タルチェフは誰?

キョウ・ダケヤ

セットアップ

第?話 私は誰?

 煌びやかな化粧鏡に見下ろされながら、淡々と手を洗う。形良く仕上げた眉が繋がりそうなくらいに表情を歪めながら、淡々と。

 

 上品な調度品に見守られながら、黙々と手を洗う。陶器のように造り上げた肌が赤みを帯びても、黙々と。


 豪奢な蛇口に目を背けられながら、粛々と手を洗う。背中を伝う汗に寒気を感じつつも、粛々と。

 

 曲げ続けている腰や肘からのクレームなんて、知ったこっちゃない。怪訝な顔をしてじろじろとこっちを見てくるやつのことなんて、到底構っていられない。

 気づけば視界は狭く、自分の手のひらしか見えなくなっていた。頭の中は、流れる水の音で満ち満ちている。

 世界が徐々にまっしろ。いや、まっくろに染まっていく。


 

 

――ピピッと、いかにも機械的なアラームが鳴った。


 ゆっくりと顔を上げる。

 

 世界が広がる。


 そして感じる、皮膚から周囲の空気全てを感じ取れるような超常感。

 不安。後悔。信念。希望。夢。

 全部全部、流し切った。完璧だ。今までで1番の出来なのは間違いない。


 さぁ行こう。

 喜劇の主役は、誰にも譲らない。

 

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