英治くんがそこに居た。@花咲さくら
クリスマス。
丁寧に隠してきたものがついにバレてしまった。
心なんてあいつにもうない。
クリスマスの日に、綺麗になったわたしを見せつけて、認めさせて、惚れさせて、付き合おうって言わせて、散々罵って、悔しがらせて、振って終わりにするつもりだった。
それが私と友人の考えた初恋の裏切りに対する復讐のエンディングだった。
なのに、最悪の事態になってしまった。
英治くんにメールも電話もラインも全て通じない。
お家に行ってもいない。
どうしようも無くなって、縋ったネックレスは首に掛からない。
何故か留め具が壊れていた。
泣きそうになりながら懺悔の気持ちで衝動的に髪を切った。
落ちた髪を見て、英治くんが褒めてくれていた長い髪だったと気づいたのはその後だった。
ついにわたしは泣いた。
年始、約束していた神社に走った。朝から晩までいたけど、英治くんの姿はなかった。またお家に行っても彼の部屋の灯りはついていなかった。
チャイムは罪悪感から押せなかった。
三学期、学校が始まる。
わたしは一番に学校に着き、英治くんを待った。
彼の着く時間はいつも通りだった。
その顔を見て、わたしはつい見当外れの疑問を口にしていた。
謝罪なんて飛んでいた。
何にも変わってなかったから。
今までと何も。
あんな事があったのに敵意なんて怒気なんて微塵もない。
彼の優しい眼差しも。
愛しい笑みも。
初めて彼を見つけた時と同じだった。
ただ、呼び名と立ち止まるその距離だけが違っていた。
それが目と耳でわかって辛い。
怒ってもいないことも辛い。
暖かな背景は、風景は、一瞬でクリスマスの日のように、灰色になっていった。
その暖かな日々を取り戻したいわたしを、彼のその態度が否定し、友人が拒否を薦めてくる。
「もう近づいちゃ駄目だからね」
「ずっとだったんでしょ? 辛かったよね。みんなさくらの味方だからね」
「それ…何?」
そうだ。彼が浮気? そんなこと…
「年末に懺悔会が男子の中であってさ。ラインで。そん時柿本がうっかり自爆したんだよ。二股してるって」
「二、股…」
それはわたしの話だ。あいつとは付き合ってないけど、二股には違いない。
でもなぜか英治くんの話になっている。
もしかして英治くんも? だとしたら今までエッチなことを避けられてきたことに説明がつかない。
二股なんて、それ以外ない。
恥ずかしがり屋な彼は一度だってそんなことは求めてこなかった。
それに初恋の裏切りから性の匂いはなるだけ感じさせないよう振る舞っていたのもある。
それを感じとってくれているんだ。
そう思っていた。
わたし達は清い関係のままだ。
「しかも開き直って、まあ上から目線で男子を煽る煽る。クズだよね。一応そこは他言無用の会だったけど、流石に白井君とか怒ってさ」
「私と沙織にスクショきたの。でも白井君はさくらを傷つけるから学校始まって守れるようになるまでは黙っておこう、って。優しいよね」
「……それ見せて」
何が起きてるのかはわからない。
わかるのは、このままだと英治くんとは教室内で話せなくなりそうな予感だけだった。
「多分あいつ、さくらのことまだ好きなんじゃない?」
「だよね、そうだ! 白井君格好良いし、さくらは新しい恋を始めたら良いと思うよ!」
「いいからそれ見せてよ!!」
白井とかどうでもいいから!
焦燥に駆られたわたしに出来るのは、小学校からの友達の沙織と夕香に声を荒げて強請ることだけだった。
するとそこには。
まったく清くない英治くんが居た。
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