第146話 復活⑭
火球が落下してくる寸前に飛び退きなんとか直撃は免れた四人は落下しいまだ燃え盛る火球を見つめていた。
一体何処からの攻撃だ?――
フェリクスの頭に疑問が浮かぶ。
アイリーンの表情を見ても困惑の色が見て取れる。ジョシュアに至っては驚愕の表情を浮かべている。
セントラルボーデンの攻撃だとすれば司令官であるアイリーンに今の攻撃が知らされていないとは考えづらい。ましてやアイリーンさえも巻き込む様な攻撃などもってのほかだ。
だとすれば世界連合の中の他国の仕業か? しかしそれでもここを狙うメリットはなんだ? 俺か? もしくはアイリーンを戦死に見せかけての暗殺?
どれにせよ、想定外の事態なのは間違いない。
フェリクスが悩んでいるとアイリーンが僅かに視線を向け問い掛けてきた。
「貴様らの攻撃ではなさそうだなフェリクス」
「ああ、多分な。全ての攻撃が俺に知らせれる訳ではないがあんな魔法を使える奴を俺は知らん」
その場にいた全員が当惑している最中、セシルが落下した火球を見つめているとある事に気付く。
「誰かいる」
セシルの言葉に全員が警戒態勢を取った。相手は敵か味方か? それぞれの立場から判断しなければならない。
火球の中からゆっくりと男が姿を現す。見た事もない軍服に身を包んだ男の背は標準的でやや細身の体躯。顔の感じからしても三十歳前後。それ程歳を重ねているようには見えなかった。
「今ので一人ぐらいは殺れるかと思ったが上手く躱したか、やはりそれなりの使い手と見て間違いなさそうだな」
男はそう言うと手にしていた仮面を被りフェリクス達に鋭い視線を送った。更に男が手を横に振ると、火球の炎は天高く燃え上がり、その炎は火竜へと姿を変える。
次の瞬間、全員の体に悪寒が走り鳥肌が立った。全員の本能が反応する。
『こいつは敵だ! 最大級の警戒を持て――』
誰かが指示する訳でもなく、アイリーンとセシルが詠唱に入るとジョシュアは守護につき、フェリクスは男の前に立った。
『天に轟くインドラ神よ――』
『風の精霊達よ我は――』
「何処の誰かは知らんがやるしかないな『
フェリクスの眼前に六つの光源を出現させるといきなり六本の光の矢を放つ。
放たれた光の矢が男に迫るが男は微動だにせず口元に笑みを浮かべていた。
「光魔法か、懐かしいな」
そう言うと男は迫り来る光の矢を拳で弾いていく。五本の矢を弾き、最後の六本目は掌で受け止めそのまま握り潰した。
「おいマジかよ」
「どうした、終わりじゃないよな?」
「はは、嫌な予感しかしねぇなおい」
フェリクスが剣を手に男に斬り掛かる。男はフェリクスの剣を躱しながら尚も笑みを浮かべ続けていた。フェリクスが更に速度を上げ、斬り掛かると男はようやく腰の剣を抜き、フェリクスの剣をいなす。
「俺が剣を躱しきれずに剣で受けたのは久々だ。やはり相当な手練だな」
「そりゃどうも。有難いお言葉だな!」
振り下ろすフェリクスの剣を次はしっかりと男が受け止めた。至近距離で互いの剣を振るう二人の男。そんな二人から少し離れた所でアイリーンとセシルが詠唱を唱え終わる。辺りは暴風吹き荒れて、上空はどんな光さえも通さない様な分厚く真っ黒な雷雲が覆っていた。
「フェリクス離れて!!」
セシルが叫ぶがフェリクスはセシル達の方を一瞥して、すぐに男の方へ向き直った。
「構うな! やれ!」
剣を振るいながらフェリクスは叫ぶがセシルは当然困惑していた。しかしアイリーンは表情を変える事なく右腕を掲げた。
「私は躊躇せんぞフェリクス。『
激しい稲光と共に凄まじい雷鳴を轟かせて、アイリーンが放った巨大な雷が二人を襲った。直撃を受けた二人のうち、フェリクスが衝撃で吹き飛ばされたが男はその場に留まり雷に撃たれ続ける。
「ちょっと! ひとの彼氏に何してくれてんのよ!?」
「うるさい! 今の状況で私が躊躇する理由なんかある訳ないだろう! 文句言ってる暇があったら貴様も早く放て」
「後で覚えてなさいよ『
「荒天のオンパレードだな。流石にまずいか」
男が腕を振り火竜を操ると、火竜は竜巻に向かって炎を吐き竜巻に向かって行く。火竜と竜巻が衝突すると、火竜の炎を巻き込み、周りに炎を飛び散らしながら竜巻は僅かに進路を逸れた。
「馬鹿な。私の
男の様子を見て、アイリーンも流石に狼狽える。
上空にはいまだ分厚く黒い雷雲がかかり雷鳴が轟いていた。風は吹き荒れ、火竜が散らした炎がそこらかしこで燃え上がっている。
少し離れた位置まで飛ばされたフェリクスにリオが駆け寄る。
「大尉、大丈夫ですか?」
「まだ痺れてる。迂闊に俺に触れるなよ」
「なんですか? 俺に触れると火傷するぜ、的な感じですか?」
「感電するって言ってるんだよ!」
こんな時でも少しふざけるリオにフェリクスが思わず鋭く突っ込んでしまう。
「それで、なんだこの光景は? ここは地獄か?」
「ええまさに地獄絵図ですが、残念ながらここはまだ現世です。私が
リオの真剣な表情にフェリクスも思わず息を飲む。
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