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(カナ様味は恐らくコーヒーとして……超絶☆限定エキセントリックドリンク~幸子だって頑張って生きてるんですっ!?味~一体何なんだ……。設定上不憫な方な幸子たんは料理下手なはず……その上この毒々しい紫色……俺は一体何を飲まされるんだ、)
と、自分で選んで買った飲み物に戦々恐々ワクワクしつつ、両手に飲み物を持って一義は浦川の元へと歩んで行った。
すると、だ。
何やら、ベンチに座り込む浦川に、同い年位の少年達――ここでバイトでもしているのか、この失楽園の制服を着た少年達が3人、声を掛けているのが見えた。
(ナンパか?)
まあ、キャラT着てようが可愛いもんは可愛いし、目立ちはするだろうしな。
そんなことを一義は思ったが……どうも、そう言う訳でもないらしい。
「何してんだキモ川お前。何?一人で遊園地来てんの?」
「つうかその格好ヤバくね?クソダセェんだけど。恥ずかしくねぇの?」
少年達の口調は嘲るようで、それらを受けて、浦川はひたすら俯き、黙り込んでいる。
(知り合いか何かか?……キモ川?)
そう、眉を顰めつつ……一義はその場へと歩み寄り、声を投げる。
「浦川。飲み物買って来たぞ。……場所を変えるか?」
そう声を掛けた途端、浦川はすぐさま視線を上げ、小さく頷く。
怯えた……というか、ちょっと泣きそうになってる。そんな事を思い、僅かに顔を顰めた一義の耳に、その途端だ。
「プっ、ハハハ……なんだその格好。ダセェ……何?キモ川、お前の恋人か?キモい奴にはキモい恋人が出来るんだな?」
絡んでいる3人、その内リーダー格か何かなのだろうか。茶髪の少年がそう嘲るような声を上げ、浦川はまた俯いてしまう。
そんなリーダー格らしき少年を、一義は顔を顰めたままどこか呆れたように眺め……リーダー格の少年は、その一義の視線に気付いたらしい。
「……なんだよ。何か文句あるのか?」
「ああ。不愉快だ。絡まないでくれないか?」
そう正直に言った途端、反抗されると思っていなかったのか、リーダー格の少年は「ハァ?」と眉を顰め、その背後で、取り巻きの二人が若干戸惑ったように顔を見合せている。
それを前に、一義はまた言った。
「そもそも。バイト中に客に絡んで良いのか?」
「……休憩時間に何してもこっちの勝手だろ」
「なら、その制服は脱ぐべきだろう。その服を着ている以上、お前の行動は失楽園のスタッフの行動として映る。如何にバイトであれ、報酬を貰っているのなら節度を守って義理立てするべきだ」
そう到って普通の事を言ったお寺の子を前に、けれど歯向かわれたこと自体が気に食わないのだろう。
リーダー格の少年は苛立たし気に言った。
「ごちゃごちゃ偉そうに言ってんじゃねえよ……。なんだ?女の前でカッコつけようってか?」
「いや。俺は割と普段からこうだが……?」
と、日常的に自分に正直にキャラTを着続けている少年は平然と言った。
が、その態度がより一層気に食わなかったりしたのだろう。リーダー格の少年は尚苛立たし気に一義を睨み、歩み寄って来る。
(……めんどくさいな、)
まあ、矛先が浦川でなくこっちに来たから良いか。
とか思い……そのめんどくさがってる表情が思いっきり顔に出ている一義を睨み付け、リーダー格の少年は言って来る。
「なんだその顔は……舐めてんのか?」
(スタッフの言動が迷惑クレーマーな件について)
一義はちょいちょい鉄平の家の喫茶店で接客している。するとたまにこういう日本語が通じず、難癖をつけた上で勝手にヒートアップしていく迷惑な客がいるのだ。
どうせこの一瞬イラついてるだけだから、大人に対応を引き継いだりするとだいたい収まる。が、今引き継ぐ相手はいないし……。
「はい、すいませんでした。……浦川。行こう、」
とりあえずそれだけ言ってこの場を終わらせよう。そう思った一義の視界の端で、浦川は小さく頷き、立ち上がっていた。
そして、俯き加減になってしまった浦川と共に、これ以上付き合う必要もないとその場を後にしようとした一義の肩を、リーダー格の少年は掴み、言う。
「おい、待てよ。……なんだその態度は。馬鹿にしてんのか?」
(……一番めんどくさいキレ方の奴だ)
