ep50 未完の復讐装甲:ジェットアーマー

「許さないぞ……空色の魔女ォオオ!!」


 屋上で身構えたアタシに対し、空中待機していたジェットアーマーも高度を落として突っ込んでくる。

 正確なスペックは不明だが、逃げ切れないなら倒すしかない。アタシにとっても未知数の相手だが、こっちだって負けるわけにはいかない。


 ――仇敵デザイアガルダを倒すまで、空色の魔女はまだ終われない。


「さあ、来な! あんたが何者だろうが、この空色の魔女がぶっ飛ばしてやんよ!」

「空色の魔女ォオオ!!」


 ジェットアーマーの方は相変わらず、アタシに怒りをぶちまけながら襲い掛かってくる。

 その怒りの正体は不明だが、それを問い詰めることもできない。不完全な脊椎直結制御回路により、装着者は過度の精神汚染で我を失っている。

 今のアタシにできることは、このジェットアーマーをまず止めることだ。



 ガァンッ!



「いててぇ……!? 特注のカーボン合金……ここまでの強度とはね……!」


 今回は一対一のタイマン勝負。屋上には余計なものも置かれていないし、こっちも真っ向勝負を挑むしかない。

 ジェットで空を飛びながら殴り掛かるジェットアーマーに対し、こちらもまずは左拳で殴り掛かって挑むのだが、アタシの強化された拳でもアーマーの強度に拒まれる。

 アタシの両親、本当になんてものを作ったのさ。今のアタシなら、全力を出せば車の装甲ぐらいは簡単に殴り抜くことができるのよ?

 そんなアタシの拳が通用しないアーマーの強度+素材の軽量性+ジェット推進による機動力。

 おまけに装着者が精神汚染状態でも、それらの機能自体はまともに機能している。


 ――これはどうにも、本気で冗談を言ってる場合でもなさそうだ。


「ちょいと負荷はかかるけど、こっちもギアを上げさせてもらうよ!」


 アタシは一度ジェットアーマーから距離を取ると、すかさず懐のボトルから酒を一口飲む。

 生体コイル用の燃料を補充しての稼働率アップ。多少の負荷はかかるが、タケゾー父を殺された時ほどではない。

 ある程度調整したパワーアップを施すと、まずは向かい来るジェットアーマーに左腕のガジェットを向けて――



 ビビュン!


 ズガン!



「グウゥ!?」


 ――トラクタービームで足を引っ張り、バランスが崩れたところを地面へと叩きつける。

 ジェットアーマーが帯電するカーボン合金であることは、アタシも設計図を見て確認済み。トラクタービームは接続可能だ。

 そして、アタシに向かってくる速度が凄まじかった分、その威力も絶大。流石のジェットアーマーも一度は倒れ込む。


「まだだ……まだだァァア!!」

「ちっ! それでも防御力は健在ってか! でも、こっちもこれでは終わらないよ!」


 無論、アタシもこれで終わりだとは思っていない。

 ジェットアーマーはすぐに立ち上がり、再度こちらに突進しようと構えてくる。

 アタシもそれは予測済み。あの強度な装甲を前にして、この一撃で終わるはずがない。

 こちらも再度、トラクタービームを相手の右腕に接続し――



 ビビュン――ゴォォオ!!



