第9話 科学のない世界
今日で最も信者の多い宗教は、数学で、次に科学だと言われています。
宗教は集団が同じ概念を共有して信じること、すなわち信仰によって成り立つものです。
キリスト教や仏教、儒教、イスラム教、ユダヤ教、ギリシャ神話、北欧神話、ローマ神話、日本神話(神道)、ヒンドゥー教など、世界には多くの集団信仰がありますが、全ての国の教育に取り入れられている数学は他の宗教と全く相反することがなく、全ての国々で受け入れられている共通の信じられる概念です。
同じように、科学も多くの国々で受け入れられていますが、神話や宗教的な概念と相反する面もある為、初期の頃は既に確立されていたその土地々々の宗教派閥の弾圧を受けることになりました。
科学の始まりは、初期の段階では宗教と切っても切れない関係にあります。
科学は身の回りのものや、私たち自身が何であるのかを探求する哲学から派生したものです。
初期の段階で最も世界に影響を与えた科学は、「地球」がどんなものなのかということです。
最初に世界に受け入れられたのは、紀元前4世紀の哲学者で、「万学の祖」としてその名をほしいままにしていたアリストテレスの考えた説です。
地球は世界の中心で静止しており、その周りに幾重にも重なって星や太陽、月などが回っているという「天動説」の元になった考え方です。
彼は「万学の祖」と称えられ非常に多くの功績をすでに残しており、天体の観察においても当時に技術で観測できる範囲で「天動説」の説明を決定的に覆すことが難しかったため、当時勢力を強めていたキリスト教にも「天動説」が正式に取り入れられ、より一層覆すことが困難な状況を作り出しました。
宗教観から考えると、この地球は唯一無二の存在で、その唯一の存在たらしめるには、「天動説」のように世界の中心は地球だけであるという考え方は、非常に多くの宗教により多くの信者を集める口実作りに有利に働きました。
結果として、キリスト教圏では「天動説」が絶対的な定説とされ、16世紀のコペルニクスがその定説を覆すまでは、「地動説」を唱えることは神への冒涜とみなされて、厳しい弾圧にあいました。
紀元前4世紀から16世紀までの長い間、主流だった「天動説」を今の人類のほとんどは信じていません。
しかし、少なくとも5世紀から15世紀末の中世の世の中では、そもそも「天動説」が絶対的な情勢だった。
中世の世の中では、科学という概念はなく、人々は神話に語られる万物の起源を信仰するほかなかった。
当時の封建社会との建前上の相性も良く、多くの西洋諸国や中東などでいち早く取り入れられた一神教が勢力を伸ばした。
ユダヤ教→キリスト教→イスラム教は、教義に反する自然哲学や科学的アプローチは異端として厳しく弾圧することができる体制を持っていた。
今日の歴史で名を残すほとんどの科学者は16世紀以降の人物であり、それ以前に科学者と言える人物は、古代ギリシャ人や古代エジプト人などの紀元前の人物である。
宗教と封建制が圧倒的な力を誇示する時代には、変人や異端者として歴史の闇に葬られた数多の科学者がいたのかもしれないが、教義や封建権力に反する書物は焚書といった弾圧手段で焼き払われ、目立った発展に繋がるきっかけを失ってしまっていたのである。
科学のない世界を、現代に生きる日本人はなかなか想像ができない。
価値観の全てにおいて宗教色に染まる世界では、日常生活も祈りや教義と結びついている。
熱心な信者は毎回の食事で、神に感謝を捧げてから食事を開始する。
朝起きても神に感謝を捧げる。
火を使う時も感謝を捧げる。
毎日お祈りをする習慣を持つ人もいる。
それが普通のことで、当たり前と思っている人も多い。
そういう価値観を尊重したり実践できないと、異端者だ、変人だ、悪魔崇拝だ、魔女だと揶揄されたり、罵られたり、村八分にされたり、破門されたり、処刑されたりと、時の宗教の支配体制の苛烈さが現れる場合もあります。
当時の人達には生きるためにも必須の行いや、儀式として子孫たちにも厳しく宗教を教え込みました。
宗教には良い面も確かにあります。
人に優しく、助け合いや、慈しみの精神を育てます。
盗みや殺人が良くないことで、悪いことをすると神様が見ておられるから、よく考えて行動しようと教義の上で人の精神の矯正を試みている。
もちろん、宗教が全てではないので、その宗教を信仰しているからといって犯罪が全て無くなることはないので、アプローチの1つでしかない。
しかし、宗教が原因の戦争や、宗教を理由とした対立、宗教による弾圧や征服、土着の宗教の駆逐や規制など、悪い面もあることは否定できません。
また、人類の歴史の上では、封建制や宗教が支配した世界の歴史は、人類の発展にブレーキをかけた。
結果として人類の発展を大きく遅らせる要因にもなったが、科学の発展によって奪われた人命と地球規模の環境破壊を天秤にかけると、どちらの世界観が良かったのかは一概には言えないところもある。
宗教支配による恒常的な停滞社会は、ある意味では保守的で安定していた。
科学はその巨大な既成体制に風穴を開けて、より多くの発展を生む急進派で、世界情勢を塗り替えたが、結果として世界大戦は科学無くして起こりえず、環境破壊も科学の副産物であることが多い。
宗教は一時期、政治や経済を牛耳っていたし、現在でも政治経済が宗教者主体で行われている国や地域もある。
科学も今は経済になくてはならない存在で、政治にも統計学などの数学や科学の産物が役立てられている。
天気予報も地球が回っていることを知らなければ生まれなかった。
現代人が科学技術のない世界が想像できなくなるほど、世界を塗り替えたのはた単純にすごいものだ。
作品中で時代感を出したいのであれば、どの時代の文化状況なのかを抑えておかないと、そもそもその時代感に合わないものを普通に登場させて読者に違和感を植え付けてしまうことになりかねない。
自身の作品に宗教や封建制を出すのであれば、どの時代の背景を作品で反映させるかも、作品の中の登場人物の行動に大きな影響を及ぼすことを意識していることが重要だと考えています。
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