ep11 持つべきものは頼れる友人ってね!

「お前、何があったんだよ!? 電話は繋がらないし、工場に行ったら差し押さえられてるし!」

「は? え? 電話? 繋がらないって――あっ」


 プレハブ小屋の扉を開けると、タケゾーが血相を変えて飛び込んで来た。

 そしてアタシの肩を掴むや否や、度重なる言及、追及、大興奮。

 アタシのスマホに着信はなかったはずだが、そりゃ着信がないわけだ。


 ――充電忘れて、電源落ちてた。

 今気づいた。ずっと開発やら試運転やらで、気にしてすらいなかった。


「それに、何なんだよ!? この小屋の惨状は!? 工場が差し押さえられたからって、ヤケ酒でもしてたんだろ!? しかも、こんなゴミ捨て場なんかで!」

「あ、ああ……。いや、これは……」


 さらにはプレハブ小屋の中を見て、アタシに説教してくるタケゾー。

 缶ビールやチューハイを燃料に、ずっと開発に没頭してたのを片付けてなかった。

 そりゃ、アタシだって工場を差し押さえられたのはショックだよ? でも、別にヤケなんて起こしてないさ。今は。

 傍から見れば、そう映るんだろうけど。


 後、このゴミ捨て場を馬鹿にするような発言はいただけない。

 ここはアタシにとって、宝の山なんだよ?


「し、心配させたのは悪かったよ。でも、アタシは本当に大丈夫だからさ。な?」

「本当に勘弁してくれよ……! お前にもしものことがあったら、俺はどうしたらいいんだか……! ううぅ……!」


 でも、これは流石にアタシも悪かった。

 鷹広のおっちゃんに工場を売り飛ばされたショックからの、技術者としての新境地への興奮で、連絡やら何やらが完全に頭からすっぽ抜けてた。

 こちらからも申し訳なさそうにすると、タケゾーは泣きながらアタシの体を抱きしめてくる。


 よしてくれないものかね? アタシだって、まだ眠いんだ。

 それに、いい男が涙なんて簡単に流すもんじゃないよ。

 そういうのは、惚れた女にでもやってあげなさい。


「それにしても、タケゾーはよくアタシがここにいるって分かったね?」

玉杉たますぎさんに聞いたんだよ。お前の所のおじさんにも聞いたんだが、分からないってなことを言ってたし」

「玉杉さんって……誰だっけ?」

「お前の借金を取り立ててた人だよ。……もしかして、名前知らなかったのか?」

「……うん」


 少し落ち着いたところで気になっていたのが、こんな連絡もつかない状況で、タケゾーがここを突き止めた理由だ。

 どうやら、ここを紹介してくれた借金取りさんに教えてもらったらしい。

 わざわざそこまで辿って調べてくれたと思うと、アタシも申し訳なさが半端ない。

 何かに夢中になると他のことを忘れがちだが、今後は気をつけよう。


 ――てか、借金取りさんの名前って、玉杉さんって言うのか。

 二年間の付き合いの中で初めて知った。


「そういや、鷹広のおっちゃんにも連絡入れてなかったや」

「連絡入れとけよ? あの人だって、心配してるはずだろ?」

「うーん……そうだろうけど、今は正直、話したくないかなぁ……」

「ん? あのおじさんと何かあったのか?」


 そんな中で鷹広のおっちゃんの話も出てくるが、あまり気分のいい話ではない。

 今こうして新たな場所と未知の発見で生きる希望を得られたが、空鳥工場を勝手に売り飛ばされた時は、ガチで死にたくなったんだよ?