「え!? あ、あれ!?」


 ――投げ飛ばそうとしたのだが、逆にアタシの体の方がトラクタビームに引っ張られてしまう。

 こっちも生体コイルの出力と細胞の強化率を上げているのに、それがまるで歯が立たない。

 むしろ、アタシの方が地面へと叩きつけられてしまう。


「いってて……!? なんだか、急にパワーアップしてない……!?」


 幸い、まだこちらも動ける程度のダメージだ。三角帽を押さえながら、ジェットアーマーに向かって再度立ち上げる。

 さっきは問題なく対応できたのに、こちらを上回るジェットアーマーのこの出力アップは一体――


「まさか……ジェット推進機構による、格闘能力向上機能!?」


 ――そこでアタシの頭に浮かんだのが、設計図にも記載されていたジェット推進を応用した、パンチやキックを強化するシステム。

 これまでは使っていなかったが、もしかするとアタシとの戦いの中でAIが学習ラーニングしていき、装着者も扱えるようになったということか。


「こ、これはいよいよマズいね……! ただでさえ、こっちの想定を上回る相手なのに――」

「空色の魔女ォオオ!!」


 アタシが冷や汗を垂らしながら分析していても、ジェットアーマーの攻め手が緩むはずもない。

 むしろ新しく解放された機能が、アタシへ牙をむいてくる。


「ぐうぅ!? 本当にとんでもない発明品だよ! ねえ、あんた! アーマーのせいで精神が乱れてるんだろうけど、少しは話を――」

「お前だけは……お前だけはァア!!」

「がふっ!?」


 こちらもデバイスロッドを使って応戦するが、単純な格闘能力はジェットアーマーの方が上だ。

 試しにスタンロッドに切り替えて電流攻撃を仕掛けるも、怯む様子さえ見せない。

 外装こそ通電するカーボン合金だが、衝撃緩和素材による内装は絶縁体ということか。

 こちらの呼びかけも一向に通用しないし、何発かその強烈なパンチやキックをもらってしまう。


「ゲホッ……! 仕方ない! こっちも大技で勝負させてもらうよ!」


 このままではただいたぶられるだけ。アタシも思い切った一手を打つしかない。

 一度浮かせたロッドにスケボーのように飛び乗り、まずは距離を取る。


「待てェエ! 逃がすかァア!!」

「逃げる気なんてないさ! こっちもあんたに向かってもらわないと困るからね!」


 少し離れたところで、飛行しながら突進してくるジェットアーマーへと向かい合う。

 相手はアタシの両親が開発した、超高性能の戦闘アーマーだ。普通の人間相手にこんな技は使えないが、あれが相手ならばむしろ物足りないぐらいだ。



 ビビュン!



 まずはトラクタービームを使い、ジェットアーマーの右手とアタシの左手を結合。

 もちろん、これもさっきと同じように相手のジェット推進パワーでこちらの方が振り回されるのは予測済みだ。

 アタシもそれを計算に入れ、空中でロッドを右手に持ち直し、こちらからもトラクタービームを収縮させてジェットアーマーへと突っ込んでいく。


「うおぉおおお!!」

「オォオオオ!!」


 アタシもジェットアーマーも咆哮をあげ、お互いの距離が縮まっていく。

 狙うは交差の瞬間。お互いの移動エネルギーが重なったところで、ロッドによる一撃をお見舞いする。


 勝負は一瞬だ。

 アタシも両目を見開いて、その瞬間を狙う――




 ガシィイン!!



「ガフゥ!?」

「ようやく……捕らえたぞォオオ!!」




 ――だが、ジェットアーマーの方が一枚上手だった。

 アタシがロッドの一撃を叩き込む直前、左手でこちらの首根っこを掴んでくる。


 さらには、手の平に装備された衝撃波発生機構により――



 ズゴォオンッ!!



「ガッ……ハァ……!?」


 ――アタシの首へと衝撃波が叩きこまれる。

 それこそ、首が折れるんじゃないかとも思える一撃。本当に折れこそしないが、それでも一時的に呼吸ができなくなってしまう。


「空色の魔女ォ……死ねェエエ!!」

「や、やめ……!?」


 そこから今度は屋上の上で馬乗りされ、完全にマウントを取られてしまう。

 そしてアタシへの怨嗟の声を滲ませながら、ジェット推進パワーの乗ったパンチの嵐。



 ドガァアッ! ボゴォオッ!



「ゲフッ!? ゴホッ!? や、やめて……お願い……!」

「死ねェエエ!!」


 反撃の機会もなく、アタシはボコボコに顔面を殴られ続ける。

 思わず命乞いをするも、ジェットアーマーの拳が止まることはない。

 これほどまでの怒りをアタシに抱く理由は分からないが、このままでは度重なるダメージのせいで――



 キィィン――



「ハァ……ハァ……。も、もうダメだ……。魔女モードの維持が……」


 ――とうとう、アタシの方が体力切れを起こしてしまった。

 普通の人間だったら、何回死んでたか分からないほどのダメージだ。細胞の防御性能も回復性能も限界に達し、もう反撃する余力も残っていない。


「タ……タケゾー……!」


 このままアタシは殺される。わけも分からぬまま、誰とも知らない相手に恨まれながら殺される。

 何故か頭の中に浮かんできたタケゾーの姿を思いながら、アタシは目を閉じて死の恐怖に耐えるしかない――




「そ……空鳥……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る