§ 1ー2  3月24日①  最後の1年の始まり



--神奈川県・横浜--



 ピロリン♪



 聞き慣れた電子音が、朝の陽射しが差し込んでいる部屋に響いた。くたびれたスマートフォンに届いた通知に、けだるく目を覚ます。寝呆けながら、反射的に手を伸ばして画面を確認する。


【おはよーっす。今日のライブ、頑張ろうぜ~! それでさ、我らがリーダーで20歳の天才ベーシスト生田颯太様、今日はどこに集合だっけ?】


 はぁ……。直前でこんを詰めて練習したとはいえ、昨日伝えたことを忘れるかね。久弥はギターの腕は確かなんだけど、それ以外は天然君だからな、とあきれているとさらに、ピロリン! と通知が届く。


【おーい、ニュース見たー? あんなにでっかい隕石が衝突とか、ありえないって!】


 ん? 隕石? 何のことだ?


 突拍子もない内容に、颯太は指をフリックしてニュースサイトを何の気もなく開く。いつも見る検索サイトのトップニュースが目に入る。


『巨大天体が衝突!? 1年後に地球に衝突とNASAが会見!』


 ホントかよ! 夢み心地だった意識の靄が霧散むさんする。反射的に上半身を起こし、興味そのままに記事の内容を読み進めていく。


『NASAが日本時間24日午前3時頃、緊急記者会見を行い、地球と同じ程度の大きさの天体の発見を発表した。さらに、その天体が1年後に地球に衝突する可能性が高いことも同時に発表された。発見した観測チームの主任の……』


『……可能性が高い』か。記事に対する書き込みを見ても『大袈裟に言い過ぎ(笑)』とか『地球が無くなる前に火星に移住しまーすw』など、暇なネットサーファーのネタにされている。

 前にも彗星が地球に接近してぶつかるかも、なーんて話題があったことを思い出す。こんな発表がトップニュースになってるんだから平和なんだろうな、と何も変わらない日常を思い返し、差し迫った4か月ぶりのライブのほうに心がたなびいていく。

 久しぶりのライブを控えた朝なのに浮かない気持ちなのは、きっと夢のせいなのだろう。唐突なクリスマス・イブの失恋。いい加減に押さえ込むにはまだ若過ぎる歯痒はがゆさのモヤを掻き分ける。「今はライブ!」と小さいが意志を込めて自分に暗示をかける。


 うん、と頷きベッドから抜け出す。立ち上がると、少し空いた窓から入るそよ風に春の到来を感じた。季節が変わった。見える景色に温かみが宿やどる。


 前を向く。「さてと」と心でつぶやき、部屋のドアを開けた。


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