第9話 更新されないホームページ
塩谷は、届いていたプレゼントをバックの奥に忍ばせて、店に行くタイミングを伺っていた。
いつものように、HPを覗いて見たものの、彩音の出勤表が全休暇のまま更新されていない。
来る日も、来る日も出勤表の更新がされず、塩谷は落胆の日々を過ごしていた。
「どうしたんだろう? 全然更新されないよ。病気になっちゃったの? 辞めちゃった? 俺に逢うのが嫌なのか? いや、そんな存在感大きい筈ないか。 病気だったら大変だよな。あー、心配だぁ、だけどどうしようも無いし...」
無力感に押し潰されていた。
仕事も、全く手に付かない。HPの更新が無いかと、1日に50回は覗いて見たものの、回数は何の力にも成らない。
苦しい時の神頼み、おぢさんの考えそうなことであるが、何かしてないと自分がどうにか成りそうだった。
神社に行って泣きながらお祈りし、お寺に行ってお参りしては、厄除けのお守りを買った。
”これ、渡せる日が来るのかなぁ?”
そんな事を考えながら、多摩川の土手を歩いていた。
iPods からは、エド・シーランのシバース♪ が流れ、頬には大粒の涙が流れた。
”この歌詞、俺の気持ちそのまんまだな! 俺の心は君の矢に打たれたかぁ。あー、ゆうかちゃんが好きで仕方がない。君に逢いたい、逢いたくてたまんないよ...”
名曲も、時には残酷になる。
聞けば聞くほど思いが強く成り、苦しさが増して行くばかりなのだ。待つ事しかできない悲しみを助長するかの如く。
一方の彩音は、気持ちが沈んだまま部屋に引きこもっていた。
自分の選んだ仕事を悔いたりもしたが、いつもならあと少しだからと前向きになれるのだが、今回は何故か傷ついたままだった。
”もう、5日も休んじゃった。麗奈も心配してるし、頑張らなきゃ。”
気丈に振る舞えなくて、妹に心配かけていることも、気になっていた。
そんな時、机上の花瓶が目に入った。
”田中さんに頂いたお花、綺麗だったなぁ。”
花はとっくに枯れて、捨ててしまっていたが、花瓶を見ながら田中の事を思い出していた。
”お花くれるお客さんなんて、ほんと珍しいよね。田中さん、どうしてるかな? また私に逢いに来てくれるかな? 何か、逢いたい。”
”なら、私 出勤しなきゃ逢えないじゃん! 田中さんに逢うためには、出勤しなきゃ。私のこと思ってくれてるって言ってたから、きっと逢いに来てくれる筈”
おぢさんの贈った花がきっかけで、少し前向きになれた気がした。
「もしもし、店長。ゆうかです。長い事お休み頂いてすみませんでした。次の月曜から出勤出来そうなので、3日間シフト入れて頂けますか?」
「そう、体調良くなって、よかったよ。じゃあ、月曜から水曜で良いのかな?」
「はい!」
このシフトは、彩音を前向きにしただけでなく、塩谷もまたどん底から救ったので有った。二人を繋ぐのは、唯一 シフトだけなのだから。
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