ぼくが悪役令嬢ダダダダダ‼

柴又又

プロローグ①

 揺れる、揺れる、馬の嘶き、辟易する。馬の足を速めた前の業者、後ろの少ない護衛は応戦するために離れて行った。

 窓を突き破って入ってきた鍵縄のとっかかり。見えたのはメイド服、メイド服にしては動きが秀逸すぎる。

 暗殺者、突入してきたメイド風の女、振り上げたナイフ――スカートの中から取り出したコインガンを向ける。ぎょっとした表情、吹っ飛ばす。破裂した女。

 この先には崖がある。

「うわぁあああ」

 おそらく業者が振り落とされた。ドップラー効果をともない悲鳴が遠ざかっていく。グラリと揺れて、刹那が止まって見えた。今だけの無重力。

 隣の女性を模した夜術、エルフリーデを使い、体を衝撃から守る。死体と踊る。衝撃をエルフリーデで守り、目の回るような空間の移ろい、彩る景色。

 ガラス片や辺りにぶつかった反動で、エルフリーデは人間としては生存不能なほど歪に歪んでいた。もっとも彼女は人間では無いのでこの程度は何ともない。

「あー痛い」

 久しぶりに言葉を発したようにも感じる。やっと解放されたからか、事態、自体に反して心と体は軽かった。

 スカートを脱ぎ、取り出したのは戦闘用黒衣と、黒羽の外装。コインガンの上部を開き、コインを装填する。

 死体を確認しに来るはずだ。エルフリーデを残して外へ出る。全員殺す。誰が死んだかわからなくするように。どうせこの後全員、口封じで殺される。ならぼくが殺しても構わないじゃないか。その方がいい。やらせてよ。たまってんの。

 やってきた暗殺者。退路を断つ、断たれる。コインガンを構え、発砲。何かする前に発砲、発砲発砲。指にかかるトリガーの反動と、射出されたコイン。着弾地点で破裂するコインと、コインの性能を理解できずに死んでゆく人々。

「ドラッベンラヴァーナヴィー‼」

 そんなお前に恨まれることしてないと思うけれど、見知った顔の女性、死体を盾に突っ込んでくる。死体を踏み台にして、振り下ろされるナイフ。構えたガンを横にしてナイフを抑え、なんでナイフなのと首を傾げるが、致死性の何かが付着されているのかもしれない。ナイフをいなして足を払い、顔に向けて発砲、避けられるが、コインは渦を巻き咲き乱れ、頬を八つ裂きにする。悲鳴と、破裂する左目、払った足と、心臓に銃口を――。


 相手が何か言葉を発する前に、引き金を引いていた。心臓にめり込んだコイン。衝撃と命の簒奪。

「さよなら。マルグリーダ」


 索敵、索敵、索敵、最後。吐き出した息と、肩に乗せる銃。今日、やっと終わったの。やっと終わった。ドラッベンナヴァーナヴィーとしての人生が終わりを迎えた。それを感じて、強い解放感と、微弱な喪失感と、意味の無さを痛感して、やる気も溜飲もさがっていく。


 殺したマルグリーダ。抉れた服と肉、血の匂い。

 変形したエルフリーデが、馬車の中から出て来て、歩くたびに体が元へ戻っていく。彼女は人ではない。生物ですらない。エルフリーデの持ってきた鞄を受け取り、遠吠えが聞こえる。思ったよりも早い。魔物(ホロウ)が来る。四足の黒い獣たち。

 エルフリーデを伴い、その場を離れる。襲い掛かって来たホロウを、コインガンをバッドにして打ち返す。

「食い物をあっちだ‼」

 死体に群がる魔物の群れを見ながら、精々食い荒らしておくれと、そうすれば、もうぼくは、私は死んだ事になる。


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