洋が接触、するらしいよ」電源が切れる直前に見たスマートフォンで確認したこと。
「そっか……」
それ以上の会話はなかった。死を目前として、冷静さを保っていられることなどできない。先日までは音楽にただ夢中になっていた。また、その
綺麗ごとなど言えない。死を間近に感じれば、なおさら。
だから、2人は自然と手を握った。その体温が現実を
窓の外の夜空にはオーロラのカーテンが
それは欲求によるものではない。
キミと一緒になれる喜びで満たされているから。
「好きだよ」
間に何物も邪魔のない距離でそう
「……言ってもらえて、嬉しい」
何度も
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