第87話 師匠





 私がクロードの住んでいる場所に逃げ込んだ翌日、クロードは私の母親へと連絡を入れていたようで、わざわざお母様が私を迎えにクロードの住んでいる別荘まで来てくれた。


 そして、それと同時にお母様から私は抱きしめられ、今までの事を泣きながら詫びてくるではないか。


 どうやら私が家出した事でお母様なりにかなり堪えてこたえていたらしく、それこそ私の父親と縁を切る覚悟だったのだが、実際に男性である父親を目にしてしまうと女性としての損得勘定が働いてしまい、母親としての感情と天秤にかけてしまっていたそうで、そのことについて母親として失格であると泣きながら謝罪してくる。


 しかしながら結果として父親の性別は何故か今朝起きてみると女性に変わっていたらしく、そのお陰で女性としての感情が邪魔をしてくる事も無く父親に対して縁を切る事ができたとの事である。


 ちなみに父親と縁を切るのと同時に今まで奪われたものや騙し取られた金銭の返還請求も行っていくとの事で、その事についても今まで不憫な生活をさせてきた事を謝罪された。


 そして『私は母親からちゃんと愛されていたんだ』と言う事が伝わって来て、私もお母様と一緒に今まで溜め込んできたさまざまな感情を洗い流すかのごとく泣いてしまう。


 しかしながら私はしっかりと見ていた。


 ある程度謝罪し尽くした後に落ち着いて来た母親は、クロードを見て一瞬女の顔になった事を。


 だから、母親と手を繋いで帰路についた時にそれとなく聞いてみる事にする。


 今のお母様は女の顔ではなくて母親の顔になっているのだけれども、もしかしたら私とお母様はライバルになるかもしれないのだ。

 

 そう聞いてみるとお母様は『ないない。 確かにカッコイイとは思ったし下腹部がキュンキュンしてしまったのだけれども私にはもうすでにジュリアンナがいるもの。 それに、娘の思い人に手を出すほど堕ちてはいないわよ』と言って頭を乱暴に撫でられる。


 お母様に頭を撫でられるのはいつぶりだろうか。 何だかそれだけで心があったかくなてくる。


「それに、私の年齢的にも流石にね。 だから安心なさい」


 そういう母親の表情はとても優しかった。


「でも、同年代のライバルが多いから心配かも……」

「何弱気になってんのよ。 貴女は誰の娘だと思っているのよ。 クズではあるものの一応男性の心を射止めた女性でもあるのよ。 家に帰ったらいくらでもその時に使った男を落とす技の数々を教えてあげるわよ」

「ぜ、ぜひお願いするわっ!!」


 そして私とお母様は私のお母様でもあり師匠にもなるのであった。

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