第5話

「ふたりで登校してさー、お昼休みに屋上のベンチに座ってふたりでご飯食べるのも久しぶりだねー。そっちはパンねー、美味しそう。食べるって、えっ、その食べさし?」


「嫌だったかって……ちっ違う違うよ! 食べる食べる食べる! ほら、あーん……もぐっもぐっもぐ。そんなに早く食べなくてもって、だってもう引っ込めそうだったでしょ」


「ほ、ほら。私のおべんと食べる? 唐揚げあげるから。ん、あーんして……なに恥ずかしがってるの。あんたが先に言ったんでしょ、早く口開けなー。はいっ」


「どう、美味しい? そ、そっか。よかった。それ……昨日、私が作ったもので……わかってた? ふふっ、ほんとかなぁ。昔はさ、こんな食べさせるなんて普通だったのにね。いまは人の目のないところでやってるんだから」


「……なに黙ってるの。いまさら恥ずかしがってるのかなぁ〜? 私の顔が真っ赤!? そういうことは言わないの! まったく……えっと、ね。ご飯食べたあとってちょっと眠たくならない? うんうんなるなるよね。だから、その、私のこの膝が空いてるんだけど、ひ、膝枕とかどう。目を瞑ればさ、実物のある白翼 あかねの膝枕──なに即決してるの!? 最強の立体音声、よろしくお願いしますって土下座してまで畏まらなくていいって! あー、もう、ほらお昼休み終わっちゃうよ。早く横になりなー」


「わっ、くすぐった。あんまりモゾモゾしないでね、初めてなんだから。意外ってなによ。彼氏がいるぅ? ……いるわけないじゃんそんなの。あっ、あんたまさか私に彼氏がいるって思ってたの。あー、最近帰りが早いから? いやその程度で……? 変な気回しすぎ。まったく……ほらほら私の初めての膝枕ですよー。はいはい。お邪魔してください。要望があるぅ? 白翼 あかねっぽくやってぇ? ……はー、しょうがないなぁ……そんな声で言われたら断れないじゃん。んっんっーあっー。はい、白翼 あかねの膝枕にようこそー。えーと、あんたハンドルネームなに? あんころもっともっち……って私の初期放送からいる人じゃん……ええ……よく見つけたね……えらいえらい、頭撫でちゃうぞー」


「目を瞑ると光景が浮かぶ、ね。あんたほんと好きよねー……どうしてそんなにV好きになっちゃったんだか……私の、せい? えっ! なにそれ!? 身に覚えがないんだけど、どゆこと!?」


「言わないってなに……私には言えないことなのかな~? そ~れ。ほっぺぐりぐりー。言いなさいよー、気になるじゃない~。私が関係あるなら、私に比があるかもしれないんだから。私には関係ない? 私のせいなのに? それより白翼 あかねとしての時間を楽しみたいぃ? いいけどさー。まっ、いいけどさー……。じゃあ、ほら。団扇用意してあるから。この前のASMRのリアル版って感じで。準備がいいねって……こうなるかなって薄々思ってたからさ……君は好きみたいだし」


「そ~らそ~ら。あんころもっともっちさんに、涼しい風を送るからねぇ~。屋上の風と相まって気持ちーでしょ~? 髪撫でながらやるともっともーっといいよね。君の髪はいつでもふわふわで、触ってるこっちが和やかになるよ。こらこら。くすぐったいって動かない! こっちもくすぐったくなっちゃうでしょぉー。あ、こらっ。本当にうずうず動かれると困るんだからっ! そんな子はこうだよっ。ふーっ、耳に息吹きかけてやるんだから。ぞわぞわするって、私もそうなってるの。わかったら落ち着いて、ね? 穏やかに私の行動を受け入れてね」


「ふー……もうちょっとでお昼休みも終わりだねぇ……。久しぶりにこうやって入れて嬉しいよ。あんたはどう?」


「そっか。あんたも嬉しくて、楽しかったならよかった。白翼 あかねとしても?」


「目を瞑ってたらリアルにそこにいるようだった、か。よかったねぇ~……ほんと、ファンでよかったね。私がVじゃなかったらこんな機会ないんだから」


「でもいいのかって、幼馴染がどうたらって言ってたって? うん……本当は駄目だと思う。けど、そこはちゃんと君を信頼してのことだから、さ。私がVを始めた理由もあんたなんだから」


「えー、教えないよー。気になるって言われてもねぇ。そっちもVにハマったって理由教えてくれたらいいよ。ダメ。そう。じゃあ教えられないな~!」


「意地悪ってわけじゃあないよ~。そっちが教えられないならってだけ。私だけ教えるのずるいし!」


「そっちが話してくれるか、私が覚悟できたら言ってあげるからさ。根比べだね」


「んふふ、私は負けないよ~? そうだなぁ、あんたがあまりにも可愛かったら負けるかもね。私が言ったら可愛かったってことだからね。負けだと思いなよ?」


「さて、と。じゃあまた明日ご飯一緒に食べようね~?」

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