第413話 おしゃべりは楽しいです

「王都は楽しかったんでしょう?」

「うん。でも冬は移動に向いてないと思う」

「当たり前でしょ。他の迷宮の影響下でも冬は移動推奨されてないわよ。秋か春が移動スイショー時期ね」

 ティカちゃんが雪蜥蜴大福にかぶりつきながら冷たく言ってきますよ。ひとくち咀嚼した瞬間からほろりと表情をとかしてにっこーとしあわせそうな笑顔で私もにっこりしますよ。暖かいお部屋で食べる雪蜥蜴大福美味しくて幸せですよね。と考えているネア・マーカス十歳、ティクサーに帰ってまいりました。

 大越は家族で過ごすものではあるんですが、今年は迷宮が国内に有り(十年ぶり)、帰還者(家族連れより単身者多め)が多い関係で宿や飲食店に人が集まり疑似家族的にお祝いする雰囲気のため、食堂を経営するティカちゃんのお家に知らない人も冒険者もいろいろ集まる関係からティカちゃんを大越の間マーカス家で預かることになったのです。

 ティカちゃんのお泊りですよ。

「別におうちの手伝いくらいするって言ってるのに」とぷりぷりしているティカちゃんに「私と一緒いや?」って聞いたら「そんなわけないでしょ!」と叱られましたよ。それとこれは別だそうです。難しいですね。

 王都に出かけていた分、グレックお父さんは忙しく、人の手が増えてきたおかげでマコモお母さんが楽しそうに大越用だと料理を作っています。

 大越の間はいつもよりちょっと凝った料理を作り、できれば新しい装いを仕立てるものだそうです。昨年までも新しい肌着や髪紐を仕立ててもらっていますし、十歳だからと荷物袋も仕立ててもらいましたからね。

 商業ギルドが立ち上げた屋内市場では『大越用』の長期保存可能食が多く販売されています。『たまちゃんチ』産の加工肉そのままとかそれの加工品とかですね。往来が簡単とはいきませんが、警備隊の強者が十日に一度は交代に行っているそうです。

 雪蜥蜴大福とか『天水峡連』産のドロップ品はあまり大っぴらにしてはいけないのがちょっとめんどくさいです。ティカちゃんにこぼすと「なんて話題を私にバラしてるの! それダメなヤツなんだからね!」と間髪入れずに叱られました。

 でも雪蜥蜴大福はティカちゃんのお口にはあったようでご機嫌なおりやすいですよ。「そーゆーのもダメなんだからね。あ。中に入ってる甘さが違う果物っぽい」とは言われました。

 私がシンプルパジャマを仕上げる横でティカちゃんは明らかにパジャマではなく普段使い用と思われる上着とフレアスカートぽく見えるズボンを仕立てていますよ。

「迷宮に探索に行く以外の街での行動は動きやすくてかわいいものがいいかなって。少し大きめに仕立てておけば着替えを買う費用を抑えられるでしょ」

 それなりに希商品とは言え学都で買う布よりはティクサーで仕入れる布の方が安価だそうです。仕立てたものを買うとなると手が届かず、古着屋を漁ることになるそうですよ。

 学都には学びに行くとはいえ、仕立てものを学ぶつもりは現状ないティカちゃんと私からすれば事前に仕立てておくのが正しいとなるわけです。なにせ、探索用の装備は別勘定ですからね。予算確保が大切なことは理解できます。

 現地で仕立てるにはまとまったお仕立て時間が必要で勉強時間や探索時間に食い込んではもったいないですものね。

「もちろん、ネアなら問題なく学都でも仕立てられるでしょうけど。大銀貨一枚でそれなりの一揃えは手に入るはずよ」

 ティクサーでなら小銀貨一枚で一応のそれなり一揃えが揃いますね。技術発展途上なので今はお安くなっているのです。本来なら表に出ない習作がそのまま商品になっている所為ですね。

「うん。たぶん、お店を探して買うと思う」

「そうなさい。でも自分でも応急処置はできるように練習しておくことも大事だと思うわ。裁縫も料理もね」

 う。

「がんばります」

 裁縫用の針を道具屋さんで買おうとして探したら、一本小銀貨一枚必要だったので実は驚きました。基本何処かの迷宮からのドロップ品で入手困難だからだそうです。

『蒼鱗樹海』でも『魂極邂逅』でも縫い針は入手可能なので値は時期落ち着くかもしれませんが。

 蒼鱗樹海では魔核販売しているそうです。

 たまちゃんチでは二階層以降の魔物に『技術特化』系のドロップ品を固めているそうです。ギフトもアイテムも。

 もしかして裁縫スキルをギフトとして入手すれば私でも?

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