ep49 想像外の相手が襲ってきた!?
「頼まれた……だって? 一体誰に?」
どうやらこの犯人二人、保育園を襲ったこと自体が目的ではなかったようだ。
どこかで何かしらの騒動を起こし、この
だが、それなら誰がこんなことを頼んだのだろうか? そもそも、何のために?
「お、俺らもそいつの顔は見てない。というか、全身を顔に至るまでの鎧で武装した男だったから……」
「全身を鎧で武装した男……?」
「あ、ああ。あんたをおびき寄せることだけ頼まれて、そこから先は何も……」
さらに犯人の話を聞いていくのだが、こいつらも詳細は知らないようだ。
全身鎧の男なんて、アタシの知り合いにもいない。
でも、アタシをおびき寄せたってことは、今もどこか近くで――
ゴォォォオンッ!!
「うんぐぅ!?」
――そう考えた途端、空気を震わせる音を響かせながら、アタシ目がけて誰かが突進してきた。
恐ろしいまでの突進力。まるで、車でも突っ込んできたようだ。アタシでなかったらお陀仏だったね。
こっちも吹き飛ばされながらだが、なんとかデバイスロッドに腰かけて空中飛行の態勢に入る。
思わずのけぞったせいで相手の顔も見れなかったが、後ろ向きに飛行しながら振り返ると――
「え!? そ、そんなバカな!? あ、あれって……ジェットアーマーじゃん!?」
「……!」
――そこにあったのは、両親が開発途中で亡くなり、アタシが引き継いだばかりのジェットアーマーの姿だった。
全身を覆い隠すアーマーを身に着けているが、各部に装備されているジェット推進は確かに機能している。
――間違いない。今あの中に誰かが入っている。
「見つけたぞ……空色の魔女ォオオ!!」
「くっ!? 全く状況が呑み込めないけど、狙いがアタシなのは確定みたいだね!」
色々と気になることはある。
それでも、ジェットアーマーを装着した人物はアタシに対し、怒りを込めた叫びをあげながら、執拗に追いかけてくる。
こっちも前方に体を向け直し、何度か後ろを確認しながらも振り切ろうと飛行を続ける。
保育園を離れた後、オフィス街へと突入し、あえて難しい場所へと入り込んで行く。
アタシ自身の飛行テクニックとスピードに信頼を置き、とにかく突き放そうとするが――
「俺から……逃げるなァアア!!」
「な、何てスピードだよ!? まだプロトタイプのはずなのに!?」
――飛行スピードもテクニックも、ジェットアーマーの方が上だ。
体中に装備されたジェット推進装置をうまく切り替え、アタシよりも巧みに空を飛んでいる。
入り込んだ場所で振り切るはずが、逆にこっちが先回りをされてしまう状況。これが初稼働とは思えないような飛行技術だ。
これほどまでに飛行技術に優れているのは、脊椎直結制御回路を始めとした両親の技術によるものだろう。
あれには制御を補助するAIも搭載されている。アタシもついさっき星皇社長に設計図を見せてもらったが、AIの補助のおかげでどんな人間であろうとも、熟練パイロットのようにジェットスーツを使いこなすことができる。
星皇カンパニーと両親の技術の結晶は素晴らしいのだが、今はその矛先がアタシに向いてしまっているという最悪の事態。
そして何より恐れるべきは、制御回路もAIもまだ未完成であるということ。
動作自体は十分すぎるほど補助できているようだが、肝心の改善点であった神経インタフェースによる精神汚染はそのままだ。
ジェットアーマーの装着者の正体は分からないが、アタシに対して激しく激昂しているのも、その精神汚染の影響で憎しみが増幅されている影響と考えられる。
「ちょ、ちょっと待ちなよ!? アタシ、あんたに何かしたのかい!?」
「待てェエエ!!」
「ぐっ!? 聞く耳すら持ってもらえないか……!」
なんとかこちらも高度を上げながら追走を掻い潜りつつあるが、気になるのはこのジェットアーマーがアタシをここまで執拗に追いかける理由だ。
精神汚染により、怒りの感情を過度に刺激されているのは分かる。だが、怒るにしても何か理由があるはずだ。
逃げながらその理由を尋ねてみるも、まるで話が通じそうにない。
精神汚染で感情も制御できていないためか、アタシを捕えること以外は頭に入っていないと見える。
このままでは本当に埒が明かない。
高度を上げながら逃げ続けてきたが、こちらももう最高高度に達している。
かなりの時間を逃げ回ったため、陽も落ち始めている。
アタシの生体コイルの稼働率も落ちてきているし、どうにか打開策を見つけないと――
「ちょこまかと……逃げるなァア!!」
ズグォォンッ!!
「ゲホッ!? な、何!? 今のは……!?」
――そうやって考えながら逃げていると、アタシの背中に突如衝撃が走った。
その衝撃でバランスを崩し、近くにあったビル屋上へと墜落してしまう。
ズシィンッ!!
「ぐふぅ!? い……いってぇ……!」
全身に激しい衝撃と痛みが走るが、なんとか頭から落ちることは回避できた。
デバイスロッドも近くに落ちてくれたので、すぐに拾って立ち上がる。
ジェットアーマーの方も、こちらに右手の平をかざしながら、徐々に屋上へと降り立ってくる。
「追い詰めたぞ……!」
「その手の平……何か仕込んであるね? ジェット推進力を攻撃へと転換した、衝撃波発生機構ってとこか……!」
その様子を見て、先程アタシを襲った衝撃の正体にも理解できた。
ジェットアーマーの手の平には、両親オリジナルのジェット推進機構と同じものが取り付けられている。
あれによって離れた距離からでも、相手を衝撃波で攻撃可能。アタシの両親が作ったものとはいえ、本当にデタラメでとんでもない武装だ。
「……とはいえ、逃げんのもここまでかね。生憎、アタシもおとなしくやられる気はないよ。こっちだって空色の魔女だ。その程度の衝撃波なんざ、屁でもないってもんよ」
これ以上の逃亡は難しく、今アタシ達がいる屋上には人の気配もない。
こうなったら、ここで勝負に出るしかない。
装着者は不明だが、相手はアタシの両親が開発していたジェットアーマー。まさか娘のアタシ自身がその戦闘試験第一号になるとは思わなかったが、もうやるしかない。
――アタシはデバイスロッドを構え、この場でジェットアーマーとの勝負に打って出た。
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