リオたちのカーニバル!

黄黒真直

第1章 リオたちの説得

第1話 文化祭がしたい!

「文化祭が、したい!」


一週間ぶりの登校日。生徒会室で私は言った。マスクで声がこもらないように、はっきりと。


「この中学に入学して一年半。去年の文化祭は中止になったし、今年もできそうにないと先生に言われました。このままでは今の三年生は文化祭をやらないまま卒業してしまうし、私たちもそうなってしまうかもしれない。だから、どうにかしてやりたい。文化祭を!」


私は言葉に熱を込めて、生徒会のメンバーに訴えた。


この風祭中学の生徒会メンバーは、私を入れて五人。二年生が三人と、一年生が二人だ。三年生はもう引退している。

生徒会ってのは、生徒の代表として、学校の先生たちと話し合いをしたりする人たちのこと。そしてこの私、蟹場かにば理音りおは生徒会長。つまり、代表の中の代表だ。


生徒会長は、学校内の選挙で選ばれる。その選挙はちょうど先週行われて、私が見事当選したんだ。

選挙のときから、私はみんなに宣言していたんだ。私が生徒会長になったら、去年やらなかったイベントを復活させる、と。

そして私が当選した。なら、やらないわけにはいかないでしょ?


だけど、みんなの反応は薄かった。困ったような顔で、何か言いたげにしている。


ともる! どう思う?」


私は幼馴染の小室井こむろいともるをビシッと指差す。燈は白いマスクの位置をちょっと直した。


「理音の公約だったし、やるべきだと思う。だけどこの間、国枝くにえだ先生がはっきり言ってただろ? 文化祭は今年も無理だ、って」


国枝先生というのは、生徒会の顧問の先生だ。私たちが学校側に何かを提案するときは、国枝先生を通すことになる。


「やるべきなのに、できないってこと?」

「そういうことになっちゃうね、残念だけど」


私はほっぺたを膨らませた。マスクで見えてないと思うけど。


「僕だって文化祭はやりたい。でも、ハードルが多くて、現実的ではないと思う」

「みんなも同じ意見?」


他の三人にも話を振った。すると、一年生の桃瀬ももせ姫名ひなちゃんが小さい声で言った。


「わ、私も文化祭、やりたいです。大きいお祭りだって聞いてたから……」


姫名ちゃんはとても背が小さい。お人形みたいに小さい。そのせいか、大きいものが好きらしい。


「対面が無理なら、オンラインでもいいんです。大きなイベント、やってみたい」


「会長がやるなら、手伝うよ」


ゆっくりとした声で、藤間とうままと君が言った。姫名ちゃんとは対照的に、体が大きくて力持ちの二年生だ。


「的君自身は、やりたくないの?」

「……」


的君は黙ってしまった。彼は物事をゆっくり考える。だから、すぐに返事をしないことがある。

その間にもう一人の一年生、大麦おおむぎ神流かんなちゃんがハキハキ喋った。


「やりたいとかやりたくないとかじゃ、ないんです。あたしは、知らない。文化祭を。だってあたし、やったことないし。小学校の運動会や夏祭りも、四年生の頃からやってない」


それは、私も同じだ。私も本物の文化祭はやったことも見たこともない。


「逆に聞きたいんですけど、どうして会長たちはやりたいんですか。知りもしない文化祭を」

「俺も、聞きたい」


的君も同じ考えみたいだった。


「理音。おそらく神流さんみたいな生徒は、多いだろう。まずはこういう人たちを説得できないと、文化祭は不可能だ。理音は、どうして文化祭をしたいんだ?」


私が文化祭をやりたい理由。

それは——。

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