世界が終わるという結果論
二神 秀
PROLOGUE
プロローグ
我々はこの世に生まれた。
これは動かしようのない事実である。
死ぬなんてことは気にしなくていい。
生きることが我々の喜びであり、法則なのだ。
ウィリアム・サローヤン(William Saroyan)
◆ ◆ ◆ ◆
--アメリカ合衆国ワシントン・航空宇宙局本部--
「私たちは地球に住む全ての命あるものに伝えなければなりません。何よりも優先される重大なことをです……」
そう告げられて始まったアメリカNASAの緊急記者会見。見慣れた画面越しに映し出された映像には、テリトリーに侵入してきた外敵を
「つい先ほど、小惑星地球衝突最終警報システム・ATLAS(アトラス、Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)に、『ある天体』が観測されました。いや観測されたというより、地球からおよそ8000万キロメートル離れた宙域に、直径1万3000キロメートルほどの天体が急に出現したのです」
鉛のように重く発せられた言葉に、急遽
「これは我々の地球と火星の間に、地球と同等程度の大きさの惑星が見つかったということです。この天体の表面は白く、氷で覆われているのではないかと推察されます」
それほどの天体がなぜ急に見つかったのか? 氷があるということは、そこに生命が存在するのか? もしかしたら、地球外生命体がそこには生息しているのか? 記者たちは胸を高鳴らす。
しかし、そんな大発見にも関わらず、目の前に座るNASAの男たちの様子は緊張感を
「……この天体は、地球に向けて移動いています。そして、衝突する可能性が極めて高い……」
はぁ? 急に集められた30人超の記者もそのクルーもカメラマンも、一人残らず目を丸くする。
そして、死のカウントダウンの始まりをその男は告げた。
「1年後、この天体は地球と衝突します」
◆ ◆ ◆ ◆
--1年後の3月24日正午・横浜--
白い空。それを映していた白い海もすでに見えない。
氷麗な白の星は今、終焉を告げる破滅の黒い塊となり、乱気流が
たなびく
NASAの予測では、パンドラ(衝突する天体の呼称)は北半球・太平洋で地球と接触するとのことだ。
そんな情報に意味はない。どこだろうが同じこと。
地球は壊れてしまう。世界は終わってしまう。海も陸も、そこにいる生き物、植物、人工物、元からある自然、自分も、彼女も、その全てが消える。
重さから解放され、浮き上がったあらゆるものの中、繋がれた手の感触が正気を繋ぎ止める。
意識と酸素が薄れていく……
残っていたのは満たされた感情。
目の前の安らかな彼女の瞳には、同じ瞳をした自分の顔が映っていた……
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