第11話 vsゴブリン剣士

「遊撃部隊の依頼を受けて来ました、シュウです」

 俺は東の門に集まっていた冒険者の一団に加わる。


 集まっている冒険者は当然のことだが、俺よりも強そうな奴らばかりだ。

 装備においても俺より断然整っている。というか俺の装備が駆け出し感満載なんだが。


「お前、ランクは?」


 俺の装備を見て疑問に思ったのか、一人の冒険者が話しかけてくる。

 その身体は細身で、俺と同じく剣を一つ携えている。髪は金色で、長めの髪は後ろで束ねられている。


「Fです」


 下手に隠したところで装備でモロバレなので俺は正直に答える。


「はあ? やめとけって、死ぬぞ? 今からでも遅くねえから依頼をキャンセルして、避難所で待っとけって」

「やめておけフェデル、冒険者は自己責任の職業だ。判断を誤ったら死ぬ、それはF級だろうとA級だろうと変わらない。

 彼が自らの選択でここに来ている以上、パーティメンバーでもない私達が干渉するのは間違いだ」


 金髪の剣士の名はフェデルと言うらしい。

 後ろからやってきた女はそう言ってフェデルを止める。装備から察するに弓使いか。

 フェデルという剣士は良い奴なんだろうな。新米が心配が故にってやつだ。

 俺もシア達がここに来ていたら、止めたかもしれないし。


 反対に弓使いの女はそういう心配はしていなさそうだ。俺の実力を信じてるとかではなく、興味がないという意味で。

 冷たいと言えば聞こえは悪いが、単に止めても無駄な人種が居ることを理解しているんだろう。

 俺もその一人だが、冒険者には無謀な奴が多い。大層な夢を抱いてる奴なんかは特にだ。

 そんな奴を一々心配していたところで、精神が無駄に擦り減るだけだからな。



 なんて考えていると、この中で最も強そうな冒険者から作戦の説明が行われる。


 作戦の内容は単純でそれぞれのパーティがゴブリンを討伐し、危なくなったら防衛部隊の居る地点まで後退し、支援部隊による回復を受ける……という感じだ。

 各パーティの位置分担が行われ、俺は自身の指定位置を把握する。といっても大雑把な位置で、他のパーティの邪魔にならないようであれば大丈夫らしい。


 まあこっちに流れ弾さえ来なければって感じだな。

 まだ依頼を受注した冒険者が全員集まっているわけではないだろうが、作戦はすぐさま開始となった。

 後から来る冒険者は比較的キツそうな場所に派遣されるらしく、状況判断に優れた冒険者を一人此処に待機させるようだ。



「いくぞ!!」

 掛け声と共に門を出ていく。




〈鍛錬:魔物を50体倒すが開始されました。時間内に完了できない場合、ペナルティが課されます〉

〈鍛錬:ダメージを受ける100HPが開始されました。時間内に完了できない場合、ペナルティが課されます〉

〈鍛錬:ランニング10kmが開始されました。時間内に完了できない場合、ペナルティが課されます〉


 俺はリセットされていた鍛錬をいくつか開始する。


 大きく広がっているゴブリンが門に集う前に撃破する。

 集ってしまえば近接職の俺なんかは質量によってごり押しされることになるからな。その前に数を減らす。



 少し走るとすぐにゴブリンの大群が見えた。奴らは既にゴブリンの森を出て、街道とその横に広がる草原にまで足を進めてきていた。



 俺から少し離れた場所から、ゴブリンに向けて強烈な火魔法が叩きこまれる。貫通性が高いらしく、その一撃でゴブリンを何十体も葬ることに成功したらしい。

 そのレベルの攻撃が各所から何度も放たれている。これがCランクの実力か。


 とはいえ、圧倒されている場合ではない。俺はゴブリンに向けて駆けだす。


 ――集中。


 大半がゴブリンではあるものの、大群の中にはホブゴブリンやジャイアントゴブリンが結構な数見え、中にはそれ以上と思われる上位種も存在していた。


 俺はジャイアントゴブリン以上の上位種が存在する部分をなるべく避けながらゴブリンを狩りに行く。


〈魔物を倒す 3/50〉

〈ゴブリンを倒す 3/100〉


〈魔物を倒す 5/50〉

〈ゴブリンを倒す 5/100〉


〈魔物を倒す 7/50〉

〈ゴブリンを倒す 7/100〉


 ゴブリンを斬り伏せながらも、常に周りに存在する上位種の位置に気を配る。

 ホブゴブリン程度であれば問題ない。ジャイアントゴブリン相手となるとこの大群の中相手にすると隙が生じて危ないし、それ以上の場合は一対一だとしても勝ち目が薄いと思われる。


