おじいさんの質屋

黒白 黎

逃がしてしまった…

 昔、私の家は質屋だった。

 と、言っても昔の話だ。おじいさんが14歳の頃までだから、私は話しでしか当時のことを記録するほかはない。いくつか面白い話を聞いたのでそのうちひとつを載せます。


 おじいさんが小学生の頃は、幽霊は勿論、神様とか妖怪やら祟りなど非科学的なものが当たり前に信じられていた時代で、そういったものを室谷に持ち込む人は少なくはなかったそうだ。

 どういった基準で値段をつけていたのかは分からないが、おじいさん曰く『おやじには霊感があったから、そういう神がかったものを見分ける事ができたんだ』と言っていた。


 壺や皿、人形に石。蔵は薄暗く物がとにかく多い。

 子供心をくすぐられ、親父(おじいさんの親)に怒られるのを承知でおじいさんはよく遊んでいた。

 中でも興味を持ったのは、竹で作られた笛。

 作りは荒くて、素人のような手作りのようだった。

 永らく置いてあったためか見るだけで本当に吹けるのかと思ったそうだ。

 試しに吹いてみると、「ぴょろろろ~♪」と音が鳴った。

 ただ音が出るだけでなく、只の竹筒の笛なのに、空気を吹き込むだけで音楽が鳴りだし、聞いたこともない音が蔵中に響いた。


 不思議だなぁと思い笛を覗き込むと、竹笛の中には綿が詰められていた。

「綿が詰まっているのに音が出るなんて……??」

 不思議に思った。綿が摘めてあるのに音なんてなるはずがないのだ。

 親父に怒られるのも承知か、おじいさんは興味心のせいか手を出してしまった。

 おじいさんは綿を抜いて笛の中を覗いてみたが、ただの竹笛である事に変わりはなく、振っても笛からはなにも出てこない。

もう一度吹いてみると、ニョロリと白いうどんのようなものが出てきた。

 よく見ると、うどんではなく白い蛇が出てきていた。

 ヘビは笛から逃げるように飛び出ると、そのままサササっと蔵の外へと逃げて行ってしまった。


 なにが怒ったのかよく解らず、ボーとしているとダダダダッと重い足取りとともにかけてくる音に肩を震わし振り向いた。そこには鬼の形相をした親父が立っていた。

 案の定こっぴどく叱られ、蔵での出来事を話すと、

「笛の音がしたからまさかと思ってみたら……あぁ~これじゃ商人になりはしねぇ」

 笛をじろじろと見ながら愚痴る。親父がおじいさんに笛をポイっと投げ渡し

「もう一度吹いて見ろ」と言われ、恐る恐る吹くと音が出ない。

 何度強く吹いても、優しく吹いても、空気が吹き出る音しかしなかった。

「いいか、お前が逃がしちまった者は、大事な神さんだったんだよ! これに懲りたら二度と蔵の物に手を出すな!!」

 とゲンコツと共に怒られたのであった。


 しかし、この話を聞いた後、おじいさんは「大事なもんならよ、木箱やら金庫にでも入れておけばよかったのに。あんな隅っこに置いておくから、逃げ出すんだよ」とあの時のことを思い浮かべながらちっとも反省はしていなかった。

 もうずいぶん前に亡くなってしまったけど、愉快な人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る