第14話 修行世界

「――フー……」


 俺はいま、『集中』スキルを使用し、この先襲い来る戦いに思いを馳せていた。


 これから起こる戦いは、俺が強くなることを考えると大きなチャンスだ。

 そしてそれは同時に、この戦いのリスクの大きさを意味する。


 俺はこの戦いに、自身の死を予感していた。

 それは、ゴブリンジャイアントと戦った時も、ゴブリン剣士ソードマンと戦った時も無かった感覚。

 俺の『勘』がこの先の戦いに対して悲鳴を上げている。


『スキル『危険察知』を手に入れました』


 ……スキルが手に入るほどに。


 だが、それはある意味当然のことだろう。

 俺は強くなったとはいえ、所詮はDランク相当と言ったところだ。ギリギリ、ゴブリン剣士に勝てる程度。

 その上の将軍や王には手も足も出ず、この作戦に参加しているB級を筆頭としたC級以上の冒険者達に比べれば一段も二段も見劣りする。


 それが俺の今のレベル。


 そんな俺がこの戦いを乗り越えられたらそりゃ成長するよなって。ただし大半の場合死ぬけど、って。



 実はこの状況で逃げても、規則的には問題ない。依頼を受諾した以上、俺にも義務は発生しているが、大量のゴブリンと少ないながらも上位種を倒したことによって遊撃部隊としての任務は既に果たされたと言える。

 王を相手することを前提とした依頼である暗殺部隊とは違うのだ。

 そして、現在Fランクである俺には、街が危機に瀕した時に命を賭して護る義務はない。


 つまり、この目前に迫る死から逃げたいならば、逃げることが出来る。


 それが俺の今の状況。



 ――逃げるか? いや、それはない。


 俺は内心で自問自答する。


 俺に必要なのは逃げる力じゃない。


 絶対的な強者を前にした時に、逃げず、殺されず、打ち勝つ力。


 それが、俺が求める俺自身の姿。



『スキル『不屈』のレベルが上がりました』



 ◇


「――来たぞッ!」


 冒険者の声が響き渡る。


 ゴブリンの軍勢が目と鼻の先にまで迫ってきていた。


 俺は既に退いてきた遊撃部隊が作り上げた戦線の一部となっている。


 俺が担当するのは門の北側。将軍や王が最も流れてきやすい中央と、将軍の存在が確認された南側から避ける形で配置されている。


「――【爆裂エクスプロージョン】!」

「――【風刃ウィンド・カッター】!」


 先行して魔法使いの攻撃が放たれる。

 範囲炎魔法である【爆裂エクスプロージョン】がゴブリン達に向かって炸裂すると大きなクレーターと共にほとんどのゴブリンが消し炭になった。

 上位種と思われる巨躯は原型を留めてこそいるものの、瀕死の状態である。

 俺の鳳剣のように扇型へ広がっていく風の刃は、多数のゴブリン身体を真っ二つにしていく。

 炎魔法を放ったのは女魔法使いのミリアさん、風魔法を放ったのが治癒師ヒーラー兼魔法使いの男性フィンさんだ。共にC級冒険者である。


 冒険者同士の密度が高まり、より緻密な連携が必要になった。

 とはいえ、合流してから少ししか話せていないので大雑把な作戦しか建てられていないが。


「任せたわよ、前衛諸君!」

「「おう――ッ!」」


 俺を含む、前衛職がゴブリンに向かっていく。


「『鳳剣』!」

「【強撃】!」

「【衝盾インパクト・シールド】!」


 俺の『鳳剣』はゴブリン達を薙ぎ倒していく。距離が離れると共に範囲が広がり威力は減衰していく。

 だが、通常種やホブ程度のゴブリンであればその攻撃で十分であり多数のゴブリンが一気に息絶える。

 MPの消費が激しいこの技は継戦能力に欠けるため、【剣技】やMPを消費しない攻撃を織り交ぜて戦う。


 大剣を抱えた冒険者であるガッドという冒険者はその力任せの一撃で、大剣に触れたゴブリンを豆腐でも切るかのように屠っていく。

 その中にはジャイアントなども含まれていたが、お構いなしといった様子だ。


 右手に大きめの盾を持ち、左手に剣を構える盾職の男性、ミルドさんは盾を振るう。

 振るわれた盾に触れた数体のゴブリンは肉塊となり、その奥に居た多数のゴブリンはドミノ倒しになりながら味方であるはずのゴブリンの身体に押しつぶされる。


 俺達はゴブリンの屍の上に乗りながら、それを何度か繰り返した。


 瞬く間にゴブリンは減っていき、俺の鍛錬も達成されていく。


『レベルが19から20へ上がりました』



「一度退くぞッ!」


 ガッドさんが大きな声で俺達に指示を出す。


 俺達はその言葉に従い、魔法使い達の居る後衛まで一旦下がった。


「――【爆裂エクスプロージョン】!」

「――【風刃ウィンド・カッター】!」


 俺達の後を追ってきたゴブリン達に、魔法が放たれる。


「どうだ? まだやれそうか?」

「俺は全然大丈夫だぜ」

「俺もまだ大丈夫そうです」


 MP:112/371


 もう一度くらいなら一応、今と同じことが出来る。俺個人の殲滅速度は下がるもののMPを消費しなくても戦うこと自体はできるしな。


 今は魔法使いの二人がゴブリンに魔法を叩き込み、奴らの進軍を食い止めている。そして、俺達はその間だけ少し休憩することが出来る。


 俺は先ほど鳴ったレベルアップの結果を確認する。


 ――――――――――

 年齢:15

 レベル:20(+1)

 HP:622/636(+31)

 MP:112/371(+26)

 力:110(+5)

 耐久:91(+4)

 敏捷:81(+3)

 技術:84(+4)

 器用:72(+3)

 魔力:66(+3)

 抵抗:70(+3)

 ギフト:修行 英雄の卵

 スキル:『剣術Lv6』『体術Lv5』『毒耐性Lv1』『回避Lv4』『不屈Lv3(+1)』『集中Lv4』『魔力操作Lv1』『剣技Lv1』『予測Lv2』『鳳剣Lv2(+1)』『危険察知Lv1(New)』

 称号:【強敵殺しジャイアント・キリング


〈鍛錬メニューを開く〉

〈修行世界を確認する〉

 ――――――――――


 鍛錬メニュー以外の項目が新たに追加されていた。

 鍛錬メニューに新規メニューは追加されていない。


〈修行世界を確認する〉を選んでみる。


〈修行世界〉

 ・毎日24時間まで異空間で修行することが出来る。

 ・異空間で過ごしている間、元の世界では時間が経過しない。

 ・異空間では経験値を獲得できない。

 ・異空間では死ぬことが出来ない。

 ・異空間では仮想敵と戦うことが出来る。


〈修行世界に行く〉



 というものだった。

 死ぬことも経験値を稼ぐこともないが、敵と戦って戦闘経験を積むことが出来る……ということだろうか?

 時間が経過しないということは、今の俺にとっては有用なスキルかもしれない。


 これまでMPを使用して戦闘することがなかったため、MP配分については下手くそな自覚がある。

 それの改善が出来れば、俺はもっと強くなれるはずだ。


 今はちょうど休憩時間。試してみる価値はある。



 俺は、〈修行世界に行く〉を選択した。

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