 そんなわけで、ジャイアント以上が来たら一時撤退しようと考えながら剣を振る。


〈魔物を倒す 27/50〉

〈ゴブリンを倒す 27/100〉


 だが幸いにして、奴らが俺のところに真っ先に来ることはなかった。

 というのも、他のパーティの遠距離攻撃が上位種を集中的に狙ってくれるため、俺が相手にするのは弱いゴブリンやホブゴブリンだけで済んでいたからだ。


〈魔物を倒す 31/50〉

〈ゴブリンを倒す 31/100〉


『レベルが10から11へ上がりました』


 ――もっとだ。もっと強く……


『スキル『集中』のレベルが上がりました』


〈鍛錬:魔物を50体倒すが完了しました。報酬として耐久1が与えられます〉


 ――足りない。もっと……この場に居る全てを殲滅出来るだけの力を……


〈ゴブリンを倒す 61/100〉


 撃ち漏らされたジャイアントゴブリンが近づいてくる。


 ――丁度いい経験値が来た!


 周りに居るゴブリンを巻き込みながらジャイアントに向けて剣が振るわれる。


〈ゴブリンを倒す 62/100〉

『スキル『剣術』のレベルが上がりました』

『スキル『剣技』を手に入れました』


 ゴブリンによって勢いが殺されたことでジャイアントに対して掠り傷を与えるに止まったが、俺は奴が行動を起こす前に更にもう一撃。

 新たに手に入れた『剣技』の一つ、【強撃】を込めてジャイアントの胴体を薙ぐ。

【強撃】は速度こそ若干落ちるものの、威力は倍以上に跳ね上がるスキルだ。


 その力は絶大で、ジャイアントの胴体は大きく抉られ、奴は倒れそうになる。


 俺はもう一度【強撃】を込めてジャイアントに止めを――

〈ダメージを受ける 34/100〉


 ジャイアントに止めを刺そうとしたその瞬間、俺は何者かによる攻撃を受けた。


 咄嗟に回避したのに、掠った程度でこのダメージだと!?


