クラス転移から始まる世界の主を決める戦い
如月 愁
エピローグ
ここはとある高等学校。
そこではいつもの昼休みを過ごしていた……はずだった。
クラスメイトが全員椅子に座った頃、床が光ったのだ。
「なっ!?」
教室にいた生徒達は驚きの声を上げた後、光が消えると同時に消えてしまった。
そして教室には誰もいなくなっていた。
◆
「うーん……」
目を覚ました俺は周囲を見渡した。
そこはまるで神殿のような場所だった。
大理石みたいな白い石で出来た壁と柱。
天井は見えないほど高く、その中央には大きな水晶のようなものがあった。
周囲には俺と同じクラスの生徒達がいた。
どうやら全員無事らしい。
とりあえず安心だ。
そう思った時、水晶から声が聞こえてきた。
『ようこそおいで下さいました勇者様方』
透き通るような女性の声だった。
すると突然、目の前に大きなスクリーンが現れた。
そこには美しい女性が映し出されていた。
髪は長く銀色で、瞳の色は金色。
耳が長く尖っていることからエルフであることが分かる。
また背中からは天使を思わせるような純白の大きな翼が生えており、服装も白いドレス姿だった。
そしてその女性は話し始めた。
『私はこの世界エリアルスを守護する女神ルリアです』
やはり彼女は女神であったようだ。
しかしエリアルスってどこだろう? 聞いたことがない名前だが……。
『貴方達の誰かがこの世界の主になって欲しいのです」
「え?」
俺達は驚いた。
女神の口からいきなり世界の主になってくれと言われたからだ。
「ちょっと待て! どうして俺達なんだ!」
クラス委員長の鈴木が質問をした。
『それは私にも分かりません。ただ貴方達の誰かがこの世界の主となって私の次の主になって欲しいのです」
どうやら本当に分からないらしい。
ただ俺達に世界を救ってほしいと言っていることは分かった。
「嫌よそんなの!」
一人の女子生徒が叫んだ。
確か名前は佐藤さんだったはずだ。
可愛い子だけど性格がきついことで有名だ。
ちなみに俺は彼女と話したことはない。
「そうだぜ!なんで俺達がお前のために戦わなくちゃいけないんだよ!」
鈴木が同調して叫ぶ。
他のみんなもウンウンとうなずいている。
確かに彼らの言う通りだと思う。
『貴方達でなければダメなのです』
「はあ!?」
鈴木の顔が怒りに染まる。
「どういうことだよ!」
『私にはもう力が残されていないのです。このままでは私と共に世界が消滅してしまいます』
女神の話によると、元々女神はこの世界にはいない存在らしい。
この世界とは別の異世界にある神界という場所でずっと眠りについていたのだという。
それが数百年前に目覚めて地上に降臨した。
しかし力を使い果たしたせいか再び眠ってしまったのだ。
そして再び目覚めた時にはすでに力を失っていた。
このままだと消滅するしかないという。
そこで残された力を別の者に託すことを考えた。
しかしその力は強大であり、扱える者は少ない。
そのため自分の代わりに世界を救える者を召喚することにしたのだ。
つまり俺達は選ばれたということなのか? でもなぜ俺達が選ばれたんだろう? 俺達なんてごく普通の高校生だぞ。
『どうかお願いします。世界を救いたいと思ってくれる人なら誰でも構いません』
女神の言葉を聞いたクラスメイトたちは考え始めた。
しかし誰もがため息をつくだけで何も言おうとはしない。
無理もないと思う。
こんなことを言われても困るだけだ。
「ねえ、僕たち帰れるんですか?」
眼鏡をかけた男子生徒が尋ねた。
確か彼はオタクで有名な三谷君だったはず。
『残念ながら帰れないと思います』
「そ、そんな……」
彼の顔が絶望の色に染まった。
それを見た何人かの生徒も暗い顔をしている。
中には泣いている者もいた。
どうやら帰りたくはないけど、二度と家族や友達と会えないかもしれないと考えると悲しいようだ。
すると鈴木が女神に向かって怒鳴りつけた。
「ふざけんな! 勝手に呼び出しておいて帰れないってどういうことだ!」
『……申し訳ありません』
女神が悲しそうな声で謝罪した。
さすがに言い過ぎたと思ったのか、鈴木が気まずそうにしている。
「ごめんなさい。別にあなたを責めてるわけじゃないのよ」
佐藤さんがフォローするように言った。
彼女の言う通り、鈴木は何も悪くない。
悪いのは俺達をここに呼んだ世界の運命の方だ。
『私も本当は皆さんを元の世界に戻してあげたかったです。しかし今の私にそこまでの力はなく、こうしてお話しすることしか出来ないのです』
「そう……ですか」
鈴木は少し落ち込んだ様子でつぶやく。
それからしばらく沈黙が続いた。
するとクラスのムードメーカーである西本が口を開いた。
「女神さま。どうして俺たちじゃなきゃいけないんだ? 他にもっと強い奴がいるんじゃないか?」
『それは分かりません。ただ私に残された僅かな力で貴方達を召喚したのです。おそらく貴方達の中で一番強かったからでしょう』
