第107話 死ねない

「はひぃっ!?」

 

 そして俺は転生した俺の顔がイケメンであるからこそキリッとキメ顔をして、オリヴィアの目を真っ直ぐに見つめながら『オリヴィアは可愛いから見惚れていたよ』と伝える。


 するとオリヴィアは変な声を上げながら倒れそうになるではないか。


 おそらくオリヴィアの今の心境は前世の俺からすれば国民的アイドルから『君がイケメンすぎて見惚れちゃった』と俺の目を見つめながら言われたようなものであろう。


 それを考えれば今オリヴィアが過呼吸になって倒れそうになっているのは仕方のないことかもしれないのだが、ここで倒れら得ては面倒なのでオリヴィアにはなんとか耐えてほしいところである。


「はひぃっ! はひぃっ! はひぃっ!」

「オリビアッ! 『ひっひっふー』と呼吸をしてみてっ!!」

「は、はいぃぃいっ! ひっひっふーっ! ひっひっふーっ!」


 そして俺はオリヴィアに呼吸法を教えるのだが、これって妊婦が出産する時にする呼吸法だっけ? と思い、即座にストレージから小さめの袋を取り出してオリヴィアに渡すと、それを口にして呼吸を整えるように伝える。


 流石に俺の判断ミスで死なれたりしたら目覚めが悪いのでなんとか間に合ったようで一安心である。


 そしてラマーズ法は間違いである事を否定するのを忘れていたためオリヴィは俺の渡した小さめの袋を口につけて『ひっひっふー』と呼吸しているのだが、オリヴィアの呼吸が整ってきているのでわざわ過呼吸の時にラマーズ法の呼吸方法は間違いでしたと伝える必要もないだろう。


 一番大切なのは間違いかどうかではなく助かったかどうかであるのだから。


「た、助かったぁー……っ。 も、もうっ、嘘でもいきなりそんな事を言われたらびっくりするじゃんかっ! 次からは気をつけてよねっ!! …………ほ、ほんとう死ぬかと思った、てか死んでも良いかと思ったけどまだクロード様と放課後デートをしていないので死ねないっ!! が、がんばれ私っ! がんばれ私の心臓っ!!」


 そしてなんとか生還してきたオリヴィアは俺へ軽口を叩いてくる。 


 その軽口はオリヴィアの精一杯の演技である事は理解しているのだが、それでもフランクに接してくれるのはこの世界では珍しく、なんだか嬉しく思うのは仕方のない事だろう。


 あとオリヴィアの心臓にはこのまま頑張ってほしいのだが『一緒に帰る』というのがいつの間にかオリヴィアの中では『放課後デート』へと変わっていたので、ここは彼女の為にもただ帰るだけではなくちゃんとデートっぽい事をしながら帰ろうと俺はこの後の予定を変更する。

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