第3話 謎の金属X、その3、山田圭一


 翔太は業務を終えて、その日も定時に退社した。


 自宅への帰り道、ファミレスで夕食を食べたあと、家に帰り着き、さっそく親友の山田圭一に隕石落下からの一連の出来事について記し、助言が欲しいとメールを送った。


 メールを送って1時間後、翔太の家の固定電話が鳴った。


『おう、俺だ』


「すまんな」


『メールを読んだが、まさに謎の金属Xだな。勝手に飛んでいったというところは興味深い。

 うまくすれば推進剤を使わない画期的な宇宙船の推進装置が作れるぞ』


 電話の向うの圭一が興奮気味に翔太に言った。


『ところで、そのなんとかトロンとか言う装置は翔太でも作れるのか?』


「キオエスタトロンだ。簡単な原理の説明は1年ほど前に聞いているから、機械屋の助けを借りれば何とかなるかも知れない。

 だけど、他人の研究成果を勝手にコピっちゃまずいだろ?」


『倫理的にはな。その研究成果を買い取るというのはどうだ? 10億も払えば何とかなるんじゃないか?』


「研究成果は会社のものだから何とも言えない」


『会社のものなら話はもっと簡単だ。物によったら10億では売らないかもしれないが、翔太の会社が相手なら何とかなるだろう。翔太の会社の大手顧客の企業の株はそれなりに持っているからな』


「さすがだな」


『翔太、もし本当に謎の金属Xにそういった特性があるようなら、今の会社を辞めて俺のところに来ないか?』


「どういうことだ?」


『推進剤を必要としない推進装置が実現すれば容易に宇宙船が建造できる。二人で宇宙船を作ってみないか?』


「何で宇宙船? 宇宙船なんてものは簡単にはできないだろ?」


『宇宙船は俺の子どものころからの夢だったんだ。

 俺が株をそれなりに持っている造船会社では自衛隊の潜水艦を作っている。空を飛ぶ動力さえあれば潜水艦はそのまま宇宙船に成る。もちろん不要なものは取っ払うし、水中を移動するわけじゃないから流体力学にこだわってあんな形にする必要もない。宇宙船に固有の装置は必要だろうが、動力の目途が立つなら宇宙船自体を作るのは潜水艦を作るよりよほど簡単だ』


「言われてみればそうかもしれないな。ガワの作りは空気が漏れず加速度に耐えればいいだけだものな」


『そういうことだ。俺も退屈していたところだしちょうどいい。宇宙船が最終的にダメになってもお前が俺の片腕になってくれればありがたいしな。

 それはそうと、そのなんとかトロンを作った研究員には秘密にしておけよ。お前の研究が盗まれるかもしれないからな。特に隕石は大切に仕舞っておけよ』


「まさか」


『転ばぬ先の杖だ』


「わかった。

 俺の方はもう少し試験を進めておく」


『何かわかったら教えれくれ。

 そうだなー。明後日の土曜日、夕方そっちに着くようにいくよ。近くについたら電話する』


「分かった」




 その日翔太は、前回と同じ試験を行うため隕石から前回同様5ミリ角の試料を切り出してジッパー付きの試料袋に入れ、通勤カバンに入れておいた。隕石は玄関口に置いておくのはさすがにマズいのでなんとか台所まで運んでおいた。台所にある石なら漬物石と誰もが思うだろうという安易な考えだ。




 翌日。


 試料には同位体の層に対して垂直方向と水平方向の二つの方向があることがわかったが、見た目だけでは判断できないので、また原子配列を調べる必要がある。


 翔太は前回同様、構造解析装置を持つ研究室にいって装置を使わせてもらい、その日持参した試料の原子配列の方向を確定した。


 次に、方向性を意識しながら、試料を整形し、抵抗計測用試料ケースにセットした。試料ケースの長軸方向が同位体の層の垂直方向になっているものと水平方向になっているものの二つを用意した。



 前回は運良く試料が窓方向に向かってくれていたから窓に孔が空くだけで済んだが、まかり間違えれば自分の胴体に孔が空いていたわけなので、翔太は抵抗分析機の近くに台を置き、その上に二つの試料ケースを長軸方向が窓側に向くよう並べて置いた。


 その後翔太は床に座り込んで、隣の部屋のキオエスタトロンが稼働するのをじっと待った。同位体の層が場に垂直ないし、水平になった時、未知の力が発生するのではないかとの翔太の予想である。



 10分ほど待っていたら、とうとう隣の研究室から低いブーンという振動音が聞こえてきた。振動音が安定したかと思った瞬間、台の上に並べておいた片方の試料ケースが消えてなくなり同時に窓ガラスが壊れた音がした。


 窓ガラスを見てみると前回同様孔が空いていた。飛んで行ったのは試料ケースの長軸方向が同位体の層に対し水平方向になっていたものだった。キオエスタトロンが作り出した場の方向に対して同位体の層が水平方向になっている場合、力が発生するようだ。


 キオエスタトロンが作り出す場の影響範囲を出たところで加速は終わっているだろうから、飛んで行った試料ケースはどこかに落ちているだろう。そう思った翔太は研究所の庭に出て飛んでいった試料ケースを探してみたが見つからなかった。



 力が発生したことは分かったが、物が飛んでいった以上なにがしかのエネルギーが消費されたはずだ。そのエネルギー源が不明だ。キオエスタトロンの出力などたかが知れているので試料ケースが窓ガラスを貫通するほどの運動エネルギー源とは考えられない。それなら、エネルギー源はどこなのか? 可能性があるのは試料ケースの中のプラチナだけだがプラチナがエネルギー源ということは考えにくい。


 そこらも含めて圭一に相談しようと翔太は考えた。



[あとがき]

カクヨムのではSFジャンルの3分の2はVRMMOものじゃないかというほどVRMMOが流行っているというか普通のSFが過疎っていますが、作者とすれば、なんとか普通のSFものに流行ってもらいたいものです。

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