ep17 魔女をアップデートしよう!
玉杉さんと洗居さんが経営するバーも出て、タケゾーとの飲みも解散した。
その時に渡された、アタシの両親のものと思われるUSBメモリ。
帰って早々、パソコンで中身を確認してみたのだが――
「は? へ? ええぇ!? な、何これぇえ!? ヤバいなんてレベルじゃないじゃん!?」
――とんでもないデータが入っていた。
どうとんでもないかとか、説明できないぐらいにとんでもない。
とにかくヤバい。ヤバい・オブ・ヤバい。ヤバいの最上級でヤバイスト。
そうやって語彙を失ってしまうほどに、ヤバいデータであるのは間違いない。
――ここに載ってる技術、世界の五十年は先を行ってる。
「空間ホログラムによる、立体タッチ入力デバイスぅ!? 物体のデジタル信号化による、コンパクト収納技術ぅ!? 電気エネルギーを利用した、金属物運搬装置ぃ!?」
USBメモリに入っていたデータを見るたびに、その内容で絶叫を繰り返さずにはいられない。
データの内容はどれも両親の開発物なのだが、もうスケールが違う。SFとかそっちの世界の技術だ。
アタシの両親、マジでとんでもない発明家だった。
「ぶっ飛んだ技術も多いけど、未完成品も多いねぇ……。でも、これだったらアタシの方の技術で補える場面も……?」
ここにある開発データは実用化前で、実際に運用レベルまで達していないものがほとんどだ。
なんでこんなものが工場に隠されていたのかは知らないが、注目すべきはこれらの技術補完はアタシの力で十分可能ということ。
それが分かれば、アタシの技術者としての血が騒がずにはいられない。
「よーし! やるか! 奢ってもらった酒のおかげで体力は有り余ってるし、今日も開発パラダイスタイムだー! ヒャッハー!」
そうと決めた時には、アタシの手はもう作業台に向かっていた。
正直、なんだか燃えるんだよね。
両親が遺してくれた研究データをもとに、アタシの技術で完成させる。
――ちょっとしんみりもしちゃうけど、アタシがまだ家族と繋がってるって感じがするね。
■
「ふひ~……できた~。今回は丸一日で済んだねぇ」
そして徹夜も含め、無事に作りたいものは作り終えた。
作業台の上にあるのは腕時計型のガジェットが一つ。今回作ったのはこれだけだ。
両親の研究データの中から、今のアタシに必要そうなものだけを作ってみた。
性能面の調整も理論上は問題ない。これまでのレビューもあったから、それを参考にすれば調整するのは容易い。
やっぱ、レビューって大事。
「新境地の技術を使うことになったけど、不思議とアタシには理解できたんだよね。やっぱ、親子の因果ってもんなのかな?」
本来だったらこんな技術、丸一日どころか年単位での完成を予定しないと無理だ。
それでもできたのは、アタシがとったレビューのおかげか、はたまた親子だから成せる業か。
いずれにせよ、完成したからには使わずにはいられない。
アタシは左腕に完成したガジェットを取り付け、変身用のブローチも身に着ける。
カッ!
「ここ数日の活動もあったから、生体コイルの制御にもだいぶ慣れたもんだ。変身するのもスムーズだねぇ」
そして変身。空色の魔女、ここに参上ってね。
ただ、今回まず最初に試すべきは、新発明の腕時計型ガジェット。
まずはそれに軽く電気を流し込んで起動させてみる。
ブゥゥン
「おお!? 本当に空中に画面が出てきたよ!? GUIもプログラミングした通り、バッチリだね!」
そして眼前に浮かび上がるのは、パソコンの画面がそのまま表れたようなホログラム。
軽く触れてみると、問題なく操作できる。
マジスゲー。ヤバ味がすごすぎる。本当に未来の世界がアタシの手の中にあるじゃん。
「そいじゃ、次はこいつを試してみますか」
今度は起動させたガジェットをあるものへと向けて、ホログラムパネルの操作を始めてみる。
両親の研究データをもとに、これも使えるようにプログラムしておいたのだが、はたして――
ビビビビッ ビィィ
「うおおぉ!? 本当に収納できたぁ!? デバイスロッドがガジェットの中にぃ!?」
――その結果、期待通りの大成功。
アタシお手製のデバイスロッドは両親の物体デジタル信号化技術により、光に包まれながらガジェットの中へと入っていった。
ホログラム性の画面を見てみれば、デバイスロッドの保管状況が確認できる。
「そして、ここで出庫ボタンを押せば――うっおおおぉ!!??」
さらには出し入れも自由。軽くデバイスロッドを浮かせたりしてみたが、機能劣化なども見られない。
保管中は重さも感じないし、本当にこの腕時計さえしていれば、どこにだってデバイスロッドを持ち運べる。
現状、容量自体は大きくない。ロッドを入れるので精一杯だ。
それでも十分だし、容量の拡張は後からでもできる。
これって本当に現代の技術? アタシの両親、実は未来人だったりしない?
「ニッシシシ~! これは本当に、とんでもない大発明だよ! こんなものを遺してくれたなんて、父さんや母さんには感謝してもしきれないねぇ!」
まあ、両親の正体とかは重要じゃない。今のアタシからすれば、こんなとんでも技術を遺してくれたことが嬉しい。
ウチって、揃って技術者の家庭だったから、技術そのものがどんな高価な宝石よりも魅力的なんだよね。
工場を守れなかった己の不甲斐なさは悔しいけど、こんなプレゼントが眠ってたなんて、まさに棚から牡丹餅だ。
「よーし! それじゃあ、今回搭載した最後の一つ! アタシの能力との融合で可能にした、こいつも試して――」
「た、助けてくれぇえ!?」
「誰かぁあ!?」
「――って、何!? 何の悲鳴!?」
ガジェットに組み込んだ残りの機能も試そうとしたその時、
本当に何事よ? 今度は近所でコンビニ強盗?
この街、マジで事件が起こりすぎじゃない?
「まったく! 試運転の最中だってのに、これは先に現場急行しかないっしょ!」
結局、ガジェット最後の機能はまた今度か。
何か事件が起こっているなら、アタシも向かわずにはいられない。
もう魔女モードになっているので、ロッドに腰かけると、壁を越えて上空へとすぐに飛び立つ。
「なんだ、なんだ? 住宅街の人が逃げ回ってるぞ?」
そして騒動の元凶なのだが、上空から確認するとすぐに見つかった。
逃げ惑う人々と反対の方向に目を向けると、何やら危なっかしそうな光景が――
「クソがぁ……! 全員、ぶっ殺してやるぅうう!!」
「こ、今度は通り魔か~……」
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