M2

(塩気で軋んだドアが開く)


「口止め料もらいに来たよ! あっあっ、もう燃してる! なんで待てないの!」

「昨日録ったから良いじゃないですか」

「それもそうか」


 『地の底で怪物が唸るような音』


「ボタン押して催促するヤツがありますか」

「そんな都合良く鳴らないし。でもほら、心は込もってるからさ、良いじゃん」

「その態度のどこに?」

(鞄を開く)

「というか今日も来るなんて聞いてませんよ。今日もいると言ってもないです」

「でもあと七本あるって言ってたでしょ。それに実際、お弁当は残しておいてくれたんだもんね。この子ったら優しく育って、まあ」

「弁当はどっちにしろ処分に困ってるんですよ。全方位を都合良く解釈するんじゃない」


 『チャイム』

 『椅子を引く』『椅子を引く』『椅子を引く』『机が揺れる』『戸を開く』


「よし、昼休みの気分になってきた。いただきまーす」

「え、怖い。何かの儀式ですか? 自己催眠?」

「シヅカちゃんお弁当は? 授業中に食べたの?」

「お昼にいただきましたよ。私の現実ではもう放課後なので」

「おー、相対性理論だ」

「誰も光速に近付いちゃいませんよ」

「校則から遠ざかってるもんね! うまい!」

「黙れ」


 『「はい」』


「今の私の声じゃないですか。いつの間に録ったんだ」


 『「私が不用心だったんですかね」』


「ムカつく上に空しくなるので自分で喋って下さい。あと質問に答えろ」

「実はマイクがもう一本ありまして、そっちは昨日もずっと回してました」

「盗聴じゃねえか。盗撮は否定しておいてこれですか」

「そんなにタイミングよく録れないから……」


 『「ごめん」』


「こっちは私の声。頭を下げて家で録りました」

「謝れたのは偉い。でも絶対にその口から聞きたかった」


 『「ハイ」』

 『「ワタシガブヨウジンダッタンデスカネ」』


「これはハイピッチ」

「ここまでコケにされることあるんだ」

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