なぜか(表情が正直すぎるせいで)よく食らう落としどころがない感じの絡まれ方に、一義は内心ため息を吐きつつ、言う。
「してません。すいませんでした。……お宅の新商品の超絶☆限定エキセントリックドリンク~幸子だって頑張って生きてるんですっ!?味~が気になって仕方がないから早く楽しみたいだけです」
それだけ言ってまた歩み出し、俯き加減でついてくる浦川に視線を向けて、一義は言う。
「……何味だと思う?紫色してるんだが……」
「え?うん……」
浦川はそう、曖昧に呟き、俯くばかりだった。
(……すぐには楽しめないか、)
まあ仕方がないだろう。どこか、レストランホール以外の場所で今度こそ休んで……と、とにかくここから距離を取ろうと思った一義の背で、リーダー格の少年は言っていた。
「なんだよ、その態度は……。良かったなキモ川!今度は庇ってくれる同族がいてさ!」
そう矛先を向けられた途端、浦川は俯き唇を噛んでいる。それを横目に、一義は言う。
「気にしなくて良い。どうせアイツらは暇なだけだ。相手をするだけ損だ」
「キモいんだよ……イキってんじゃねえぞキモオタが。オイ!」
無視だ無視。所詮3次元、関わっても腹を立てても疲れるだけだ。
「なんか言って見ろよ陰キャが。……オイデブ川。キモいんだよ。物好き見つけて良かったな。見た目変えたら男捕まえられましたって?臭ぇんだよ、ブス」
…………………。
流石に、聞くに堪えない。
「浦川。……ちょっと持っててくれないか、」
「え?……平泉くん?」
そう戸惑う声を上げた浦川に、両手に持っていた飲み物を渡し、一義は反論が来ないからと背後で好き放題言っている輩へと、振り返った。
「……あ?なんだよ……」
やっぱり反抗されると思っていなかったのか、若干怯んだ様子の輩を眺めながら、一義はそちらへとゆっくり歩み寄って行く。
「よく考えたら、……俺は今バイト中じゃなかった」
「……ハァ?」
「もめ事があって困るのはお前達の方だ。違うか?」
「……何言ってやがる、」
「だからお前達はこれから派手に転ぶ。そうだろう?」
そう、依然冷静そうな面持ちのまま。だが完全に苛立ち切った雰囲気でゆっくり、一義は輩たちへと歩み寄って行き……。
それに、輩たちは怯んだように後ずさっているが、関係ない。
喧嘩を売って来たのはそっちだろう?買ってやろうってだけだ。どうなろうと文句を言う権利はないだろう?
そう、若干自制が外れたまま、一義はリーダー格の少年の胸倉へと手を伸ばし掛け……。
と、その瞬間である。
「――シュタっ!」
という圧倒的セルフ効果音が響き渡り、一義とリーダー格の少年の間に、小柄な人影が割り込んできた。
レインコートのフードを被り、両手になんかさっきその辺で見た気がする……そう、スポーツチャンバラのふわふわした剣を持った少女。
その少女は、両手の剣の切っ先を一義とリーダー格の少年へと向け、言う。
「……感情のままに力を振るうなと、教えておいたはずだがな……」
言って見たかっただけでその言葉に特に深い意味はないのだろう。その少女を目にした途端、一義は若干冷静さを取り戻し、眉を顰め言う。
「双葉?……何してるんだお前?」
「双葉ではありません。……我が名は!スポチャンマイスターてっちゃん!の助手っ!争いの決着はスポチャンで決めるのがこの世界のルール。古事記にもそう書いてある。……ってあっちのお兄さんが言ってましたっ!」
「双葉ちゃん?止めるのは良いけど俺にヘイト押し付けようとするのは止めて?」
と、何故か向こうの物陰にいる鉄平が呆れたように言っていた。
「……鉄平?」
何してんだこいつら。と、完全に冷静になった一義の前で、双葉――いや、スポチャンマイスターてっちゃんの助手は無駄に器用に両手の剣を宙に放り投げ、持ち変え、一義とリーダー格の少年へとそれぞれ、剣の柄を向けると、言う。
「話は聞かせてもらった。若きスポチャンバトラー達よ。その血潮と情熱、お互いのプライドを賭け正々堂々、ルールに則った正しいバトルを。……バトル開始の宣言をしろ、マイスターてっちゃん!」
「……なんで助手に命令されてんのマイスター……」
と、マイスターてっちゃんが向こうで呆れた様子で言っていて、そして、突然訳わからない状況に巻き込まれたリーダー格の少年は、気圧されたように呟いていた。
