第46話 全力発揮可能
16隻の宇宙船団を撃破し、帰還した攻撃隊を収容したスカイスフィア3は地球に向けて航行を続け、先ほど戦闘が行われた宇宙空間に近づいていた。
『相対速度の関係で、拾えるものは微小なものに限られるけど、何かわかるかもしれないから、残骸をいくらか回収しておく?』
「そうだな。できればそうしてくれ」
『了解』
『回収できた残骸は外殻の破片くらい。その外殻だけど、特殊鋼の薄板とセラミックの薄板を重ね合わせて強度を上げていただけで、技術的にはかなり遅れていた』
「それは仕方ない。
戦闘結果を見ても明らかだったが、ドーラから見てかなり遅れた技術しか持ち合わせていなかったということが分かっただけで十分だ。
ただ、乗っていた連中の手掛かりは欲しかったな」
『ごめん。そういった手掛かりは見つからなかった。将来連中と会敵することがあったら、その時こそ拿捕しよう。
あと分かったことは、破壊された宇宙船内で使われていた塩素系樹脂か何かが発生源と思うけど、戦闘宙域にわずかばかりの塩素ガスが漂っていた』
「塩素ガスか。了解」
地球に接近する人工天体で世界が騒然としているとはつゆ知らず、スカイスフィア3は戦闘宙域を後にして、いったん地球の衛星軌道に入った。太平洋上空から海面近くまで降下していく予定である。
『何だか、まだ地球が騒がしいんだけど?』
「何があった?」
『謎の人工天体が地球に接近して衛星軌道に入ったって』
「それってスカイスフィア3のことだろ!」
『やっぱり。
そうじゃないかなって思ってたんだよね』
「おいおい」
「とはいっても今さらだろ。とっとと太平洋で水を汲んでいったん上空に退避してしまおう」と、翔太。
『了解。
5分後に大気圏に突入しまーす。突入と言ってもゆっくり下りるから降下なんだけどね』
その後、スカイスフィア3は太平洋上上空500メートルまで降下し、転送機を使って海水を
スカイスフィア3が地球の大気圏に突入後、太平洋上で滞空しているあいだになにがしかの連絡が地球側のどこかの政府からあるかもしれないと圭一たちは考えていたが、今のところどこからも連絡は入っていなかった。
『これで1万3千年ぶりに全力が出せるよ。
スカイスフィア2には飲料水を送っておいたから』
明日香がタンクの残量を確認したところ、飲料水タンクも用水タンクも満タンになっていた。
『船内の居住区画と今スカイスフィア2が係留されている格納庫の温度も、もうすぐ摂氏20度。居住区画は20度で1気圧になるよう地球の空気で満たしたから、いつでもスカイスフィア3の中に入ってくることができるよ。もちろん、船内は滅菌されているから安心してね』
「ドーラ、ありがとう」
『どういたしまして』
「いったん地球の騒動を収めないといけないが、どうしたものかな」
「スカイスフィア3が宇宙海賊を撃破したって伝えて安心させるとか?」
「宇宙海賊については安心すると思うが、今度はその宇宙海賊を斃した謎の宇宙船が地球の大気圏内にいるんだが」
「確かに、地球から見たらその通りだな」
「まかり間違えれば、ミサイル攻撃を受けるかも知れないぞ」
『ミサイルに限らず何が飛んできても全部撃ち落とすから大丈夫だよ』
「その時は、ドーラに任せるから」
『任せて』
「いくらミサイルを撃ち落とせると言っても、飛んできてほしいわけじゃないから、地球側を安心させたいが、具体的にどうするかだな」
「地球に政府があるわけじゃないし、国連が正常に機能するかもわからないから、まずは日本政府に連絡して、日本政府から世界に発信してもらうってところじゃないか?」
「そうだな。とはいえ、日本政府にここから電話をかけるわけにもいかないし、そもそも政府のどこに連絡していいのかもわからないぞ。防衛省への直通スマホでもあれば便利なんだが、そんなどこかのweb小説に出てくるようなものはどこにもないし」
『いっそのこと、地球を乗っ取っちゃった方が面倒はないし結局は地球のためだと思うけど。
ちょうど宇宙海賊も撃退してやって恩も売ってることだし、何とかなるんじゃないかな?
それに、これから先宇宙海賊を根絶やしにするためには、スカイスフィア3だけじゃ無理なんだから、いろいろな意味で地球の資源は必要だよ』
「ドーラの言う通りなんだろうけど、俺たちは平和を愛する日本国民なんだから、世界征服はちょっとな。それに、そんなことをしたら後が面倒だしな」
『とりあえず、空の上に文字でも書いてみる?』
「そんなことができるんだ」
『まあね。漢字は難しいけれど、ひらがな、カタカナ、英数字なら書けるよ。
そのためにはスカイスフィア3が東京の上空にいないといけないんだけど』
「どうやって字を書くつもりなんだ?」
『色付きの微粒子で作った煙を文字の形に転送すればいいかなって。1文字50メートルなら十分でしょ?』
「色付きの微粒子で作った煙ってカラースモークのことか。
それならいいが、どういった文にするか考えないとな」
「圭一、それよりスカイスフィア3が東京の真上に浮かんで大丈夫なのか?
どっかでそんなSFを読んだことがあるが、大騒動だったぞ。それに、そんなことをするくらいなら、素直にラジオ放送した方が早いんじゃないか?」
「まったくだな。
いったんラジオ放送して、日本人だと知らせておいて、そのあと直接顔を出して説明するか?」
「
『戦闘ロボットを護衛に付ければある程度の攻撃には対処できるよ。
直接先方の拠点まえに戦闘ロボットを転送して安全確保。その後、転送で乗り込めばかなりリスクを軽減できると思う』
「いきたいわけじゃないが、いくしかないな。
ドーラ、まずは東京の上空に移動して、俺たちが日本人だということを放送して、それから首相官邸の真上、転送可能高度に着けてくれ」
『了解』
「圭一一人でいくつもりか?」
「ああ。もしものことがあったら、後は頼む」
「何言ってるんだよ。もしものことなんてあるわけないだろ。俺も付いていっちゃだめか?」
「翔太について来てもらえれば心強いのは確かだが、何が起こるか分からないからここに残ってくれ」
「分かった。
ドーラ、圭一が建物の中に入ってから、圭一の様子を知ることができるのか?」
『護衛の戦闘ロボットを圭一おにいちゃんに付けて建物の中に入れるから中の様子はわかるよ』
「ピンチの時は転送で圭一を逃がすことは可能なのか?」
『たとえ近くで爆発が起きても衝撃波が届く前に逃げ出せるから』
「ところで、戦闘ロボットってどんなものなんだ? あんまりゴツイと建物の中に入れないぞ」と、圭一。
『用途に応じていろいろあるけど、人間に近い形のものを送り出すつもり。数は6体かな。建物の中に2体、外に4体もいれば十分でしょ。
上空はスカイスフィア3だけで十分かもしれないけれど、威圧用に攻撃機も何機か出しておく?』
「そこまではしなくていいだろう」
『それじゃあ、東京に向かってシュッパーツ!』
スカイスフィア3はあえて弾道コースを取らず、高度4万メートルで中央太平洋から対地速度時速4000キロで4000キロの東京に向け移動を開始した。
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