CHAPTER.2 燥ぐ鈍色(ハシャグニビイロ)【天体衝突9ヶ月前(梅雨)】

§ 2ー1  モノローグ②  梅ヶ丘彩



--梅ヶ丘彩・夢の中--



 ザァー……ザザァー……


 黒い雨が打ちつける。


 あらゆる色が逃げていき、残された白を黒が染めていく。見慣れた街並みはモノクロで、私は交差点の真ん中で立ちすくんでいる。


 黒は嫌い。つみの色だから。


 白は嫌い。ばつの色だから。


 今日も昨日も明日も、冷たい黒い雨が心をしばる。罰はつぐなわなければならない。でも、どうしようもなく寒い。それは、寒さを感じるのは温もりを知っているから。


「分かってるから、母さん……」


 右手を胸に当て見上げた黒に、オレンジ色の傘が不意に飛び込んでくる。そっとかたわらに立ち、傘を差し伸べられる。むしばみ続けるばつの感触がふと消える。無意識が揺らぐ。


 つかの間。涙がこぼれ落ち、黒い水溜りに辿たどり着くまで、そのまま。


「ありがとう」


 顔を見ずに走り出す。顔に当たる黒い雨粒が涙の痕跡こんせきを消していく。


 交差点で選ぶ道はいつも通り。後ろは振り返らない。


 走っている傍らに気づくとパステルグリーンの傘が並走していた。何も知らずに、私を雨から守ろうと必死についてくる。雨から守れてはいないけど、貴方が心を守ってくれようとしてくれているのね。眼差しが寒さをやわらげる。でも、暖かさが罪と罰の輪郭をくっきり浮かび上がらせてしまう。



 世界を染め続ける墨色の空には、淡い金糸雀かなりあ色の星が、天蓋てんがいの穴のように浮いていた。


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