 ダメージの元凶へと目を向けると、を持ったゴブリンがそこには居た。


 話には聞いている。ゴブリン剣士ソードマン……準C級の魔物。ジャイアントより一ランク上の上位種だ。

 恐らく時間経過と共に他のパーティの負担も増加し、こちらまでカバーしきれなくなったのだろう。


 マズい状況だ。ジャイアントに気を取られた隙にコイツにまで接近を許すなんて。さっきまで全然流れて来なかったから油断した。


 一先ずゴブリンを盾にして逃げ――

「――ッ!?」


 剣士ソードマンより振るわれた一撃を紙一重で躱す。

 刀身は見えていなかった。奴の腕の初動のみを見て予測の元、運よく成功したに過ぎない。


『スキル『予測』を手に入れました』

『スキル『回避』のレベルが上がりました』


〈新たな鍛錬が発生しました〉


〈緊急鍛錬:ゴブリン剣士ソードマンの攻撃を回避する5回 報酬:スキル『回避』のレベル1上昇 失敗によるペナルティはありません〉

〈緊急鍛錬:ゴブリン剣士ソードマンに攻撃する5回 報酬:スキル『鳳剣』 失敗によるペナルティはありません〉

〈緊急鍛錬:ゴブリン剣士ソードマンに勝利する 報酬:全回復&任意の所持スキルのレベル1上昇 失敗によるペナルティはありません〉



 はは、やたら介入してくるじゃないか。俺を贔屓する謎の正体は気になるが、まずは目の前の奴が先だ。


「――ッ!!」

〈ダメージを受ける 54/100〉


 回避を試みたものの、失敗し右の胴体が僅かに斬られる。

 奴が剣を振る軌道は見えない。

 予測と勘で回避するしかないんだろう。


〈ゴブリン剣士ソードマンの攻撃を回避する 1/5〉


 まず一つ。


〈ゴブリン剣士ソードマンの攻撃を回避する 2/5〉


 そして続けざまに振るわれた返す刀を回避する。


 ――よしッ! この調子で良ければ……


「――グッ!」

〈鍛錬:ダメージを受ける100HPが完了しました。報酬としてHP10が与えられます〉


 続けざまに攻撃を喰らい、あっという間にダメージを受ける鍛錬が達成されてしまう。


 だが、奴の攻撃は止まない。俺は必死に回避を試みた。



『スキル『予測』のレベルが上がりました』

『スキル『体術』のレベルが上がりました』


〈ゴブリン剣士ソードマンの攻撃を回避する 4/5〉


「ハァハァッ――!」


 あと一回、避ければ回避スキルが手に入る。


 だが、


 HP:29/335


 俺のHPはあと一撃掠るだけで死ぬレベルにまで追い込まれていた。


 身体中から血が溢れ出ている。このままでは回避に成功しても出血ダメージで死ぬだろう。

 ここから一度も攻撃を喰らわずに奴を倒して報酬の『全回復』を手に入れればなんとか助かる。それが唯一といっていい活路だ。


 しかし、それが無謀であることはこの数十秒で嫌と言うほど理解させられていた。

 回避に専念していた今ですら瀕死なのだ。回避のスキルレベルが1つ上がったところで、そこから攻撃可能なまでに逆転可能だとは到底思えない。

 そもそも、傷が深すぎて身体に力が入らない。次避けることすら現実的ではない。


 こんなところで死ぬことになるなんて……


 ……死ぬのが怖いのか?



 死ぬのは当然怖い。何も出来ないまま死ぬというのは身体の芯から震えそうなほどに怖い。


 だが、俺の目指す場所は安全マージンを取って、リスクを回避した末に届くような場所ではないのだ。


 コイツを殺した見返りはデカい。普通の冒険者が数年かけて歩く道のりをこの一瞬で歩くチャンスが今舞い降りているのだ。

 命を懸ける価値は十分にある。


 ……俺は最後まで諦めねえッ!! 


『スキル『不屈』のレベルが上がりました』

『レベルが11から12へ上がりました』

『レベルが12から13へ上がりました』


 さっきのジャイアントが息絶えたのだと直感的に理解する。

 奇跡的なタイミングだ。


 HP:117/395

 HPの上昇に伴い身体の痛みが少しマシになる。


 直後、ゴブリン剣士ソードマンから剣が振るわれる。


「――ッ! 【閃光斬】」

 俺は奴の動きを見切り、紙一重で回避する。更に、回避した流れで奴に一撃を叩き込む。

 通常の斬撃に速度が加算された【閃光斬】は、カウンターのタイミングが決まったこともあって、見事奴に命中した。


〈ゴブリン剣士ソードマンに攻撃する 1/5〉

〈鍛錬:ゴブリン剣士ソードマンの攻撃を回避する5回が完了しました。報酬が与えられます〉

『スキル『回避』のレベルが上がりました』


「さあ、逆転開始だ――」




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 読了ありがとうございます。 

 こちらは現在のステータス情報です。

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 年齢:15

 レベル:13(+3)

 HP:117/395(+100)

 MP:185/215(+45)

 力:51(+12)

 耐久:39(+10)

 敏捷:33(+8)

 技術:35(+8)

 器用:27(+6)

 魔力:22(+5)

 抵抗:25(+6)

 ギフト:修行

 スキル:『剣術Lv5(+1)』『体術Lv4(+1)』『毒耐性Lv1』『回避Lv4(+2)』『不屈Lv2(+1)』『集中Lv3(+1)』『魔力操作Lv1』『剣技Lv1(New)』『予測Lv2(New)』

 称号:【強敵殺しジャイアント・キリング

 ――――――――――

 【強敵殺しジャイアント・キリング】:自身より圧倒的に強い敵を単独で殺した者に与えられる称号。格上との戦闘時、HPとMPを除く全ステータスに補正。

 ――――――――――

『修行』

《鍛錬メニュー》

〈緊急鍛錬〉

 ・ゴブリンを倒す100体 報酬:全能力値10&ギフト『英雄の卵』

 ・ゴブリン剣士ソードマンに攻撃する5回 報酬:スキル『鳳剣』

 ・ゴブリン剣士ソードマンに勝利する 報酬:全回復&任意の所持スキルのレベル1上昇

〈中級鍛錬〉

 ・同格以上の敵を倒す1体 報酬:全能力値1 未

 ・初級鍛錬を全て完了する 報酬:ランダムな初級スキル 済

〈初級鍛錬〉

 ・剣の素振り1000回 報酬:技術1 未

 ・腕立て伏せ1000回 報酬:力1 未

 ・ランニング10km 報酬:敏捷1 未

 ・ダメージを受ける100HP 報酬:HP10 済

 ・魔物を倒す50体 報酬:耐久1 済

 ・MPを使う100MP 報酬:MP10 未

 ・魔法を受ける10回 報酬:抵抗1 未

 ・本を読む60分 報酬:魔力1 未

 ・料理を作る3回 報酬:器用1 未

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