そういえば女神は俺達のことを"勇者様方の中で一番強い"と言っていた。
『それに貴方達が選ばれなかったとしても、いずれ別の誰かが選ばれるかもしれません』
「え? それってどういうこと?」
佐藤さんが尋ねる。
『私にも詳しいことは分からないのですが、貴方達を召喚されたのはこの場所だけではありません。他の国でも貴方達と同じように私によって召喚された者たちがいたのです』
「他の国にもいた?」
『はい。ですが貴方達のように全員が協力してくれるとは限らないのです』
「なんだよそりゃ!」
鈴木が呆れたように言う。
『貴方達も見た通り、この世界には魔物と呼ばれる危険な生き物が存在しています。そんな世界で生き抜くためには、お互いに協力し合わなければいけません。もしも貴方達にその意志がないのであれば、この場で私を殺して下さい』
女神が覚悟を決めた表情で言う。
その言葉を聞いて俺の心は大きく揺れ動いた。
正直言って俺はこの世界の人間ではない。
だからといってこの世界の人たちを見捨てるのは違う気がする。
しかし俺は平凡な学生だ。
特別な能力があるわけではない。
俺なんかよりも優れた人間はたくさんいるはずだ。
「本当にそんなことが出来るのかい?」
クラス委員である鈴木が尋ねた。
『はい。私はこの世界を守護する者。貴方達の意思を尊重します』
「そうか……。なら僕は殺さないよ」
鈴木があっさりと答えた。
「鈴木君!?」
佐藤さんを始めとして他のみんなも驚いていた。
「みんなはどうしたい?」
鈴木はみんなの方を向いた。
みんなは互いに顔を合わせている。
「俺はこの世界を救うべきだと思う」
俺は手を上げて発言した。
「おい新島! お前本気で言っているのか!」
鈴木が驚いたような声を上げた。
「本気だよ。だってこのまま放っておいたら世界が滅んでしまうんだろ? そんなの嫌じゃないか。それにこの世界にだっていい人はいっぱいいる。もし彼らが苦しんでいるのだとしたら助けてあげたいんだ」
「そ、そうか……」
鈴木が納得してくれたみたいだ。
他のみんなも俺の意見に賛成してくれそうだ。
『ありがとうございます』
女神が俺達に向かって頭を下げた。
「で、でも僕たちが本当に戦う必要はあるんですかね? 別に僕たちは戦いたいわけじゃないんですけど」
オタクの三谷君が言った。
確かに彼の言う通りだ。
俺達は平和に暮らしたいと思っているだけで、わざわざ危険を冒してまで戦おうとは思わない。
『もちろんです。貴方達は戦いたくないという気持ちで構いません。しかし貴方達が戦ってくれるなら、相応の報酬を用意します』
「報酬?」
『はい。私が持っている力の一部を貴方達に授けましょう』女神がそう言うと、俺達の前に魔法陣が現れた。
そしてその中から何かが出てきた。
「これは……」
出てきたものを見て、俺は思わず息を呑む。
それは剣だった。
しかもとても美しい装飾が施されたロングソードだ。
「これって聖剣エクスカリバー……なのか?」
鈴木が驚きながら呟く。
どうやら鈴木も知っているようだ。
「うそ……本物なの?」
佐藤さんが震えながらつぶやいた。
彼女の他にもクラスメイトのほとんどが同じ反応をしている。
『どうか受け取ってください』
女神がそう告げると、俺達の目の前にあった光が集まり、一本の聖剣となった。
「すごいな……」
俺の手の中に現れたのは黄金の輝きを放つ一振りの剣だった。
この世に存在するどんな武器よりも美しく、強力な力を秘めていそうなオーラを放っている。
『貴方達にその力が扱えることを祈っています』
「あ、ああ。頑張るよ」
正直言って俺にこんな凄そうな剣を扱うことが出来るとは思えない。
だけどやるしかないだろう。
「……ん?」
俺はふっと思って自分のステータス画面を開いてみた。
するとレベルが2になっていることに気付く。
「どうして……?」
『それは私の加護です。貴方達を召喚した時に私から授かったものです。それが貴方のレベルを上昇させました』
「そう……なんだな」
女神の加護か……。
これで少しは強くなったということだろうか?
『では皆さん。これからよろしくお願いします』
そう言い残し、女神は消えていった。
こうして俺達は女神の力の一部を受け取ることになったのだ。
そして、エリアルスの地に飛ばされたのだ。
……だが俺だけはこの場所に取り残された。
「あれ?どういうことだ?」
そうしたら、水晶に先程消えた女神が現れた。
『すみません。あなたに一つ言っておきたいことがあったので……』
「なんだ?」
『今後貴方達がどうなるのかは貴方の判断によって未来は変わります。未来を握っているのは貴方です。……最後に私から引き留めたお詫びとしてこれを授けましょう。それでは、お待ちしております。主人公さん……』
「は?ちょ、どういうk……」
女神は最後意味深なことを言い、俺をみんなのところへと飛ばされた。
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