 そんな人に、進んで会いたいと思う? 大人げないだろうけど、アタシはそんな気になれない。


 タケゾーもそのあたりの事情までは知らなかったらしく、アタシの方で軽く説明しておいた。


「そんなことがあったのか……。空鳥からすれば、裏切られた気分だよな。そりゃ、ヤケ酒もしたくなるか」

「だから、これはヤケ酒じゃないっての」

「じゃあ、何でこんなに缶が転がってるんだ? 小屋の中全体も荒れてるしさ?」

「これは……研究開発のため」

「……何の研究開発をしてたんだ?」


 鷹広のおっちゃんについての事情も、タケゾーは理解を示してくれた。

 やっぱ、おっちゃんの方がおかしいと思うよね? いやー、タケゾーが分かる男でよかった。

 普段は口うるさいけど、それもこれも元々の優しさ由来だからね。モテる男は中身からイケてる。

 こういう理解できる姿勢こそ、本当にイケてる男の証明ってもんよ。


 ――これで本当に彼女いないんだから、マジもったいない。

 適当に声をかければ、一人ぐらいはできるのに。


「それにしても、そのおじさんからは連絡とかなかったのか?」

「うん、ない。まあ、スマホの電源も切れてたし?」

「それならそれで、ここに来そうなものじゃないか?」

「そうかもしれないけど、そもそもおっちゃん、ここの場所も知らなさそうだよね? アタシのことを住ませてやるとか言ってたのに、言っちゃあなんだけど薄情なもんだよ」


 そんな隠れ色男のタケゾーとするのは、鷹広のおっちゃんへの愚痴・オブ・愚痴。

 別に厚意を全部無下にするわけじゃないけど、もうちょっと気にしてくれてもいいんじゃない?

 工場を勝手に売っ払った件といい、おっちゃんはどこか勝手すぎる。

 アタシのためを思ってやってくれてるのは分かるから、強くも言えないけど。


「それで? 空鳥はこれからどうするんだよ? 工場もなくなったから、仕事もないだろ?」

「一応は出張依頼の小口案件に対応するぐらいならできるよ」

「それって、ウチの保育園以外にあるのか?」

「……ない」

「……お前、営業下手だよな」


 そんな鷹広のおっちゃんへの不満はさておき、アタシも気にしている今後の生活についての話。

 一応はタケゾーの勤めてる保育園からの依頼は続けるけど、それだけでは収入が足りない。

 ある程度の貯蓄があるとはいえ、早く何か手を考えないと、また借金生活に逆戻りだ。

 働かざる者、食うべからず。世間とは実に世知辛い。


「うーん……。この能力があれば、別に技術職でなくても食っていけるかね?」

「能力? 何の話だ?」

「あ、いや。こっちの話。ニシシシ~」

「……?」


 アタシが手に入れたこの通称『魔女モード』があれば、配達業とかでもできるんじゃないかとも思ってみる。

 でも、そんなことしたら絶対に目立つよね? そんでもって、色々と面倒な話になってくる。

 はてさて、どこかに安定した収入源はないものか――




 グググゥ グゥ~~!



「……おい、空鳥。今のはお前の腹の虫か?」

「あっ。そういえば、ここのところまともに飯も食べてなかった」




 ――そんな難題を前にしているというのに、思わず気が抜けるようなアタシのお腹の虫のソロハーモニー。

 燃料源として酒は飲んでたけど、それ以外のものは何も口にしてなかった。

 いくらアルコールを生体コイルで電気エネルギーに変換できても、やっぱりそこは人間と言うもの。

 腹が減っては戦ができぬ。集中とハイテンションのせいで、そんなことさえ忘れてた。


「ハァ……そんなことだろうとは思ったよ。仕方ない。俺が飯を作ってやるから、台所を貸してくれ」

「おお!? タケゾーが飯を作ってくれるなんて、やっぱ持つべきものは親友だねぇ! お礼にキスしてやろうか?」

「い、いい、いらないって。いいから、台所に案内してくれ」


 そこに渡りに船とばかりに、タケゾーが料理を提案してくれた。

 よく見ると、手にはスーパーのビニール袋が携えられている。

 アタシの行動をある程度予想してたってことか。抜かりない男だ。


「そいじゃ、台所に――あっ」

「ん? 今度はどうしたんだ?」


 ここはお言葉に甘えてお呼ばれしようと思ったが、アタシは重大なことを忘れていた。

 アタシってこのゴミ捨て場に引っ越してきてから、ずーっと研究開発ばっかりしてたんだよね。


 そんなわけで――




「ちょっと待っててくんない? 今から台所を作るから」

「台所なかったの!? つうか、今から作るの!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る