第169話 覚醒⑩

 リアン達が集められ、演習場で能力を披露してから一週間後、リアン達は再び軍の一室に集められていた。


「ここにいる全員はセントラルボーデン国家の精鋭部隊として、これから活動してもらいたい」


 壇上に立つネビル大佐が演説していた。

 あの日から一週間かけて集められた人々は一般人も含めて六つの部隊に振り分けられた。ネビル大佐を頂点とし、その下に六人の部隊長がおり、それぞれの部隊を率いる。一つの部隊に隊員は三十人から三十五人程。総勢二百人程の精鋭部隊がこの日結成されていた。


『結局あの日見かけなかった連中も多数いるな。知ってる顔もいるが、まさかあいつも隊長に抜擢されるとはな』

 リアンが集められた面子を見ながらほくそ笑んでいた。


 そこからのセントラルボーデン国家の動きは早かった。以前から軍事大国への道を歩んでいたセントラルボーデンは結成した精鋭部隊を前面に出し、何かと理由を付けては他国へ侵略行為を続けていく。

 他国でも能力覚醒した人々は大勢いたがセントラルボーデン程、正規部隊として整備されておらず次々とセントラルボーデンの軍門に下っていった。


 しかしセントラルボーデンが快進撃を続ける裏で懸念される事例も報告されていた。


 人々が能力の覚醒を自覚して半年が経った頃、初めての症例が出たのはクルードが滞在する村ビンギルだった。


 相変わらずCウイルス等についての研究に没頭していたクルードの元にある日、倦怠感が酷いという村人が訪ねて来たのだ。


『歳をとれば人間誰しも体調は悪くなる。いちいち老人の相手なんぞしてられるか』


 初めはたいして気にもとめず、あしらおうとしていたクルードだったが、その村人のデータを見て驚愕した。

 データの上ではその村人はまだ三十代で写真を見ても健康的な男性であった事は明らかだった。だが目の前に現れた男は、髪は殆ど抜け落ち毛髪が数本残っている程度。体は痩せ細っており、頬はこけ眼だけはギョロついている為不気味さに拍車をかけている。データ上では身長は175センチとなっているがどう見ても目の前の男は150センチにも満たず、腰も曲がり前傾姿勢な為、余計に小柄に思えた。


『本当に同一人物か?』


 そう疑問を持ったクルードが検査をするが、全てのデータが目の前の男は同一人物であると証明していた。


『この男に何が起こった?まさか新たな副作用か?』


 流石のクルードも驚き、すぐに検査を始めたが原因を突き止めるには至らず、その間も男は変化を続け、一週間も経つ頃には男の面影などはなく、その姿は古い伝承等に出てくるゴブリンのようになっていた。

 もうその頃になると男とは簡単な意思の疎通等しか出来ず、男に何があったのか問いただす事も難しかった。


 ひとまずクルードはこれを『ゴブリン化症候群』と名付け、政府に報告した。政府は報告を受け、直ちに他に似た様な症例はないか調査すると、数箇所から化け物の目撃情報が寄せられた。


 事例①

 地方都市アルバニータにて、一人暮らしの男性が数日無断欠勤していると会社の同僚から連絡を受け、親族が男性の部屋を尋ねた。

 部屋に入った親族はまず異臭が鼻につき、室内が荒らされている事にすぐ気が付いた。親族はすぐに警察に連絡し、駆け付けた警察官と共に室内を捜索。その最中、人とは似つかわないが人の形をした小柄な化け物に遭遇した。化け物は襲いかかって来た為、警察官が発砲し化け物を射殺。化け物は呆気なく死亡したが部屋の住人は見つからずいまだ行方不明となっている。

 尚、化け物の遺体は近くの大学病院にて冷凍保存されている。


 事例②

「妻の様子がおかしい」と男性が女性を連れて救急を訪れた。

 女性は視線が定まらない上、呼吸も荒く、受け応えもままならなかった為、重大な感染症を危惧し個室で隔離して対応する事となる。

 血液検査等を行っている間に女性が落ち着いた為、検索結果が出るまでの間、女性は隔離したまま個室で休んでもらう事になった。

 翌日看護師が見回りの為部屋を訪れると醜い化け物がベッドの上で立っていた。驚いた看護師の悲鳴が響き、他の看護師や警備員が駆け付けると化け物は怯えるように部屋の隅に立っていた。

 駆け付けた人々も驚き、暫く化け物と対峙する事となったが突如化け物が攻撃的な姿勢を見せた為、警備員が発砲し命中。その後化け物も息があった為全員が見守っていたが数時間後に呼吸がなくなり死亡と判断された。

 残された家族には化け物の事は伏せられており、女性が突如行方不明になったと説明されている。

 実際女性は行方不明になったのか、化け物に喰われる等の被害にあったのかは不明である。

 尚化け物の遺体はこの病院の地下に冷凍保存されている。


 これらの事例はまとめられた報告のほんの一例に過ぎなかったが、報告書を見てクルードは楽しそうに笑みを浮かべていた。

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