「なんなんだよ一体。……訳わかんねえよ。クソ、」
そして、訳わからなさが苛立ちに勝ったのだろう。付き合っていられないとばかりに、その場に背を向けようとする。
だが、その瞬間だ。
「……ほう、野良スポチャンバトルですか……」
立ち去ろうとしたリーダー格の少年の前に、訳知り顔で腕を組んだ通りすがりのスーツのおじさんが立ちふさがった。
「……誰だアンタ」
と、至極真っ当なツッコミを入れたリーダー格の少年の横に、また別の通りすがりの人物が現れる。
「挑まれたバトルからは、逃げない。……それがスポチャンバトラーとして当然の嗜みだぜッ!」
と、ポロシャツの青年が言い放ち、それにリーダー格の少年はやはり至極真っ当なツッコミを入れている。
「……だから誰だよ、」
と、そこで、だ。また新たなる通りすがりの人物が、リーダー格の少年へと言っていた。
「逃げんじゃないよ、坊主。さっさと
「あんたはなんで昼間から遊園地で飲んでんだよ……ていうか、だから誰なんだよ、」
リーダー格の少年は律義に突っ込み続けていた。
と、そこで、だ。リーダー格の少年。の、取り巻きである二人が、婚期遅れのお姉さんの雑な挑発に乗っかって行った。
「なんだと……舐めんなよババァ!みっちゃんは剣道で関東大会準優勝した事だってあるんだ!」
「スポチャンでだって、みっちゃんはそこそこ最強だ!だよな、みっちゃん!」
「あ、ああ。……まあな、やった事ねえけど……」
取り巻き達の言葉になんか逃げられない空気を察したのか、リーダー格の少年――みっちゃんは観念したようにスポチャン用のふわふわの剣を手に取っていた。
そして、本当に剣道経験者だったのだろう。みっちゃんはきっちり背筋を伸ばして剣を正眼に構えている。
それを前に、双葉は一義の手へと剣を握らせ、それから一義の背後に回ってから腕を組み、ノリノリで偉そうに言い出した。
「フン!準優勝程度で兄さまに挑むなんて、片腹痛いぜ!」
(((……挑ませてるのお前だろ、)))
一義もみっちゃんも向こうで見てるてっちゃんも心の中でそう突っ込んだ。
が、ある意味無敵な女子中学生は意に介さず、堂々と兄の背中に隠れ続ける。
「控えおろう!このお方をどなたと心得る!……ここにおわすは剣道2段。中学時代、優勝間違いなしと目されながら見たいアニメがあるからと全国大会をブッチした末面が臭い豆が痛いめんどくさいと剣を置いた喜劇の剣聖……平泉一義公であらせられるぞ!頭が高い!」
ホビーアニメだと思ってたら実は勧善懲悪だったらしい。
そんなやりたい放題な妹を背に、一義は一つ小さくため息を吐くと、それからふと、その顔に笑みを浮かべた。
「フン。チャンバラごっこは嫌いなんだ……」
そんな呟きと共に、一義は具合を確かめるように一度空に剣を振り、それからそれを頭上、大上段に構えると、みっちゃんを睨み付け、言い放つ。
「……どうせ、俺が勝つしな」
「「「なんかかっけぇ!」」」
通りすがりのスーツとポロシャツと酔っ払いがそう声を上げていた。
そして向こうで、みっちゃんの取り巻き達はこそこそ言う。
「や、やべぇ……なんかみっちゃんがやられ役みたいになってる……」
「んな事ねぇよ!みっちゃんはそこそこ最強なはずだ……だよな、みっちゃん!」
その取り巻き達の言葉に、みっちゃんは一義を眺め、呟く。
「平泉……ノーガード大上段、」
そして次の瞬間、思い出したとばかりに目を見開くと、言った。
「……一義くん、」
「「みっちゃん!?」」
という取り巻きの声も耳に入らない様子で、みっちゃんは剣を持つ手に力を込めていた。
そして、双葉に睨まれせがまれ、ため息を吐いた末の鉄平の声。
「バトル開始~、」
そのやる気のない声で、無駄に因縁がありそうな勝負は、始まった。
そしてやんやとギャラリーがうるさい、遊園地の一角で始まった勝負の片隅。
完全に背景になった浦川の元へ、双葉はふと歩みより肩を叩くと、言った。
「……ヒロインが途中から空気になるのは男児向けホビーアニメの宿命」
そう言った双葉を横に、誰だろうこの子と思いながら。
「……わかる、」
浦川はそっちにも理解があった。
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