うん?
エース
はっとして
定期券を通して列車に乗ると暫くして動き始めた。琴乃はいつものように耳にイヤホンをさして、単語帳を取り出して黙々と読み始めた。
学校に着くと、親友の
「おはよーっ!」
「…おはよ」
“!”が何個あっても足りないくらい元気すぎる声で襲い掛かるのかという勢いに琴乃は一歩下がってしまった。静かな雰囲気の琴乃とは正反対の性格だから倍くらい気が引けてしまう。
「昨日のあれ見た?」
「…あれ?」
「あのペンギンが出てた番組!もう可愛すぎて沢山キュンキュンしちゃった!」
…そうなんだ。私も見たかったな。
授業が始まると隣の席の
「…教科書見ていいよ」
と言って机を寄せた。肩が少しつかえて、向こうは気づいてないのか無反応なのにこちらは少し戸惑ってしまった。授業が終わり誠が
「さんきゅな」
とだけ言って友達の方へ歩いて行った。何故か好きでもないのに少し心が熱くなった。でもそんな時間は短かった。
その日帰りの駅に向かう途中で琴乃はトラックに轢かれた。自転車に乗っていたので4mほど飛ばされた琴乃の意識は透き通ったまま、病院へと運ばれた。
…私死んじゃうのかな。
…まだ死にたくないよ。
…やりたいことだって…やりたいことってなんだっけ。
そんな感じで意識が朦朧としながら遠のいて行った。
7時間後、琴乃は集中治療室から歩いて出てきた。そこにはお母さん、お父さんが居る。うん?
記憶が錯綜する。お母さんは5年前にガンで、お父さんは翌年にお母さんを追っかけてしまった。私はまだ中2だったのに、私と5つ上のお兄ちゃんを残してこの世を去った。そういえばお兄ちゃんが居ない。こういうのって家族や友達が来るもんじゃないの?
スッと振り返ると私ははっとして気がついた。お兄ちゃんは居た。そして、茜、担任の先生、刑事さん、そして運転手らしき人の姿が見えた。私は嬉しくなって手を振った。珍しく私は笑っていた。誠が焦ったような顔つきで走ってきた。学校からは4kmはあって、誠の家は学校のすぐ前。そして自転車がない彼は走ってきたのだろう。しかし、一瞬で青ざめた。
その由に気づくのに一瞬たりともかからなかった。向こうに自分の姿が見えた。その瞬間涙が溢れ出した。ようやく自分がこの世から消えようとしていると分かった。
お母さんとお父さんは
「なんで琴乃が轢かれたの…許せない…」
「お前にはもっと生きてて欲しかった…いや、僕が死んだのが悪かった。すまない、琴乃」
「私まだ死にたくないよ!生きたいよ!」
お母さんとお父さんは目を合わせて言った。
「行ってきなさい。まだ間に合うわ。」
そして琴乃は亡骸の方へと歩きその上に横になった。
その1時間後、私は1度脈、呼吸が止まった後に復活した。まさに奇跡だった。私は家族に先立たれ、酷い人生を歩んできたのだと勝手に思ってた。だけど、今やっと気が付けたんだ。
幸せはすぐそばにあって、自分が見ようとしていなかったことに。
彼女は誠を見てはっとした。
「…大好き」
普段の様子からは想像もできないくらい涙で顔がボロボロになった顔の誠は顔を赤らめた。
それから運転手の人と裁判やらなんやらと私には全然わかんないくらい難しいことを、法学部卒のお兄ちゃんが全てやってくれた。やはり頼りになる。悲しいことに、彼女は両足を失ってしまったが、それでも今は楽しく過ごせている。
「うん?雨が降ってきたみたい。」
「そうだね、早く帰らなきゃ」
今日はお母さんとお父さんの六回忌。2人が好きだったビートルズの音楽をかけながら、茜、誠と4人でご飯を食べた。琴乃がほっぺたにご飯粒をつけてたもんだから、彼女たちははっとして大笑いした。
それから琴乃がアメリカで医学を学んだのはまた別の話。
The story of "Hattoshite" was fiction.
Thank you for reading this tale.
うん? エース @ace_22
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