その厄病神は消えていた。@花咲さくら

 スクショにはわたしがしてきたことが英治くんになって載っていた。


 誕生日、夏祭り、文化祭…そこまで詳細ではないけど、思いあたることが多い。


 唯一、英治くんとわたしの肉体関係だけは嘘だった。でもそんなの他の人にはわからない。


 彼にはずっとバレていたんだ。



 なら、なんで? 


 なんで…あんな優しい目で?


 わたしを見てくれていたの?


 包んでくれてたの?



 高校一年の時だった。


 セフレ扱いで初恋が散り、復讐心だけのわたしだった。


 わたしの小さな時から大事に温めていた想いを踏みにじったのは、一つ上の幼馴染のあいつだった。


 だからセックスなんて、もうしたくなかった。


 それを思い出したくなかった。



 でもそんなの無くても良いって。


 手を繋ぐだけで、包んでくれる恋のじれじれの心地良さがあるって。


 一緒に居るだけのあったかい無形の愛があるんだって。

 

 穏やかでゆっくりと育む関係があるんだって。


 英治くんが本当の恋を教えてくれたんだよ……


 身体の関係なんて心から否定してたわたしが、こんなにも自分から求めたいなんて思ったことなかったのに…



「全部話したのに…誰も信じてくれないんだよ…英治くん…一番の幸せって…このことだったの? さくら、英治くんがクズなんて言われたら…幸せじゃないよ…クズなの…わたしなのに…」



 それに…



 ずっと復讐を相談していたネットの中の友人は、いつの間にか忽然と消えていた。


 裏切られた時にたまたま出会ってこれでもかと慰めてくれた、心を救ってくれた、親友とも呼べる友人だった。


 沙織と夕香には中学の時のあいつとの関係上、相談出来なかった。だから本当に助けてもらった友人だった。


 その友人はわたし以上にあいつを憎んでくれた。


 その友人の頼みを断れなかった。



───大きな復讐のためには…最後に一回とか、くらいは…駄目かな…? 辛いとは思うけど…きっちりまずは惚れさせたいんだ───



 誕生日も! 夏祭りも! 文化祭も! 英治くんとは会えなかったのにあいつにはきっちり会わせて!


 もう本当のことを明かして英治くんに謝って許しを乞うって相談しても否定して!


 何通も! 何回も! 毎日のように! 復讐に目を向けさせるように焚き付けて!


 そもそもあいつとの関係をクリスマスまで引き延ばすよう言ったのはあんたじゃない! 


 そんなこと、するんじゃなかった…

 

 皮肉にも、英治くんが居たからクリスマスまで心を保てていたのもあったんだ。


 ごめんなさい、ごめんなさい、英治くん。


 わたし、ただの馬鹿で酷い裏切りものだった。


 復讐なんて過去、見るんじゃなかった。


 ただ英治くんとの未来だけ見ていれば良かった。


 なんであんなにもあれに縋っていたのか…


 あんなの、ただの厄病神じゃない…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る