土曜日の神原家 ~「紫の国」閑話~
erst-vodka
第1話 アイスクリーム
ここ神原家では土曜日だけは母さんが夕食を作る。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
母さんが返事をしたので勇樹は話をつづけた。
ごはん茶碗に山盛りの白米はわかる。
おかずはシーフードフライだよね?冷凍食品の。
で、このキャベツの炒め物?火が通ってないんだけど。
というか、生なんだけど。
母は
何言ってるのよ、千切りキャベツでしょ?
ドレッシングかけて食べてね。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
千切りキャベツがなんで1センチ5ミリ幅あるんだよ!
細いじゃない。それが限界よ、私には。と母。
ま、まぁいい。食べられなくもない。・・・うん。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
なんでカレーを茶碗にルーだけ注いでいるのかな?
平たい皿にご飯よそってかければいいじゃん、カレー。
洗い物も少なくなるし。
何言ってるのよ、それお味噌汁よ。と母。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
なんで味噌汁がトロトロしてるんだよ!ってかトロトロじゃねえ!
ドロドロじゃねえか!
遠目にはカレーに見えるぞ!ってか近くで見てもカレーじゃねえか!
何言ってるの、きちんとお湯を沸かして鰹節でダシとって
具材入れてお味噌を濾しながら作ったわよ。
ちゃんとみそ汁の味はするわよ、濃いけど。と母。
いや、味についてじゃねえよ!味の話じゃねえ!と、勇樹。
あ、具材はワカメと豆腐とネギよ。 と母。
え?豆腐?見当たらないんだけども。と勇樹。
ちゃんと入れたわよ、と母は言うと豆腐が入っていた袋を
持ってきて俺に見せた。
寒天と書いてある。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
どれくらい入れた。と勇樹。
勇樹さんは豆腐大好きなので3袋くらいかな?と母。
こ、これを3袋か!?
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
母さん、今回ばかりは無理だ。
・・・このみそ汁は無理だ。
人間が立ち向かえる代物ではない。
もしかしたらシーフードフライにかけたら
おいしいかもよ? と母。
斜め上を行き、フライ用のソースと言いやがった・・・。
もったいなくて、それでいて人間としての食に対する
貪欲な感情。
一番最初にナマコを食べた人間の気持ちとはこういった
物だったのかもしれない。
俺はシーフードフライに味噌汁(仮)をかけて食べた。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
次からは土曜日も俺が作るよ・・・。
そういって皿を片付け、洗う。
母さんの料理に鍛えられたのか、味覚がバカになっているのか
しらないが、実はちょっとおいしかった。
母さんを見ると少し「シュン」としていたので
母さんがお風呂あがったら一緒にアイスたべようかと言うと
速攻でお風呂に行ってくるね♪ といつもの笑顔の
母さんに戻った。
数分後お風呂から声が聞こえた。
「勇樹さ~んや、ちょっといいかなぁ~」
「なんでしょ~~、母さ~んや」
「たまには一緒に入る~?」
「入んねえよ!」
少し上ずってしまった、声が。
お風呂から笑い声が聞こえた。
俺は母さんに出すチョコバニラアイスに
チョコソースと言ってとんかつソースをかけてやろうかと
思ったがアイスがもったいないのでしないことにした。
一時してお風呂から上がった母は目で
「アイス、アイス」と訴えてきた。
俺はアイスを準備し二人で食べた。
「母さんや、ちょっといいかな」
「なんでしょうか?勇樹さん」
おいしいね、アイス。
うん、おいしいね♪アイス。
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