第44話 地球へ…


 謎の宇宙船団からの英語による降伏要求は中波(AM)から超短波(FM)帯域までカバーして、ラジオ放送として地球上に流された。上空1400キロから大出力で発信された電波は電離層を突き抜けたうえ他の電波を押しのけており、地上で鮮明に受信することができた。



 宇宙からのメッセージが届いた時間帯でオープンしていた各国債券、株式市場は大暴落しそのまま取引が停止されており、その時間帯オープンしていなかったマーケットはオープンすることはなかった。


 銀行間で行われる為替取引はポジションの手仕舞いのための商いが膨らみ一時乱高下したものの、あえてリスクを取る向きも現れず、そのうち取引は低調となっていった。




 太平洋上の無人島消滅が謎の宇宙船団による示威行為であることは明白であり、地球上のいかなる都市、地域も宇宙からの攻撃に対して無力であることは明白だった。さらに地球上には上空1400キロまで到達する兵器・・は存在しないため、世界を指導していると自任している国連の常任理事国のどの国も打つ手はなかった。


 国連では安全保障理事会が急遽開かれたが、結論の出ない、いや出せないまま丸1日が経過していたる。そもそも、国連には地球を明け渡す権限などない以上当然ではある。


 国連が空転している間、衛星軌道を巡る宇宙船から再度同じメッセージが地球上に届けられ、同時に、太平洋上の無人島がさらに一つ消滅した。


 最初のメッセージのあと、地上では混乱が見られたが、それでも比較的落ち着いた状態だったが、2度目のメッセージを受け、このまま地球からの返答が遅れた場合、無人島ではなく都市が破壊されるかもしれないという憶測で、世界中の大都市ではパニックが発生し、すでに多数の犠牲者が発生している。


 そういった中で、スカイスフィア3は太陽系に帰還したことになる。



『さっきから地球からの電波を受信してるけど、かなり混乱しているみたい。

 地球を囲んでる宇宙船団は地球に向かって降伏勧告してる』


「宇宙からの最初の来訪者は侵略者だったというわけか」


「降伏勧告と言っても、地球にはまとまった政府なんてないんだから無理な話だろう。

 一体どうなるんだ?」


『国連とかいう組織も混乱してるみたい。

 それに世界各地の都市部でパニックが起きてる』


「それはそうだろうな。俺の屋敷は都市部から離れているから少し安心だが、明日香のうちのことも心配だし、真理亜さんのうちも心配だな」


「ここからじゃどうしようもないから、何事もないことを祈るだけ」と、明日香。


「わたしも」


「ドーラ、その宇宙船団について何か分かることはあるかい?」


『地球のことを戦力とみなしていないのか、最初から装備されていないのか分からないけれど、防御スクリーンを展開していない。艦種が16隻とも小型同型で戦闘艦タイプだから、上陸専門の部隊は連れていない。そんなところ』


「占領する気はないということかな」


『地球からは反撃されない衛星軌道から、地球上の軍事施設に限らずどんなものでも簡単に破壊できるから、地球の降伏を待つと思う』


「スカイスフィア3でその宇宙船団を撃退できるかな?」


『撃破した宇宙船は地球に落っことせないんだよね?』


「できればな」


『相手はそんなに堅そうじゃないから撃破することは簡単そうだけど、地球に被害を出さないようにして破壊するのは、今の燃料状態だと無理』


「このまま、スカイスフィア3が近づいていくと、連中はどう出ると思う?」


『向うからすれば、スカイスフィア3は未知の宇宙船だし、地球を今みたいに包囲することは不利だから、迎え撃ちにくるか、逃げ出すかどっちかだけど、それ以上は分からない。

 迎え撃ちにきてくれたら、簡単に勝てる。と思う。

 逃げ出されたら、おそらく追えない』


「敵の攻撃を受けてこちらが破壊される可能性は?」


『敵の主力兵器は実体弾みたいだから飛んでくる弾は全部撃ち落とせる。撃ち落とせないほど接近されるまでには敵を全艦無力化できる』


「こっちの主砲は6発しか撃てないし、副砲は15秒しか撃てないんじゃなかったのか?」


『攻撃機を出すから』


「攻撃機を出せるなら、地球を囲んだ状態の敵を撃破できるんじゃないか?」


『攻撃機の攻撃だと、相手をボロボロにはできるけど、粉々にはできないの。だから、大きな塊が地球に落っこちちゃうんだよ』


「なるほど」


『そろそろ、敵もこっちに気づいたはずだから動きがあるはず。時差は16分あるけど、そろそろ分かるよ。

 攻撃機は32機までなら出せるから出しておく?』


「それでスカイスフィア3は地球に下りて燃料を補給できるのかい?」


『できる。ギリギリだけどね』


「まだスカイスフィア2の中には100トンは水がある。ここまできた以上それも使ってくれて構わない」


『ごめん、それも最初から当てにしてた。

 それじゃあ、転送してしまうね』


「それはそうか。それじゃあやってくれ」


『了解。

 受け取ったよ』


「それで、ドーラは地球を囲んでる宇宙船団を何だと思う?」


『まともな軍隊なら、もう少し宇宙船の編成を考えているはずだから、正規の軍隊じゃないと思う』


「ということは、宇宙海賊のような連中?」


『宇宙海賊が拠点を作るため、開拓惑星に襲い掛かる手口そっくりだしね』


「ドーラの時代の海賊が今も生き残っていたってことか?」


『ううん。もちろんあの頃の宇宙海賊は滅びているはずだけど、新しく生まれたんじゃないかな』


「宇宙には多くの種族が存在するのかな?」


『もちろん、わたしは帝国が把握していたことしか知らないけど、50以上の知的生命体がいたから、その数はそんなに変わってないんじゃないかな』


「近い将来、平和的な宇宙文明に出会うかもしれないし、今回のようなほかの星を侵略するような連中がまたやってくる可能性もあるわけだ」


『本当に宇宙海賊なら、今回蹴散らしたとして、連中の拠点を探し出して根絶やしにしないとまた襲ってくると思うよ。別の宇宙文明だとすると、根絶やしは難しいけれど、これほど好戦的な文明は他の宇宙文明と戦っているはずだから、対応の仕方で何とかなるかもしれない』


「やつらは、木星のゲートから現れたのか?」


『あのゲートは13000年の間で、スカイスフィア2とドローンしか通過していないから、太陽系にあるもう2つのゲートのどちらかから侵入したんじゃないのかな?』


「太陽系には全部で3つもゲートがあるのか?」


『そう。土星と天王星の周りを回ってる』


「なんと! その2つのゲートもよその恒星系につながっているのか?」


『もちろん』


 ……。


『あっ! 艦首をこっちに向けた。なんだか回頭が遅いなー。

 包囲を解いてこっちに向かってくる。距離が距離だからまだ発砲はしていないけど、やる気みたい。

 よかった。これなら、楽に沈められるよ。沈めちゃっていいんだよね?』


「やってくれ、みんなもそれでいいよな」


「やるしかない」


「追い払えるのなら、やるべきよ」「わたしもやるべきと思う」


「攻撃はドーラに任せた」


『うん。任せて』



[あとがき]

サブタイはちょっとだけ雰囲気を出して見ました。最初は癖で3点リーダーを2つ打ってましたが、1つにしています。

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