第200話 クノシーの老猟師
クノシーの領主に命じられた王弟がティクサーにいる魔力量の多い冒険者見習いの少女に伐採依頼を出したといきなり言い出した時は驚いた。わざわざ言うようなことなのだろうかと思ったのだ。
グザが「ルチルみたいな奴もいるしな」と言ったので常識を飲み込むことにした。
数日前に着任した時にどちらがティクサーに行くかと下の弟君と酒場で勝負をしていたと話題になっていたこともあり弟君がクノシーを優先してくれたようにも見える。
見習いの少女がついたと言う初日、昼前にクノシーに着いたとは聞いた。グザがティクサーへの街道の伐採状況がなかなかだと言いながら孫を連れて調査に向かった。
街道沿いは冒険者が往来ついでに伐採や剪定を訓練がてら行ってくれるのだ。ついでに旅の食料として狩りをしながら。狩り手や木こりが見習いを連れてまわれば、街道沿いは問題ないはずだ。
昼から町の外周の伐採に入ったと聞き薪拾いの冒険者たちと現場へむかった。
黒っぽい髪の少女が花の咲く樹々を残し、風のスキルで枝や蔓をたたき落としていく。広がる葉と締めつける蔓から開放された枝が弾けるように広がり、隙間から光を落としてくる。
次にドカッと大きい音をたて、枝自体も断ち切られていく。細いものが多いが、それなりに育っているものもあった。
町のための安全地帯を増やすことができる。柵を広げ、柵と柵の間に壁をつくることもできるようのなるだろう。あふれかけている移民や帰還者たちに生活の場ができれば冒険者は狩りに行きやすくなり、町中にも仕事がまわりはじめる。
素材が入り、必要な道具が造れ、造り手の生活基盤を整えるための余裕が生まれる。
深傷を負ったまま生き延びてきた町に命が吹き込まれるようなものだ。
子供や経験をあげれなかった若造たちが嬉々として兎や野鼠を狩り、薪となる落とされた枝を、糸素材として望まれる蔓を、薬剤として望まれる葉をそれぞれに拾い集め生きる費用を得ていく。
地面に影響を与えるスキル持ちが設置する壁の位置を決め、印とばかりに土を盛り上げてつくる腰ほどの高さの土杭。土杭と土杭の間に少し長めの枝や細い幹を使い柵にしていく。後ろから強化できる冒険者が強化したり石や土をその手で持って壁を造っていく。できあがれば内側の旧柵は解体するのだろう。
広い範囲で伐採が行われた。あの少女の魔力量に呆れつつすまいの森を荒らされた獣たちがその後の処理をする我々に牙をむく。
獲物だ。
警備隊員と腕に覚えのある冒険者がにまりと笑う。
「今日は肉だな」
「壁造り怪我させんな」
「小物はガキどもに残せよ」
「じいさん、周辺に罠あんなら解除頼むわ」
心配するな。
「付近の罠はお嬢ちゃんがぶっ潰しとる。いちおう見てまわるがね」
狩りは若いのに任せて血抜きに良い場所でも探しておくとするかね。
狩りをして、最低限の血抜きをした魔物を冒険者ギルドの受付が冒険者から買取りギルドの解体場に運んでいく。
今日は肉屋の坊も忙しくなるだろう。
忙しくなるのはこの日だけではなかった。
多くの仕事があればそれぞれに自分の食い扶持を稼げる。
迷宮の帰還は幸いだ。
少なくとも、生まれた迷宮は我々町の住人を殺しにはこない。
共存できる迷宮なら共に繁栄したいものだ。
二度と迷宮のない飢える経験を孫らにさせたくはないのだ。
王弟様が問題にしているのは森をしめる葛の繁殖。迷宮への距離の緩和。
確かに困るのは困るのだが、葛は迷宮が我らに最初に恵んでくれた食料でもあった。まだまだ使えるし必要でもある。
迷宮『蒼鱗樹海』では食材が多い。敵性迷宮ではないようで。
少し老人は安堵している。共存共栄していけると。
迷宮の色はまだわからない。
攻略をしないまでも、もう少し進むべきなのだろうな。迷宮。
翌日の忙しさは桁違いであった。
グザと夜飲む時間がないほどに。
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