第559話 根津見宮の砂ネズミ
からりと渇いた銀の砂地。
一歩、足を動かせばザラザラ音をたてて重い砂が足にひやりと冷気を伴ってまとわりつく。
『根津見宮』
迷宮主は重い砂の奥から漆黒の視線をおくってきてる。
「ネアよ。迷宮主」
ネアはちゃんと名乗りますよ。ええ。
『ワレ、むこう側との境界を見張るモノ』
「むこう側に行きたいのだけど?」
『彼方と此方、定められし在り様の誤差、高く同行者は危険』
管理者権限が違うままに流れた時間が長く場所の理(コトワリ)が違うそうです。わからなくはないです。それぞれの迷宮の支配圏は一種独特の環境が生成されます。たいがい国境がその境になりますね。国を跨げば空気の重さが違うことすらあるわけですし。
大陸の迷宮は七割を帝国(ロサ家)が管理し、周辺小国ももとはロサ家の支配であり、そこから放逐された迷宮。及び分派した迷宮と言われています。
それでも環境が相互性を保持できているのは『冒険者』という『迷宮』の色を持った存在が各地を巡るからです。はなれた地にある迷宮の情報を学ぶ手段は『冒険者』と『迷宮合戦』だそうです。そうすることで大陸内の人々は旅をしてもその土地に馴染めるんだそうです。
むこう側は数百年単位で情報のない土地。ただヒトは生存の保証ができないということですね。
止められはしない。けれど、忠告はある。
「ネアは管理者だから?」
私は行っても大丈夫とはこれ如何に?
『否。サカイを守護する称号が異なワレらが界においても作用する。ワレに見ゆる称号は橋守。橋は渡れぬ境界を渡たるがためのもの。ソの橋をマモルモノと定義付けられているモノを遮る橋はないユエに』
うっわー。実はリア充上司な魔王さま過保護だった?
あ、結構過保護だったわ。
え。もしかしてワームとかアノヒトとか送り込んだ?
えー。
それはやめて欲しかった。
……止められなかった?
あ。ありそうですね。
「私は、たぶん、なすべきオツトメの基本は終わらせたのだとは思っているのです。幼かった『ロサの後継』を守り、ロサの土地に連れて行くことができたので。個人的にはなにかと物足りない気もするんですけど、もっと何かできたかと言われたら思いつかないんですよ。ですから」
気持ちを少し落ち着けるのに大きく呼吸をする。
「ふざけた真似した『琥珀の塔』さんに追及しに行くんですね」
とりあえず、ティカちゃんのことは私がなんとかしておきたいんですよ。『私』もたぶん忙しいでしょうし。
八百年、下手をしたら千年を生きた迷宮管理者を相手にすることになるかもなんですけどね。
だって、私、私が居ようがいまいが私が大事だと思う人が生きていける世界であってほしいと思っているんですよ。
「だって、私自身にはこの世界の決定権はありませんから。それでも、波風をたてることは認められていると私は思っています」
むしろ、波風たてることが推奨されていますよね?
『うむ』
うむじゃありませんよね? うむじゃ。
自分でなに言ってるんだろうなとは思うんです。
それでもやっぱり私の旅にはこの世界の正しく住人であるアッファスお兄ちゃんやガジェスくんに同行してほしいんですよ。
この世界の住人が知らないうちに全てのことわりを部外者がこねくりまわすことは個人的にいやです。
あ。
イヤな思いをさせる前提なら大人なタガネさんとかでもいいんでしょうが。
私が同行を受け入れられるこの世界の住人は必要なんですよ。
ですから。
「ですから連れていく手段を教えてください」
私は生温くなってきた銀砂から足を引き抜きました。
……布に砂が噛んでいて不快感半端ないですよ。
『清浄』
スキルを使ってスッキリです。
「私だけではだめなのです」
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