スーパーヒーロー
ドサッ
「ゲホッ、うっぅぅ。いて、いててて!!! 」
でも次の瞬間、痛みを訴えたのは露天商の男の方だった。
―― え?
恐る恐る目を開けると男は私と同様、地面に倒れ込んでいた。
そしてその男の前に立っていたのは見知った人だった。
―― い、
そして、
「な、何をする! は、離せ!」
そしてその男の胸ぐらを掴んだままその男の体を片手で立たせる。
そして、地に立たせるだけでなく、そのまま持ち上げた。
「えっ…」
露天商は
「あ、足が浮いてる…。」
ふと気づけば野次馬が集まっていて周りの人たちがどっと歓声を上げる。
「すげーお侍さん! 力持ちだなー!」
「そのままやっちまえー!」
露天商は足をジタバタしながら
「お、下ろしてくれ!」
と悲痛の声を上げる。
「あい、分かった。」
と言って、
その瞬間にその男の体は3メートルくらい飛ばされて、強く地面に叩きつけられた。
「いててて!」
町の人たちがわっと拍手喝采をし始める。
ど、どうしよう。すごく怒ってる。
顔が怖い!!
「ご、ごめんなさい。私…」
「話は後だ。」
町の人はまだ地面に転がってる商人に罵声を浴びせている。
「ざまぁ見やがれ、ボッタクリ商人め。」
「お前の所からは金輪際何も買うもんか。」
「さっさと店を畳んじまえ!」
「あ、あの、お侍さん!」
そこに、さっきの子供連れの女性が来た。
「その方は私を助けて下さったんです。どうお礼を言っていいかわかりません。」
「お、お願いです。奥様をしからないであげて下さいまし。この通りです。」
女性は
「お...おく...」
「…しかるつもりはない」
といって
歩きながら、不意に「
―― え?
びっくりして見回すと、人混みから
「酒を買って来い。稲荷小川に行く。」
「は。」
私は、わけがわからないまま、
商人町の裏手にある人気のない通りに来ると伊月さんは立ち止まり、私の背中に手を回した。
―― な、なに?
その瞬間、視界がぐっと高くなる。
「えっ」
「あ、あのっ」
「大人しく捕まっていろ」
私は体のバランスを取ろうと、思わず
「あの、自分で歩けます。」
「嘘をつけ。」
――
さっき地面に突き飛ばされた時に、左の足首をねじっていた。
本当のことを言うと、ここまで歩くのも結構痛かった。
きっと私が後先を考えず、無茶をして、こんなことになっちゃって、呆れられてるはずだ。
「ご迷惑かけて、すみません。」
こんな自分が不甲斐ない。
「迷惑ではない。」
「でも...」
私は何と言っていいかわからず、そのまま口をつぐんだ。
私が何と言っても有無を言わさず助けてくれる。
小川の水を手ぬぐいに浸し、土だらけの私の手の平を洗ってくれる。
「うっ。」
地面に叩きつけられた時に両手をついて、手の平は擦り傷だらけになっていた。
そこに
―― 消毒してくれてるんだ。
傷口に染みる痛みとともに、胸が苦しくなる。
―― 悔しい。
「
「承知。」
「
「これしきのこと、いっこうに構いませんよ。」
「では。」
そして、よく冷えた手ぬぐいを私の左の足首に巻き付けた。
「うっ。」
捻った足首はさっきよりもちょっと痛みが増している気がする。
「二日間は安静だ。今夜辺り腫れるぞ。」
「
泣きそうになるのをグッとこらえる。
自分でしでかしたことで泣くなんてダメだ。
そう言い聞かせて、唇をキュッと結んだ。
その時、
そして、そっと私の右の頬に触れた。
―― え?
びっくりして
「そのような顔をするな。陰鬱な顔はそなたには似合わん。」
さっきまで泣きそうになっていたのに、途端に自分の顔が上気したのが分かった。
耳まで熱くなって、かたまってしまう。
不意に心臓が高鳴りだす。
「あ、あのっ。」
あたふたしている私を他所に
「乗れ」
「え?」
「その足では歩けぬ。オババ様の所まで送って行く。乗れ。」
「で、でも…」
私は恥ずかしくてテンパっている。
「また、さっきの抱き方がいいのか?」
「い、いえ、じゃあ、おんぶで。」
テンパっている私を見て
―― なんだか、その笑顔、ずるい。
「では早くしろ。」
「し、失礼します。」
私はおずおずと
「あの、重くないですか。」
「重くない。」
気まずくて何か話そうとするも、すぐに会話が終了してしまう。
―― あんまり話したくないのかな
暫く黙っていようと努力する。
―― おんぶなんて初めてだな
―― 人の背中ってこんなにもあったかいんだな
―― 子供がお父さんやお母さんにおんぶしてもらいたがるの、分かるなぁ。
私はあまりの心地よさに、ついに脱力モードになってしまい、無意識に頬を
「はぁ、
「な…何を急に。」
―― あ。思わず心の声が漏れてしまった。
「全く…そういうことを簡単に言うものでは無い。」
―― 不謹慎と思われたかな。
「すいません。つい…。」
「そなたは
「う…。呆れてますか?」
「ああ、呆れている。」
「やっぱり...。」
ガックリ項垂れる私に
「だがその
―― 能天気って2回言われた。
「そうでしょうか。私は
「私が救ったのではなく、
―― オババ様もそうだけど、
―― 思わず甘えちゃいそうになる。でも...
「私、やっぱりちゃんと強くなって、自立して、
恩返し宣言をした私を、フッと
「そなたの恩返しとやらを楽しみにしておく。」
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